立憲・共産の「容共政権」の是非も総選挙の重要争点だ

立憲・共産の「閣外協力」の合意

10月14日に衆議院が解散され、10月19日公示を経て、いよいよ10月31日の投開票日に向け政権選択の総選挙がスタートした。自民党は岸田新政権の下で自公で過半数の議席獲得を目指し、立憲民主党は930日、日本共産党と限定的とはいえ「閣外協力」の合意をし、選挙協力を進め政権交代を目指している。

共産党にとって、「閣外協力」は、2020年改定党綱領四、五に規定の通り、「民主連合政府」の実現を目指す統一戦線戦略であり、「社会主義政権」への第一歩である。詳細は、10月4日付けアゴラ掲載拙稿「ついに共産党と「閣外協力」する立憲民主党:社会主義政権への第一歩」を参照されたい。

甘利幹事長の「閣外協力」批判

自民党の甘利幹事長は、立憲・共産の「閣外協力」を問題視し、10月14日の解散直後のNHKテレビインタビユーや、10月17日のNHKテレビ「日曜討論」で、「今回の総選挙は、自由民主主義の自公政権を選ぶか、共産主義が入った閣外協力の立憲共産政権を選ぶかの体制選択選挙である。」旨主張し、立憲民主党と共産党の「閣外協力」を厳しく批判した。

これに対して、立憲民主党の福山幹事長は、上記「日曜討論」において、「閣外協力」は市民連合を介した安保法廃止・立憲主義回復などの「野党政策合意」の実現に限定したものであると反論し、共産党の小池書記局長も、安保廃棄や自衛隊違憲などの基本政策は政権に持ち込まず、限定的に「野党政策合意」の実現を図るものであると反論した。

「閣外協力」は共産党の統一戦線戦略

しかし、日本共産党が立憲民主党と「閣外協力」する目的は、あくまでも、社会主義政権への過渡期の政権である「民主連合政府」の実現を目指し、立憲民主党と統一戦線を形成するためである。共産党の志位委員長は「今回の閣外協力は、共産党提唱の野党連合政権の一形態である」と述べている(10月1日付「しんぶん赤旗」)。

共産党の改定党綱領四の(一四)には、「さしあたって一致できる目標の範囲で統一戦線を形成し、統一戦線の政府をつくるために力をつくす。」と規定されている。「さしあたって一致できる目標」とはまさに上記「野党政策合意」であり、「統一戦線の政府」とは上記「民主連合政府」である。したがって、共産党にとっての「閣外協力」は、過渡期の政権である「民主連合政府」さらに「社会主義政権」の実現を目指す共産党の統一戦線戦略であることは明らかである。

「閣外協力」による共産党の影響力拡大

立憲民主党の有力支持母体である連合の芳野友子新会長は、10月7日記者会見で、「共産党の閣外協力はありえない。連合推薦候補にも共産党が両党合意を盾に共産党の政策をねじ込もうとする動きがある」と述べ、「閣外協力」に不快感を示した(10月7日付時事通信)。

選挙における個々の候補者の立場は弱い。特に与野党が1対1で対決する小選挙区では、1本化された立憲民主党の候補者は、当選するためには共産党の全面的支援を受ける必要があるから、共産党の方針や重要政策に全面的に反対することは困難であり、一部を受け入れたり、妥協したり、忖度することも十分にあり得る。

その結果、選挙協力を通して、立憲民主党に対する共産党の影響力の拡大は否定できず、これが共産党の統一戦線戦略の狙いでもある。この点で、上記芳野新会長の危機感も理解できるのである。

共産党が新政権の「生殺与奪権」を握る

また、仮に、政権交代が実現した場合には、立憲民主党は、新政権を維持継続するため、「閣外協力」とはいえ、予算案や重要法案の成立のために、一定の議席を有する共産党の協力を必要とするから、新政権に対する共産党の影響力は格段に増大する。すなわち、共産党が「閣外協力」を通じて、新政権に対し「生殺与奪権」を握ることになる。

さらに、共産党は、自衛隊違憲や安保条約廃棄などの基本政策は政権に持ち込まないと主張するが、立憲民主党も認めるミサイル防衛体制強化のための防衛予算案や自衛隊の充実強化のための防衛予算案にも、果たして共産党が賛成するかは極めて疑問である。仮に、予算案や重要法案が一定数の議員を有する共産党の反対で成立しなければ、立憲民主党は国会の過半数を失い、新政権の崩壊もあり得るのである。

このように、外交安全保障など、国の存立にかかわる基本政策において、根本的に立場が異なる共産党との「閣外協力」には、そもそも無理があり、そのような共産党と「閣外協力」する立憲民主党の安全保障政策にも不安が生じる。

「容共政権」の是非も総選挙の重要争点

立憲民主党の枝野代表は、共産党志位委員長が強く望む限定的な「閣外協力」に合意し、その結果、多くの小選挙区で共産党が候補者を立てず、200以上の小選挙区において立憲民主党公認候補者への一本化が実現したので、政権交代を声高に叫んでいる。

しかし、限定的とはいえ共産党と「閣外協力」する立憲民主党が、共産党の選挙協力により仮に政権を獲得した場合には、新政権は明らかに「容共政権」である。なぜなら、立憲民主党は、新政権において、「閣外協力」を通じて共産党と協力関係に入るからである。したがって、今回の総選挙は立憲・共産の「容共政権」の是非も重要な争点である。

その際、日本国民は前記の通り、共産党にとって、今回の「閣外協力」は、過渡期の政権である「民主連合政府」を経て、「社会主義政権」を目指す共産党の統一戦線戦略であることを十分に認識すべきである。