マドゥロ大統領の秘密を知り尽くしている彼の代理人の米国への送還が決まった。
マドゥロ大統領の秘密を知り尽くしている人物の米国への送還
ここ数日間、ラテンアメリカで最大のニュースのひとつとなったのはアレックス・サーブ氏が今月16日、アフリカのカボベルデ共和国から米国フロリダに送還されたことである。なぜ彼の米国への送還が最大の注目を集めているかという理由は彼がベネズエラのマドゥロ大統領の代理人として世界で活動していたということからマドゥロ氏の秘密を暴く重要なカギを握っている人物だからである。
アレックス・サーブ氏は米国FBIとDEA(麻薬取締局)から指名手配されていた。マドゥロ大統領はこれまで必死になって彼が米国に送還されるのを阻止しようとした。
米国は彼をマイアミの法廷にて裁いてマドゥロ大統領に纏わるこれまで隠されている麻薬密売、資金洗浄、イラン、トルコ、ロシアなどとの原油そして金の取引などの全貌を掴む意向をもっている。
サーブ氏がカボベルデで逮捕された背景
アレックス・サーブ氏はアフリカのセネガルから大西洋を西に370キロ離れたカボベルデで逮捕されて収監されていたが、彼の弁護団の活躍によって収監から軟禁された状態にあった。
彼がマドゥロ氏の代理人として活動しているということが表面化したのは、2017年にベネズエラの当時検事総長だったルイサ・オルテガ・ディアス氏が彼を訴えたことからであった。ルイサ・オルテガ氏はベネズエラ政府の検事総長であったが、マドゥロ大統領や彼を囲む側近らの犯罪行為を正当化することはできないとしてコロンビアに亡命。そこから今もマドゥロ氏らの犯罪を訴えている。
サーブ氏がカボベルデで逮捕されたのは次のような経緯があった。昨年6月12日、サーブ氏が搭乗していたリアジェット機が給油の為にカボベルデに着陸した。ところが、給油が終了するまで機内で待機していたところを同国の警察によって逮捕されたということなのである。アルジェリアで給油する予定であったが着陸を拒否されてカボベルデに向かったのであった。
FBIとDEAが彼を指名手配したのは、3億5000万ドルを資金洗浄の目的で米国の銀行を利用したというのが罪状だった。勿論、この資金洗浄にはマドゥロ大統領と彼の夫人セリア・フローレス氏が絡んでいるというのは米国側で十分に承知されていた。
兎に角、FBIとDEAはサーブ氏を逮捕すればマドゥロ氏の隠された資金の動きが掴めると判断したようだ。
サーブ氏の送還を回避させようとしたマドゥロ大統領が使った手口
サーブ氏がカボベルデで逮捕されると、ベネズエラ政府は即座に反応してサーブ氏は外交特権を有する人物だとカボベルデの関係当局に伝えた。しかし、彼が所持してパスポートは普通のパスポートで外交官が所持しているパスポートではなかった。
サーブ氏は弁護士を早速雇った。最終的にサーブ氏は米国への送還から逃れる為に4つの法律事務所と契約した。そのひとつはスペインのバルタサル・ガルソン元判事のそれだ。この4つの弁護士事務所に払う弁護領として2020年8月2日の「フリーノティシアス」はスイスの銀行口座に6500万ドルが用意されていると報じた。
サーブ氏の素性と事業
サーブ氏は中東レバノン生まれで南米コロンビアに移民。コロンビアで数種の事業を起こしていた起業家であった。しかし、どの事業も飛躍はなかった。コロンビアの上院議員ピエダー・コルドバ氏を知る機会を得た。それがチャベス前大統領と繋がりを持つ縁となった。
チャベス氏とコロンビアの当時の大統領だったファン・マヌエル・サントス氏との間でプレハブ住宅をベネズエラで建設する合意が交わされた。それを請け負ったのがサーブ氏であった。彼の企業フォンド・グローバル・コンストラクションはその合意が交わされた僅か数日前に設立された会社で、住宅事業には全くの素人という企業だった。ところが、この事業で動いた資金は2020年6月21日付「インフォバエ」によると5億から6億ドルであったという。
2013年にチャベス氏が亡くなって、マドゥロ大統領の政権になってからサーブが最も稼いだのはCLAPと呼ばれていた食料をメキシコから輸入して、それを食料不足に苦しむベネズエラの市民に配給する制度である。植物油、コメ、パスタ、トマトソース、インゲン豆、レンズ豆など11品目をメキシコから輸入した。どれも粗悪品で16ドルで仕入れていたのを34ドルでベネズエラ政府に売っていたのである。この取り決めの契約額は15億ドルでサーブが社長を務めるグラン・リミティッド・グループ(GGL)がこの輸入を請け負った。(同上紙「インフォバエ」から引用)。
この取引でGGLは2016年から2018年の間に稼いだ額は野党の調査で50億ドル(5400億円)と推定されている。尚、このGGLの実際のオーナーはマドゥロ氏だとされている。(2020年7月6日付「インフォバエ」から引用)。
サーブ氏の事業にはパートナーとしてヘルマン・ルビオ氏(本名アルバロ・プリード)という人物がいることを忘れてはならない。コロンビアではまともな商売しか知らなかったサーブ氏に裏取引の世界を入れ知恵したのがプリード氏であった。しかし、取引の表に出ていたのはサーブ氏だった。
米国から制裁を受けていたマドゥロ大統領は抜け道の取引をする必要があった。その必要性をうまく利用してマドゥロ大統領を助けたのがサーブ氏だったのである。
例えば、ベネズエラで原油が減産されている時に国内でガソリンが必要とされていた。そこでベネズエラで産出される金をイランに売ってガソリンをイランからの輸入を開始した。その交渉を成立されたのもサーブ氏であった。
マドゥロ大統領が使った送還拒否の手段
次にマドゥロ大統領がサーブ氏を米国に送還させないために用いた主な手段を以下に列記する。
- まず彼の弁護団がカボ・ベルデ政府に要求したのは、彼が逮捕されてからすでに90日以上が経過していることを挙げて、カボ・ベルデの法律によると拘束できるのは80日間までだと訴えた 。そして人身保護令状を用意して彼を刑務所から出して軟禁するべきだと要求した。一方の米国は彼が刑務所から出て軟禁された場合を考慮して彼の見張りを強化する為のスタッフを派遣した。一旦、軟禁となってからはおよそ50人が彼の動向を警備していた。
- 次にマドゥロはサーブを逃亡させた上で救出するための手段としてベネズエラの飛行機YV3441にライフル18丁と自動小銃58丁を積み、2万ドルのキャッシュと261万8000ドルの小切手を用意した。この飛行機にカボ・ベルデ出身の2人の人物を搭乗させて送ろうとした。その情報を事前に掴んでいた米国はその飛行機が中継地としてグレナダ島に着陸した時に米国はそれを差し押さえた。(2020年11月4日付「パナム・ポスト」から引用)。
- サーブ氏の弁護団は10月5日にナイジェリアのアブジャに本部を置く西アフリカ共同体の司法裁判所にカボベルデ政府がアレックスサーブを逮捕したのは違法であると訴えた。それに対してカボベルデ政府は西アフリカ共同体の司法裁判所の法的効力を認める2005年の規定書に同政府は署名していないことを明らかにして同裁判所の法的指示を受け入れる義務がないとした。
- サーブ氏が拘束されてからは彼の代行を務めていたのはカルロス・リスカノ氏で、サーブ氏の右腕的存在の人物だ。彼はサーブ氏の指示でベネズエラの金を採掘している国営企業ミネルベンから金塊を持ち出し、それをカボベルデに送ることを開始した。同国でそれを賄賂に使ってサーブを釈放させるためだった。2020年12月24日付「インフォバエ」がそれを明らかにしている。
- そしてマドゥロは更なる手段としてサーブ氏をアフリカ連合へのベネズエラ特命全権大使に任命した。そしてベネズエラのホルヘ・アレアサ前外相はサーブが同連合の本部があるエチオピアのアディスアベバで早急に勤務につけるように同連合の協力を要請した。2020年12月28日と30日付の「エル・ティエンポ」によって明らかにされた。
同連合が加盟国代表に付与する不逮捕特権をサーブ氏に付与されることが狙いであった。しかし、カボベルデと米国はサーブ氏が大使に任命されたのは逮捕された以後のことで大使に任命される以前はこの不逮捕特権は無効であるという不遡及の適用を主張した。
また米国はサーブ氏が逃亡しないようにミサイルを搭載した巡洋艦サン・ハシントが昨年11月にひと月余りカボベルデ諸島を見張っていたことを米紙NYTが明らかにしたのを「ヒスパンTV」が2020年12月23日付で報じた。
このような背景があった後の9月7日、カボベルデの最高裁は再審不能の最後の判決を下してアレックス・サーブ氏の米国への送還を決定したのである。そしてその送還が10月16日に実行されたのである。