邪魔なメディアを徹底して潰すマドゥロ大統領のねらいとは

マドゥロ大統領は政権永続のために邪魔になるメディアを徹底して潰している。

政権を永続させるために政府に不利なメディアは潰す

社会主義政権を誕生させるとして1999年に軍人ウーゴ・チャベス氏がクーデターを遂行して政権に就いた国、南米のベネズエラ。2013年に病死したチャベスの跡を継いだニコラス・マドゥロ氏は自らの政権を永続させるためにますます独裁色を強めている。また、彼の後継者には息子のニコラシト・マドゥロ氏を大統領にさせる構想を描いている。北朝鮮のような国家を目指しているようだ。

マドゥロ氏が政権に就いてからはメディアへの規制がチャベス以上に厳しいものになり、ベネズエラから日刊新聞は姿を消した。自由に報道できるテレビやラジオも同じく消滅した。残っているメディアは政府の厳しい監視下にある。チャベス前大統領の政権下でもメディアはコントロールされていたが、マドゥロ大統領が実施しているほどには統制が厳しいものではなかった。

マドゥロ氏がメディアを統制するのに使う手段はまず買収して公営化させる。それでも政府の方針に従わない報道を続ける場合は権力でもって閉鎖を余儀なくさせている。日刊新聞社の場合は新聞にする紙の供給を中止するといった手段を用いた。

自由に報道できるメディアが消滅したことから一つの出来事が報道されても「それが真実なのかフェイクニュースなのか判断がつかなくなっている」とジャーナリストのアンヘル・ラモン・オリベロス氏が5月22日付アルゼンチン電子紙「インフォバエ」に語っている。

テレビやラジオでインタビューした場合もインタビューされた人の発言を勝手に修正したり、あるいはインタビューの中で発言してはいけないようなことの指示が事前にあるそうだ。このような手段を用いて政府の不利に繋がる発言を一切避けるようにさせている。

 2004年から2020年までに200社以上の報道メディアが姿を消した

同電子紙によると、最古のラジオ放送局「カラカス・ラジオ」も2019年4月30日をもって国家テレコムニケーション委員会(Conate)によって閉局させられた。

2017年にはラジオ54局、新聞17社、テレビ8局がメディアから姿を消した。2018年にも新聞40社、ラジオ3局が同じく閉鎖となった。2019年にはラジオ27局、テレビ3局、デジタル紙2社、日刊新聞2社が廃業させられた。このようにして、2004年から2020年まで200社以上の報道メディアが市場から姿を消したことを同電子紙が明らかにしている。

更にこの電子紙は、米国AT&T系列のケーブルテレビDirectTVがベネズエラから撤退した経緯について説明している。それによると、米国政府がベネズエラに制裁を課した影響でDirectTVは同社の配信サービスのリストからGlobovisiónとPdvsaTVの2局を外そうとした。というのはこの2局はマドゥロ氏の政府系のテレビ局で、米国の制裁リストに加えられていたからである。

マドゥロ政権下の国家テレコムニケーション委員会はそれに反対した。ところがDirectTVは同委員会の要求を受け入れることはできないとしてあっさりベネズエラから撤退を決めたのであった。同国のこのケーブルテレビ市場ではDirectTVは45%のシェアーを誇り、650万人の視聴者が受信料を払っていた。ベネズエラで重要なメディアに成長していたが、マドゥロ政府の執拗な干渉に嫌気が刺したということである。

スペイン電子紙「ペリオディスタ・ディヒタル」(1月12日付)は国家テレコムニケーション委員会と国家税関微税統合庁(Seniat)の指揮のもとにマイアミの本社を置くTV Degital VPITVが1月8日に閉鎖を余儀なくさせられたことに対してマイアミに本部を置く米州新聞協会(SIP)はそれを告発した。通信機器、カメラ、コンピューターなどがすべて没収されたからだ。

またベネズエラで操業110年の歴史を持つ新聞El Universalの場合は当初チャベスの革命を好意的に見ていたが、その後批判する立場に変わって依頼政権から弾圧を受けるようになり、日刊新聞の発行に規制が加えられたためにデジタル紙に変身。その後スペインの投資企業に売却したが、それは飽くまで報道を継続できるための手段であった。そして今もデジタル紙として存続している。

外国から資金支援を受けるメディアは政府の敵

同電子紙は更にTal Cual、Efecuto Cocuyo、Caraota Digital、ElPitazoなどが外国から支援資金を受けていたという理由で通信機器などが没収されたことを報じた。このどれもがマドゥロ政権に批判的なメディアである。

スペイン紙「ABC」(1月10日付)はベネズエラの報道労働者組合(SNTP)のマルコ・ルイス会長が「チャビズム(チャベスとマドゥロ政権)はメディアやNGOが外国から金融協力を得ることを犯罪とみなしている。それは政権を打倒するための陰謀を企んでいると見るからだ。それは事実ではない」と述べたことを伝えている。

というのも、その背景には政権に批判的なメディアは資金的に苦しむようにさせるというのがマドゥロ氏の狙いで、外国から資金協力を受けることになると廃業させることが出来なくなるからである。だから、メディアが外国から資金協力を受けるとそれを犯罪とみなして閉鎖の理由とするのである。

このようにベネズエラのメディアは厳しい状況に置かれている。