日経に「ノジマ、雇用の80歳上限を撤廃 シニア積極活用広がる」とあり、企業が定年制を撤廃したり定年の年齢を引き上げる動きが活発化していると報じています。
この手の動きは道義的にもガバナンス的にも正しいため、一種のSDG’sのようなもので「嫌と言わせない耳障りの良い案」として一般には受け入れられると思います。私も年齢的にはシニアに足を踏み入れていますが、「一生現役」を目指しています。このニュースはその点からは正直嬉しい部分もありますが、はて、両手放しなのか、という不安な部分の両方が入り混じっています。
私の事業のマリーナ部門の専属従業員は3名いますが、平均年齢は67歳、一番若い64歳が現場責任者です。メリットは全員まじめ、これに尽きます。まず仕事への責任感の強さが圧倒的で時間外給与がどうのこうのということは一切言いません。自分の与えられた職務に対して不安や気になることがあれば時間を気にせず徹底的に対応してくれる点は非常にありがたい点です。
2点目に彼らは仕事ができることに喜びを感じてくれています。自分の選んだ職場に来て様々な人と接し、仕事を通じた刺激があり、わからないことは彼らの中で相談し解決策を見出すという好循環が働いています。
ただ、不安もあります。前回人材募集をした際に公募から応募した人はほぼ全員が若手でした。仕事を探しているけれど気に入った仕事が見つからない、そういうタイプの方々ばかりでした。うち、何人かと面接をしましたが意中の人はいませんでした。何がダメだったか、といえば若い人たちはお金のために働く意識がアリアリと見えてしまったからです。お金のためだとどうしても仕事は割り切り仕事になります。これは長年人事もやっているので面接をした瞬間にほぼわかってしまうのです。
訪問介護会社の人事面接を手伝っているのですが、ほとんど誰も「給与はいくらですか」と聞かないのです。その職業に就きたいという気持ちと給与水準がある程度決まっているので自分のやりたい仕事に就けるなら時給の細かいことは言わないということなのでしょう。日本では人材募集に「時給〇〇円」というのがずらりと並び給与で応募先を選んだ人も多いでしょう。そのあたりは給与水準が高いカナダゆえにおおらかなのかもしれません。
ではシニアの積極雇用において不安部分とは何でしょうか?実際に雇用する側として2つの点をあげます。1つはシニアは先が見えている中で雇う側からすれば「この人はいつまで働いてくれるのだろう」という不安があるのです。あるいは病気やケガをして急に働けなくなるというリスクも若い人よりはるかに高くなります。
2つ目に職能の若手へのバトンタッチを考えた時、仕事に対する感性や姿勢の違いのギャップが大きすぎる点があります。例えば北米はジョブ型雇用と言いますが、私どものように小さな会社ではそのジョブの範囲はかなり広くなります。というよりその従業員の持っている能力を全部引き出してもらい、全然違う仕事すら手伝ってもらうこともしばしばあるのです。ところがこれを若い従業員にお願いすれば「なぜ?」を連発され査定で「俺はこんなこともやったからもっと給与上げろ」と言われるのが関の山。
若い従業員に対しては二重基準といわれるかもしれませんが、完全にドライな雇用しかできないのです。決められた時間、決められた狭い業務範囲、やり取りも淡泊…こうしないとつなぎ止めができないのです。このやり方だと業務の80%はできるのですが、残りに20%の隙間を埋められず、自分たちでやらなくてはいけないことになります。つまり、経営者である私への負担が大きくなるという頭痛の種が生まれるのです。
給与水準もあります。こう言っては何ですが、シニア従業員の昇給に対する要求は低いのですが若い人は自分への評価=昇給なのでそれが十分ではないと簡単に「辞めます」となります。つまり、必要以上に気を遣わねばならないのです。
事業によっては同じ仕事を延々と繰り返し、特段職能の向上が求められない業務もあります。私の場合、かつてやっていた24時間駐車場料金ブースの集金係です。カナダに来る日本人のワーキングホリデイの若者を主体に採用したのですがビザの関係で1年ごとに採用し直さねばいけません。面倒なのですが、一方で給与はいつも同じというメリットがあるのです。「同一労働同一賃金」そのものなのですが、雇用側からみればインフレしない採用でもあったのです。これならいいですが、長期雇用する場合には機能しません。では高い目標をどう提示するか、その人の職能や能力にあった業務を擦り合わせられるのか、といえば正直、言うほど易しくないと断言します。
となれば私はシニア雇用に走りやすくなる、だけど長期的視点では不安も抱えなくてはいけないという経営者の悩みは尽きないのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月15日の記事より転載させていただきました。