ベネズエラのマドゥロ大統領を追い込む人物はなぜ米国に送還されないか

サパテロ元首相(左)、カルバハル(中央)マドゥロ大統領(右) VENEZUELA, HUGO CARVAJAL PUEDE QUE SE QUEDE EN ESPAÑA.15-10-2021.

ベネズエラのマドゥロ大統領を追い込む人物が、密約にて米国への送還から逃れる可能性が生まれている。

スペインのサパテロ元首相がベネズエラ政府と絡んでいる?

9月18日付けの筆者の記事「ベネズエラのマドゥロ大統領を追い込む人物がマドリードで再逮捕」で触れたようにベネズエラの国軍諜報局(DGCIM)の元長官ウーゴ・カルバハル氏の米国への身柄送還について10月に入って状況に変化が現れている。

スペインの社会労働党とポデーモスの連立政権の後者がベネズエラのチャベス前大統領とマドゥロ現大統領から資金支援があったという証拠書類をカルバハル氏が法廷アウディアンシア・ナシオナルのフアン・マヌエル・カステリョン裁判長に提出したのだ。更に、同氏は社会労働党の元首相サパテロ氏がチャベスとマドゥロ両政権から武器の販売などによる手数料をもらった証拠も提出する用意があることを同裁判長の前で明らかにした。

例えば、サパテロ氏が首相だった時にスペインからフリゲート艦、巡視船、軍用機や暴動鎮圧に必要な装備品などを販売した際にバックマージンがサパテロ氏に支払われたというものだ。但し、軍用機については装備の中に米国の部品が使用されているとして米国はそれを禁止。この販売によって、当時の国防大臣ホセ・ボノ氏と在ベネズエラスペイン大使ラウル・モロド氏の両氏もこの不正行為に巻き込むことになるのは必至だ。そうなると、社会労働党にとって今後の政権運営に影響を及ぼす可能性がある。

当初、サパテロ元首相はベネズエラの野党とマドゥロ政権の仲介を依頼された人物だった。ところが、今ではサパテロ氏はマドゥロ大統領のあたかも特命大使であるかのような振る舞いを訪問する先々で見せてマドゥロ氏に味方している。彼の変身にはスペインの歴代首相も理解できないとしている。唯一、彼に理解を示しているのがポデーモスと連立政権を担っているサンチェス首相である。

カルバハル氏を米国に送還しないという交換条件

スペインで支持を次第に失っているサンチェス首相のスペイン政府は、サパテロ元首相がベネズエラとの関係で汚職に絡んでいるということが明らかにされるのを重く見た。そこでスペイン政府はカルバハル氏の法廷での証言をポデーモスとベネズエラとの関係に集中させるようにさせたようだ。

その一方で、サパテロ氏については法廷での発言を避け沈黙を守るようにしてもらう。その恩賞として、米国への彼の身柄送還は避けるようにするという密約が交わされたのではないかという憶測がメディアの間で交わされている。(10月4日付「ペリオディコ・ディヒタル」から引用)。

 サンチェス首相は米国政府から冷遇されている

仮にそうであれば、サンチェス首相のスペイン政府はまた米国政府と摩擦を起こすことになるのは必至だ。トランプ前大統領そしてバイデン大統領はスペイン政府への信頼を失っており、サンチェス首相はこの両大統領の前にこれまで完全に冷遇されている。

それを示す行為として、数日前にバイデン大統領がサイバーセミュリティーの強化の一環として30ヶ国を集めてのランサムウェア対策会議を開催する意向を表明したが、その中にスペインは加えられていない。

ポデーモスはベネズエラから資金支援を受けていた

2014年にポピュリズム政党として彗星のごとくスペインの政界に現れたポデーモスは以前より日本円にして9億円余りの資金がチャベス前大統領から提供されていたということを証明する録音などから明らかにされていた。(10月11日付「OKディアリオ」から引用)。

そして、今回カルバハル氏はそれを裏付けるチャベス前大統領と当時の財務相ラファエル・イセア氏が署名している書類を法廷に提出したのである。その書類から670万ドルがCEPS基金に支払われたことが明らかにされている。また法廷はその書類が有効であると認めている。(10月11日付「OKディアリオ」から引用)。

なお、イセア氏はマドゥロ大統領から信頼を失い米国に家族とともに亡命して麻薬取締局(DEA)などに協力している。

また、CEPS基金というのはポデーモスの創設者である党首のパブロ・イグレシアス氏ほか数名が政治組織として設立したものである。同氏はつい最近までスペインの第2副首相を務めていた人物だ。

ではなぜチャベス氏が彼らに資金を提供したかというと、ベネズエラのボリバル革命がスペインでもポデーモスを介して創設させるためであった。また、マドゥロ氏が大統領になってからもポデーモスには資金を提供している。余談になるが、このような行為がまた米国政府がスペイン政府への信頼を寄せない理由でもある。

スペイン政府が果たしてカルバハル氏の米国への送還を今後も避け続けるのか観察して行く必要がある。