これまでの新型コロナ感染者の波を振り返る --- 宮本 優

Jira Pliankharom/iStock

10月1日に緊急事態宣言が解除されてから、だいたい3週間ほど経過しました。

私はこの3週間にとても注目していました。それは第5波の感染の縮小が一体いつまで続くのかということ、もう一つは9月のシルバーウィークや解禁後の10月1日以降の社会活動の活発化がどの程度陽性者数の変化として現れるのか、という部分にです。感染のタイムラグを考えても、そろそろその結果を見ることができるはずです。

専門家とされる人たちによって示されているシミュレーションがいろいろとあると思いますが、制限を解除すると直ちに反転して増加を始めるという結果になっているものが多いです。これは通常のモデルであれば当然そうなります。

もしも制限をやめたのに減り続けるようであれば、これはウィルスが人為的な操作とは無関係に減っていくということの強い証明になると言えるでしょう。そしてSIRモデルといった通常のモデルが、とくに縮小局面において成立しないことを直接的に示唆します。つまり感染全体の描像を得ることはできません。従って予想もできないわけです。

では最初に前回同様、東京都の新規感染者数に対して、また対数のグラフを描いてみます、ただし今回は第5波に注目したものにしてみます。

補助線を一本おいてみました。まず驚くのはご覧の通り、非常にきれいに減少が現在進行形で進んでいるということです。対数プロットですので、倍々ゲームではなくて、、、半々ゲーム? といったところでしょうか。そして二か月以上の長期間にわたって減り続けています。第5波は終わった、という声も多いのですが、これを見るとまだ終わっていないことがよくわかります。

現在、ピークから1/100くらいにまで減少していて、まだ同じ調子で下がり続けています。このように長期間、減少したことはこれまでありませんでした。これだけきれいに下がると、何かしらの単純なモデルがその背景にあると感じられ興味深いです。

実効再生産数を計算したサイトなどを見ると、シルバーウィーク後に少しだけ計算値が増加していることも一部見られ、完全に無関係ということでもなさそうです。ですが、減り続けるトレンドを反転させることは全くできていません。ここからも人流や人々の接触機会の増減が主要因にはならない、ということが明らかになったと言えるでしょう。まあ、それは第1波から同じではありました。第5波ではこれ以上なく明確になったというだけです。これでもう言い逃れはできなくなったのはご存じの通りです。

長期の減少や大きい減少比など、これまでに見られなかったことが起きているので、この次の第6波がどうなるかというのも正直未知数ではあります。ですが、これまでの経験(増加速度や増加期間)や強力な感染力を持つ新しい株が見当たらないこと、ワクチン接種率が高い事、そして医療体制がこれまでとは異なりますので、結果的に前回の結論通り第6波は恐るるに足らず、これまでのような経済活動の制限を行うことには意味は見いだせないでしょう。制限を解き、多少の波が来ても社会としてはポジティブに知らんぷりするのが正しいと考えます。

前述のようにまだ第5波は終わっていませんが、あまりこれまでの5つの波を振り返った考察を見かけない気がしますので、もう一つ同じような図を作ってみました。今度は全国の新規陽性者数と死亡者数の対数プロットです。

陽性者数の増減と死者数の増減はリンクしていてタイムラグがあることが分かります。このラグは30日くらいのようです。これに従って、波ごとの致死率(死者数÷陽性者数)を求めてみると、表のようになります。

第5波に関してはまだこれから数が変化していきますから、暫定的な数値です。おそらく今後少し上昇するでしょう。

まず大まかには致死率がだんだんと下がってきたことが分かります。実に様々の要因が絡み合っているはずですが、日本人全体の免疫が鍛えられてきていると考えればよいのでしょうか。第5波での致死率は大体インフルエンザの致死率と同程度(1万人/1000万人~0.1%として)になってきています。治療環境の変化で第6波では更に良くなることが期待できます。今度こそ、コロナはただの風邪、といってもよい状況になってきたのではないでしょうか。

最後に、私にとっての最初からの疑問点である「なぜ感染に波がある(増えて、そして減る)のか」に関してです。

前回はウルトラマンのカラータイマーなどと書きましたが、「エラーカタストロフ」仮説というのがあるそうです。素人なりに理解した内容としては、変異を起こしながら感染拡大するウィルスには許容できる変異(複製を作る際のエラー)の量に限界があり、それを超えてしまうと増殖ができずに自壊に向かう、という感じのもののようです。

確かにこれで説明できそうで魅力的な話、と感じつつも、じゃあイギリスはなんでずっと一定レベルの感染が続いているのか、とか疑問に思うこともやはりあります。メカニズムを考えるのは素人にはやはり難しい。でも、メカニズムはわからなくても、起きている問題に効果的に対処することはできることが重要でしょう。それがこれまではできていなかったのです。

総選挙を控え、各党ともコロナ対策を重要政策として掲げているようですが、傷ついた経済に対する対策に重きを置くべきと思います。特にやはり、飲食業や観光業の方々でしょうか。医療的にはもう実質的に問題はあまり残っていないと思います。ただし、また違う強力な株や新たな感染症が出現する可能性は当然あるわけで、その時に今回の経験を生かさねばなりません。

そのためには今後、いろいろな分野において徹底的な大反省会を行うことが望まれます。感染症の専門家の方々もですが、とくに多くのマスコミの取った行動を検証するグループが必要ではないかと感じます。自浄作用の一番望めない分野でしょうから。

「事業仕分け」なんてのが昔ありましたが、大反省会をする、という政策はすごく国民に対してアピールするものになる、と思うのですが、どこかの政党で採用してくれませんかね?

宮本 優
固体物理の研究者(実験系)、みなし公務員。
趣味はピアノ演奏とラジコン。