「寄生エネルギー」再エネが宿主を殺す(アーカイブ記事)

池田 信夫

いまだに「再エネは火力や原子力より安い」という誤った話が新聞の社説に出るので、昨年10月10日の記事を再掲します。

LNGの不足で電力危機がやって来る

ヨーロッパで、エネルギー危機が起こっている。イギリスでは計画停電が起こり、電気代が例年の数倍に上がった。この直接の原因はイギリスで風力発電の発電量が計画を大幅に下回ったことだが、長期的な原因は世界的な天然ガスの供給不足である。

こういう現象は2020年から始まっていた。昨年末には世界的なLNG価格の上昇が起こり、日本でも電力危機が起こった。この原因は単なる寒波ではなく、ヨーロッパ各国政府が化石燃料への投資を抑制していることだ。今年も天然ガスの価格は、昨年末と同じレベルになった。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構

1970年代に世界経済は、深刻な石油の供給不足とインフレを経験し、特に資源のほとんどを中東から輸入していた日本経済は大きな打撃を受けた。この石油ショックをきっかけに、通産省は資源を安定供給する戦略を立て、原子力開発や石油備蓄などの政策を行ってきた。

しかしその努力は2011年の福島第一原発事故で挫折し、民主党政権は再エネに巨額の補助金を出すFIT(固定価格買取制度)を実施した。再エネは、いったん投資したら限界費用はゼロに近いので、それで入札しろというのが再エネ活動家の言い分だ。

限界費用とは設備投資のコストを無視して追加的に1単位発電するコストだから、ここで安田陽氏のいう「短期限界費用」で価格をつけると、電力供給を維持する固定費が回収できない。燃料の必要な火力発電の限界費用は再エネより高いので廃止される。

再エネのコストが安いようにみえたのは、このシステム統合費用を負担しなかったからだ。おまけにFITで再エネの電力は全量買い取り、火力がそれを調整するために出力を落とすと設備稼働率は落ちるので、誰も火力に投資しなくなる。

再エネは大手電力にただ乗りする「寄生エネルギー」

北米の石油や天然ガスを採掘する油田・ガス田(リグ)は、ピーク時の1/4以下に減った。ヨーロッパ各国政府が、化石燃料の固定費を無視して限界費用で価格をつけるメリットオーダーを採用し、化石燃料への投資を減らすように誘導したからである。

北米の油田・ガス田の数(楽天証券

こういう問題が起こる原因は単純である。再エネの限界費用は停電防止コストを含まないからだ。停電を防ぐにはバックアップが必要だが、再エネ業者はその設備コストを負担しないので価格が安いのだ。

これは化石燃料への投資の逆インセンティブになる。エネルギー設備は長期投資なので、2030年に世界全体でCO2排出量を半減させるという目標は、現在の化石燃料への設備投資を減らす誘因となる。その結果が今の電力危機である。

要するに再エネは化石燃料に寄生して発電する寄生エネルギーであり、自立して発電できないのだ。それが今までのように総発電量の2割足らずだったら、大手電力会社にただ乗りできた。圧倒的に大きい電力会社が供給責任を負ったので、再エネは停電防止のコストを負担しなくてもよかったのだ。

バックアップ費用を含めると再エネは火力や原子力よりはるかに高い

しかし電力が自由化され、再エネが主力電源になったら、そうは行かない。電力会社の送電部門は別会社になり、送電量と価格は電力広域的運営推進機関が決める。自由化された電力会社(発電部門)は供給責任を負わないので、採算のとれなくなった火力は閉鎖する。

それがいま起こっていることだ。あわてた資源エネルギー庁は「閉鎖する火力は報告せよ」という行政指導をしているが、寄生虫がその生命を維持する固定費を負担しない歪んだ料金体系では火力の閉鎖は止まらない。

再エネの稼働率は約20%だから、残りの80%の悪天候の時間を埋める方法は、基本的には蓄電かバックアップ電源しかない。蓄電池のコストは発電コストの数百倍であり、水素やアンモニアは天然ガスの10倍以上のコストがかかる。

だから蓄電コストを含めると、再エネ100%のコストは69~95円/kWh(今の家庭用電気料金の4~5倍)にのぼる。2050年カーボンニュートラルを再エネだけで実現すると、統合費用を含めた電気代は4倍以上になる、というのがエネ庁の有識者会議で発表されたRITEの試算である。

現実にはCO2排出ゼロどころか、天然ガスの供給がちょっと落ちただけで、今のようなパニックが起こる。「2050年カーボンニュートラル」を本当に実行したら、さらに深刻な第2の石油ショックが起こるだろう。

日本でも多くの火力発電所の採算がとれなくなって退役したので、今年の冬は計画停電が必要になるかもしれない。そしてまた多くの新電力の経営が破綻するだろう。寄生虫が宿主を食いつぶすと、寄生虫も死んでしまうのだ。