アメリカ、プリンストン大学の真鍋淑郎氏が物理学賞としては極めて異例の気候変動の研究成果を称えられ、ノーベル賞受賞が決まりました。素晴らしい快挙です。日系人ですので日本のノーベル賞のカウントにはなりませんが、移民一世であり、日本人のブラッドをお持ちの方にお見受けします。おめでとうございます。
この真鍋氏がノーベル賞の過去の歴史の流れを変えてでも物理学賞の受賞者になりえたのは世の中が温暖化問題について最大の関心を持ち、カーボンゼロを唱え、社会の仕組みそのものを変える源泉の研究をされたからです。
真鍋氏は太陽から入る熱と地球から出る熱の収支を数値化する方法を示した方です。もちろん、現在でも様々な意見がありますが、少なくとも骨格となる論理を作り、多数の科学者や専門家がその理論を支持している以上、画期的成果なのでしょう。
また物理学賞というとなかなか一般人にはなじみが少ない研究が多い中で今回は多くの人が「なるほど」と思える形での受賞だったと思います。その意味ではスウェーデン王立科学アカデミーは粋だったともいえそうです。
さて、そのような嬉しい話とは裏腹にここにきて資源価格の高騰ぶりには目を見張るものがあります。資源が上がれば他のモノの価格に波及するわけですが、私が北米で生活をしている限りでもこの1年、高くなったなぁ、と切実に感じるものがあります。私の消費はどうしても生活必需品が主体になりますが、肌感覚では10-20%は確実に上がっている感じがします。
いわゆるインフレ率というのは非常に広い範囲の物品に対して荷重をかけた計算方法をとりますが、一般人の日常生活ではごく決まったモノの消費を繰り返しているケースがほとんどです。その中で食料品や光熱費の支払いは必須です。テクノロジー絡みのサービス(通信など)は技術革新で価格を抑える余地があるものの資源は需要が偏れば当然、しわ寄せがくるものです。
原油価格は7年ぶりの価格を付け、ニューヨーク市場では79ドル台となっています。私は昨年、原油価格がマイナスをつけた際、直後に原油関連株とガス関連に結構な投資をしたのでポジショントークのように聞こえるかもしれませんが、まだ上がるというより上がらざるを得ない状況にあるとみています。
今回、市場を狂わせている一つの原因は中国にあります。中国が石炭発電を絞っており、その代替化がスムーズでないことが大きな理由です。中国では確かに再エネ発電が急速に伸びているのですが、いかんせん国家のガタイが大きいこの国は経済成長する分だけエネルギー消費量も当然増えます。
2020年の世界の石炭発電の53%、77テラワット時を中国が占める事態にあるわけで、石炭発電を減らすといっても一筋縄ではありません。
そこで中国は不足分を液化天然ガスにシフトしようとしていますが、これには生産限界があります。需要サイドも欧州がロシア経由のガスでは賄いきれないため、アメリカを含めた各地から調達に急いでいます。これが天然ガス価格暴騰の理由です。そうなるとそれ以外の国ではスポット価格がみるみるうちに上昇する状態となり、買い負けが起きます。となれば、天然ガスを入手するのが難しくなるため、やむを得ず原油の調達を増やすというのが現状です。
つまり、皮肉なことに真鍋先生が温暖化の理論を発表したことで最もよくないとされる石炭発電が矢面に立たされ、再エネも進めたいけれど現実解は液化天然ガスが一番よい、となり、奪い合いになったということです。石油ショックの際のトイレットペーパー事件なんて比較にならない話です。
この話、とどまるところがあるのか、というのが私の純粋な疑問です。答えに窮するでしょう。真鍋氏がノーベル賞を取ればより温暖化に対する人類の気持ちは高まります。冬に向かい、暖房の需要もあります。しかし、液化天然ガスを日本がスポット買いする必要があるならかなり厳しいでしょう。原油の値段は上がったといってもかつて100ドルを超えていた時に比べればまだまし、ということで最後のよりどころになる、というのが私の読みです。
これぞカオス(混とん)と言わずしてなんというのでしょうか?世の中、無常です。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月6日の記事より転載させていただきました。