眞子さまの複雑性PTSD、その正体は?本当に完治は難しい?

日本のプリンセス眞子さま、近いうちに民間人になられるのかもしれませんが、複雑性PTSDになられたと宮内庁が公表しました。その理由としては、眞子さまご本人への、そして小室氏および小室家への度重なる批判にさらされたこととされています。

眞子様 NHKより

小室氏を巡っては、割と最近でも多くの国民が感情を逆なでされた結果となった文書の公表がありました。公人に準ずる立場の方としてはイメージ戦略がうまくいかなかった面もあり、批判がエスカレートした面もあったかもしれません。その中で眞子さまが複雑性PTSDに陥られたのもやむを得ないことなのかもしれません。

しかし、複雑性PTSDは日本ではまだあまり知られていない異常心理です。一部の報道による偏った情報で正しい知識が社会的に共有されないとしたら社会的損失です。そこで、ここでは複雑性PTSDの心理学的解説と、一部の医師が言うように完治が難しいものなのか、その本当のところをご紹介したいと思います。

複雑性PTSDとは?

まず、複雑性PTSDとは比較的長期に渡ってストレスフルなエピソードが繰り返されることで発生する自己概念、言い換えれば“自分という意味”が破壊された状態です。症状は感情の不全や解離症状、身体愁訴、無力感、破壊的衝動、絶望など多岐にわたりますが、全て「自分という意味」が破壊されたことによる反応です。ご本人の性格や生き方のスタイルでどの症状が強くなるか変わってきます。

心理学では「記憶」の障害としても考察されています。私たちの記憶は個別のエピソードの記憶である「エピソード記憶」と、その集積から抽出した“物事の意味”である「意味記憶」に分けられています。ここで言う意味には「価値」も含まれています。“自分という意味”は言い換えれば、自己価値についての記憶とも言えるわけです。

自分についての意味が書き換えられる

エピソード記憶と意味記憶は図のような関係にあり、関連するエピソードを繰り返すほど個別のエピソードは記憶されなくなります。代わりに、「意味」すなわち「価値」についての記憶がどんどん上塗りされていきます。

自分とその拡張物である親族への批判というエピソードが繰り返されると、性格によって受け止め方は違いますが「永遠に批判される私たち」「呪われ続ける私たち」「みんな、ずっと私たちの敵」というような悪い意味が心のなかに定着してしまうのです。眞子さまのご性格はその本当のところはよくわかりませんが、上記のような悪い意味に取り憑かれて苦しんでおいでなのかもしれません。

複雑性PTSDは治らないものではない科学的理由

では、このような複雑性PTSDはどう治せばよいのでしょうか?答えはシンプルです。複雑性PTSDに至るプロセスがわかっているのですから、その逆のプロセスを経ればいいのです。

実は、記憶は思い出すたびに「整理・編集」されて上書き保存されます(杉山ら,2015)。価値や感情に関わる記憶も例外ではなく、思い出せば書き換え可能です。私たち心理学者が行っている心理療法では少しずつ思い出していただいて、少しずつ新しい意味を見出して「自分という意味」をいい意味で書き換えていただく作業を行っています。

時間はかかりますが、ご本人に回復する意志があり、悪いエピソードを繰り返す環境から抜け出すことに成功していれば、私の臨床経験からの印象では概ね改善します。完治は非常に難しいと言う医師も一部にはいるようですが、これはご本人に回復する意志や希望が持てない場合、または悪いエピソードを繰り返す環境がずっと続いている場合だと思われます。

心理的な問題からの回復には「プラセボ」、回復への期待の効果が極めて重要です(Lambard,1992)。「複雑性PTSDは治らない」というイメージが広がると、本当に改善が難しくなってしまいます。この記事を読んでいただいた方には、どうか「複雑性PTSDは条件が揃えば改善する、場合によっては完治もありえる」とご認識いただいて、できれば多くの方にお伝えいただければ幸いです。

おわりに

さて、では眞子さまはなぜ複雑性PTSDに陥ったのか、そしてこの先どうすればいいのでしょうか?答えは一つです。小室氏ともども批判にさらされない立場と環境に身を置きながら、できれば良質なカウンセラーとともに少しずつ思い出して「自分という意味」とそれに大きな影響を与えたエピソードの記憶を整理していけばいいのです。

ただの心理学者の私が評することではありませんが、宮内庁は複雑性PTSD公表が批判を和らげると見込んで公表したのではないかと察しています。これが功を奏して、そして小室氏は最早私人ではなく公人に準ずる(もしかしたら公人そのもの?)立場であることを認識して、愛される人としてのイメージ戦略を大切にしていただければと思います。一言、心理学の末席のものが小室氏に助言するとしたら、「批判に抵抗する態度は、更なる批判を生むだけ」です。

読者の皆様には、ぜひ複雑性PTSDの心理学的なホントのところ、とりわけ「プラセボ」の重要性についてご理解いただければ幸いです。

<参考文献>
杉山崇・越智啓太・丹藤克也(編)(2015)記憶心理学と臨床心理学のコラボレーション,北大路書房
Lambert MJ. 1992 Implications of outcome research for psychotherapy integration. In Norcross JC &Goldfried MR (Eds.), Handbook of psychotherapy integration. New York: Basic.

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
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