欧州代表的カトリック教国の「汚点」

世界13憶人の信者を誇るローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁に5日、震撼が走った。欧州最大のカトリック教国、フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになったからだ。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。

CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(CIASE公式サイトから)

バチカンニュース(独語版)は5日、仏教会の聖職者の性犯罪報告書の内容をトップで大きく報道した。「フランス、聖職者の性犯罪に関する新しい報告書の恐るべき数字」という見出しだ。バチカンのマテオ・ブルーニ広報局長は、「フランシスコ教皇は報告書の内容にショックを受け、遺憾だと述べた」と伝えている。

今回公表された報告書は独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたものだ。フランス司教会議が2018年11月、調査を依頼したもので、約2500頁に及ぶ。犠牲者の80%は10歳から13歳までの少年であり、20%は異なる年齢層の少女だ。その行為はほぼ3分の1はレイプだった。

CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(Jean-Marc Sauve、元裁判官)は5日の記者会見で、「犠牲者は恐るべき数に上る。犠牲者は苦しみ、孤立、そしてしばしば恥と罪悪感に苦しんできた。何年も経った今でも彼らの苦しみは続いている」と述べる一方、「教会は2000年初頭まで犠牲者に対して関心を示さず、沈黙してきた」と指摘し、教会は過去の蛮行に対し責任を認めるべきだと強調した。

調査は21人の弁護士、医師、歴史家、神学者らが全国を巡回し、教会、司法、検察庁、メディア調査、被害者の証言のアーカイブ資料のデータに基づいている。その上、教会、裁判所、警察の犯罪記録と数百人の被害者への聞き取り調査が行われた。委員会関係者が調査で投資した総時間は2万6000時間にもなったという。

報告書は現在、同国司教会議に提出されている。委員会は被害者への早急な補償を提案している。多くの訴訟は既に失効しており、法廷に持ち込むことはできない。調査委員会は、事件が法的に禁止されている被害者を含め、すべての被害者に対して補償するように推奨する一方、「教会法の改革と聖職者の教育と訓練の刷新が必要だ」(ソーブェ委員長)と主張している。報告書によると、「教会は過去、性犯罪を犯した聖職者を別の教区に移動させるなどをして事件を隠蔽した。過失、沈黙、教会の自己保身のアンサンブルだった」という。

元裁判官のソーヴェ委員長は、「教会関係者は犠牲者に、教会信者に、そして社会に対して蛮行の責任を負わなければならない。聖職者の性的虐待はもはや貞操法の違反として糾弾されるのではなく、人の生命と尊厳への攻撃だ。教会法の改革が重要だ。現行の教会法では、司教が行使する権限が大きすぎて利益相反につながる可能性がある。教会法に基づく裁判では犠牲者はその場に参加できない。これを早急に是正すべきだ。また、教会の『告白の秘密厳守』についても聖職者の未成年者への性的虐待の場合、調査の障害となってはならない。同時に、教会の内部監視メカニズムの強化が重要だ」と具体的に助言し、教会内で支配的な従順原理の見直しを求めている(ちなみに、ローマ教皇庁は2019年12月に教会法を改定し、13世紀から施行されていた聖職者の「告解の守秘義務」を撤回している)。

報告書を教会関係者に提出する際、犠牲者の代表の1人が、「あなた方は人類の恥だ」と述べている。委員会代表が、「聖職者の性犯罪に対して、素朴さと曖昧さが支配した時代は終わった」と強調したのは印象的だった。

仏教会司教会議議長のエリック・ド・ムーラン=ビューフォート大司教は、「被害者に許しを乞いたい。このようなスキャンダルを再発させないために必要な措置を行う」と述べた。フランス教会司教会議は3月に開催した春季総会で聖職者の性犯罪対策の改善のため11項目からなる決議案を採択している。11月の司教会議では報告書内容を更に話し合うという。そして来年から犠牲者への補償金の支払いを開始することになっている。

聖職者の未成年者への性的虐待が多発する背景には、「聖職者の独身制」があることは間違いない。バチカンで昨年10月、3週間、開催されたアマゾン公会議で既婚男性の聖職の道について話し合われ、アマゾン地域のように聖職者不足が深刻で教会の儀式が行われない教会では既婚男性が聖職に従事することが認められることになったが、聖職者の独身義務の廃止までは踏み込んでいない。

カトリック教会の独身制は「ドグマ」ではなく、「伝統」に過ぎないことは前教皇ベネディクト16世も認めている。キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の多くの聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由があったという。

カトリック国のフランスで過去4年間で7人の神父が自殺したという。同国司教会議が昨年実施した「聖職者の健康調査」で明らかになった。バーンアウト(燃え尽き症候群)、憂鬱、肥満、孤独などがフランスの聖職者が頻繁に直面する課題となっているという。具体的には、2%の神父は自身がバーンアウトと感じ、約40%はアルコール中毒であることを認めている。神父の多くは孤立し、孤独に悩んでいるのだ。

参考までに、フランス教会を過去震撼させた聖職者の性犯罪事件としては通称「プレナ神父事件」と呼ばれる事件がある。元神父のプレナ被告は1971年から91年の間に、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された。元神父は罪状を認めたことから、教会法に基づき聖職をはく奪された。公判では元神父に性的虐待を受けた犠牲者たち(当時7歳から10歳)が生々しい証言をした後、元神父は、「良くないことだと分かっていたが、衝動を抑えることができなかった。上司の聖職者に相談したが、適切な指導を受けなかった」と説明した。

もっと衝撃だったことは、同元神父が公判で、「自分も少年時代、同じように聖職者から性的虐待を受けたことがあった」と告白したことだ。「プレナ神父事件」はフランソワ・オゾン監督により映画化「グレース・オブ・ゴッド」(2018年制作、フランス・ベルギー映画)されている(「元神父は性犯罪の犠牲者でもあった」2020年1月23日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年10月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。