なぜアルゼンチンとウルグアイは双子でありながら育てられた家庭が異なっていると言えるのか

双子でありながら育てられた家庭が異なっているのがアルゼンチンとウルグアイだ。

アルゼンチンとウルグアイは双子のようなもの

アルゼンチンとウルグアイは双子兄弟のようなもの。この両国の関係をうまく捉えているのはウルグアイ出身の経済分析家ニコラス・サルディアス氏である。同氏は「アルゼンチンとウルグアイは育てられた家庭が異なった双子だ」と指摘している。(「インフォバエ」(5月23日付)から引用)。ウルグアイの場合は国家形成にブラジルとアルゼンチンとの領土争いの中から誕生している。

牛肉の値上がりに取り組む両国の違い

アルゼンチン政府は国内での牛肉の価格の高騰を抑えるべく5月に牛肉の輸出を30日間停止するという出来事があった。昨年の牛肉の価格が74%の上昇し、今年もそれを繰り返す方向に向かっているからだ。

また、今年のインフレはほぼ50%近くまで上昇すると予測されている。

アルベルト・フェルナンデス大統領とクリスチーナ・フェルナンデス副大統領(元大統領)の政府は市民が購入する食料品の中で重要な位置を占める牛肉の高騰は市民生活を苦しいものにさせ(年間の一人当たりの牛肉消費量50キロ)、またインフレの上昇を煽ることになるというのが理由で牛肉の輸出を停止させたのである。

その狙いは国内で毎月8000トンの牛肉が消費されているが、輸出向けから5000トンを国内市場に回して供給過剰を生ませて価格を下げようという考えであった。

クリスチーナ・フェルナンデス副大統領の夫(故人)であったネストル・キルチネール元大統領がその前例をつくり180日間の牛肉の輸出停止するという出来事があった。しかし、その効果は表れず、遂に10年間それを延長するということになった。その影響で牧畜業者や牛肉加工業者は致命的な被害を被った。同じ過ちを現大統領と副大統領のフェルナンデス両氏がまた繰り返したのである。

根本的にこれまでアルゼンチン政府にとって輸出は常に二次的なものだという考えがある。だから輸出に課税したり、色々と規制を設けるというのが常なるパターンで、競争力を失わせる傾向にある。その為、輸出不足からアルゼンチンは常に外貨が不足する傾向にある。

ところが、似たような状況にあった隣国のウルグアイは別のやり方で国内の牛肉の価格を下げた。

ウルグアイで牛肉が値上がりした2005年に牧畜大臣だったホセ・ムヒカ氏は牛肉の輸出加工業者に国内で人気のある切り方での肉を国内市場に供給することを要請し、それ以外はこれまでと同様に輸出に向けさせた。そしてムヒカ氏がその後大統領になってから2011年にも同じような策を取った。アルゼンチンが行っている牛肉の輸出停止ということは一切実施しなかった。

しかも、ウルグアイが国内の牛肉の価格の上昇を抑えるのに採用した手段はブラジルとパラグアイから安価な牛肉を輸入したことである。そして牛肉の輸出業者の輸出を阻止するようなことは一切しなかった。

例えば、2019年に牛肉の国内価格が35%値上がりした時にウルグアイ政府は国内で消費される牛肉の6%に相当する量を輸入。その効果もあって、2020年には国内消費量の13%に相当する量を輸入して逆に牛肉の市場価格は4%値下がりした。

しかも、輸出向けの牛肉は品質の高いもので、それを敢えて国内に向けさせるようなことを政府はさせなかった。そしてあくまで外国の顧客との関係を維持させたのである。

両国の政党間の違い

更に、ウルグアイ政府は食肉協会を創設させたが、それは牛肉などの価格をコントロールする機関ではなく品質などを管理し、外国市場への販売を促進するためのノウハウを提供する組織となっている。

このような取り組みが人口僅か350万人の国で行うことができているのである。というのも、ウルグアイは政党間の政策にあまり違いがないということで、どの政党が政権についても野党もそれに協力する姿勢にある。歴史的には自由社会主義のコロラド党と保守の国民党が政権を二分していた。

ところが、2005年から2020年の15年間だけは唯一左派系の拡大戦線が政権に就いた。タバレス氏、ムヒカ氏、そしてまたタバレス氏と政権が続いた。

しかし、2020年からはまた伝統ある2政党のひとつ保守党に政権が戻り、ルイス・ラカーリェ・ポウ氏が大統領に就任している。彼の父親も1990-1995年まで大統領だった。拡大戦線が政権に就いていた時も野党に回った国民党とコロラド党とも政策面において余り開きはなかった。

ところが、ウルグアイと双子と称され人口4500万人のアルゼンチンはウルグアイとは全く様相を異にするのである。ウルグアイのような政党間の調和はなく、寧ろ強い対立関係にある。

しかも現在政権に就いているアルベルト・フェルナンデス大統領とクリスチーナ・フェルナンデス副大統領の両氏は戦後のアルゼンチンのシンボル的な存在になっている将軍であり、また政治家であったフアン・ドミンゴ・ペロン大統領の流れを汲む正義党(ペロン党)に属する議員だ。ペロン将軍の治世は権威主義的であり、またポピュリズム派でもあった。ペロン将軍は当時のイタリアの独裁者ムッソリーニに影響を受けた人物で、そこから彼の権威主義が生まれ、また労働者を味方につけたポピュリズム派でもあった。その影響は現在も残っており、アルゼンチンの労働組合は正義党を支持する傾向にある。だから、正義党ではない中道右派のマクリ氏が大統領に就任した時に労働大臣を決めるのに正義党支持の労働組合の顔色を窺ったというエピソードもある。

ウルグアイが行ったようにブラジルやパラグアイから安価な牛肉を輸入して国内の牛肉の値上がりを抑えようとする試みは一切ない。しかも、輸出業者がもっている外国の顧客からアルゼンチンの牛肉への信頼を失う可能性もあることへの配慮もなく敢えてこのような無謀な策をとったのである。

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスとウルグアイの首都モンテビデオは直線にして僅か200キロしかない。ところが、両国の政策の開きはあまりにも大きい。