パナソニックは覚悟を見せるか?

パナソニックの企業イメージについて多くの方々は家電製品を思い浮かべると思います。私もそうです。私の家には昭和40年代に同社が発売したヘアドライヤーがあり、今でも動きます。どの家にもパナソニックの製品の一つや二つはあるし、かつては街の電気屋さんとして「ナショナルショップ」があちらこちらにあり、私が育った地域でも住宅街にぽつねんと店を構え、誰が客なんだろう、と幼少期、いつも思っていたことがあります。

パナソニックHPより

また同社はオリンピックの正式なスポンサーであり、社名はとにもかくにもよく知られた会社なのであります。ただ、その知名度に反して近年(10年、20年というスパン)についてみれば、北米で同社の製品は見なくなったなぁ、というのが海外暮らしの私の印象です。その上、この数年は家電量販店なる場所に足を踏み入れることはめったになくなりました。日本ですとターミナル駅には大手量販店が競い合い、週末には人がごった返すのですが、どう見ても当地ではその傾向は見られないのです。

理由の一つに集合住宅を購入すると洗濯機、乾燥機、電子レンジ、オーブン、冷蔵庫などは標準装備でついてくるからです。つまり消費者が家電製品を選ぶチャンスはないのです。一方、不動産開発業者からすると私を含めどの製品を選ぶかはマーケティング上極めて重要な戦略です。そして今でも多くの開発業者は特定のブランドに走ります。Subzero,Bosch, Wolf, Kitchen Aid…といった具合です。ではパナソニックは入るのか、というと私は電子レンジだけ採用しました。割と同社のレンジは今でも高い評価があります。

一般消費者が自分で買う家電とはテレビやパソコン系などに絞り込まれてしまうのです。そしてそれらはコストコでもウォールマートでも購入できます。つまり専門店に行かなくても普段使いのスーパーマーケットで販売されているのです。例えばコストコなどはそれら家電製品は入口の入った目立つところにあり、ショッピング満々の消費者の一番初めに目に入るのです。

するといやがおうなしに「あー、80型のテレビ、安くなったな」「このパソコン600ドル、へぇー」なのです。つまり知らず知らずのうちに洗脳教育されていて「うちのテレビ、そろそろ買い替えだね。こんど安い日があったら買おう」なのです。まさに心理作戦。ちなみにコストコの陳列は非日常製品からスタートし、レジそばの日常製品やドラッグなど選択余地の少ない商品への陳列になっています。ものすごく心理を突いているのですが、そんなことに気がつく人はいないでしょう。

さて、パナソニック。今回、アメリカのサプライチェーンソフトウェア会社のブルーヨンダー社を7000億円超で買収、9月にその買収作業が完了しました。前社長の津賀一宏氏は社長在任時代、負の遺産の整理から入り、同じような苦悩を抱えたソニーの平井一夫氏とヨーイドンだったのですが、平井氏はゴールにはるか前に到達、周回遅れのパナソニックはへとへとになって楠見雄規氏に社長のバトンを渡しました。その際、このブルーヨンダーの買収案件が社内で大議論となるものの後任となる楠見氏の最終判断でゴーサインとなりました。

ではこのブルーヨンダーはパナソニックにどういうインパクトを与えるのか、ここが私にはまだ確証がないのです。どういうことでしょうか?

冒頭申し上げたようにパナソニックという会社はそもそもは一般消費者向け製品に強みがあった会社です。街の電気屋、まさにそのイメージだったのです。ところが同社は「それではもうだめだ」と気が付きます。理由は利益率が異様に低いのです。これはどんな業界でもそうですが、BtoBとBtoCどちらが良いか、といえばBtoBに軍配が上がります。利益率が安定、マーケティングコストも低く、手間のかかり方が全然違います。例えば私どもは書籍を顧客に一冊一冊販売させていただくと同時に図書館に450冊納品とか大学購買部に教科書300冊といった販売をしているのです。

つまり同社は明らかにBtoBにシフトしたがっています。それを刺激したのはたぶん、日立ではないかと思います。同社の製品は最近一般消費者向けコーナーからだいぶ減ったと思います。一方、BtoB向けでは海外で破竹の勢いです。そこで津賀氏は車載用電池としてテスラ社と運命決死隊のパートナーとなりました。が、途中でテスラの鼻息とは裏腹にその勢いは明らかに失速します。今回のブルーヨンダーの買収資金の多くは大儲けしたテスラ社の株式売却資金を投じています。おまけに先日発表になったトヨタのアメリカでの電池工場建築にあたり、そもそも提携関係があったパナソニックではないとされています。

それでは、ブルーヨンダーでBtoB、更にハードからソフトへのシフトをするのか、といえばこれは同社が清水の舞台から飛び降りるほどの覚悟が必要だとみています。

「パナソニックよ、君はIBMのようになれるのか?」であります。

おまけにもう、買収してしまったという点でかつての日本企業による海外企業買収後の失敗劇を繰り返さなければよいと思っています。いただけないのは買収後のブルーヨンダー社とのやり取りでパナソニック側は「学ばせてもらいます」とした点。海外企業買収でポールポジションを取られたらアウトです。つまり私は第一歩目からしてだめじゃん、と思ってしまったのです。

3-5年後のパナソニック、そして楠見氏の手腕を見てみましょう。本気でブルーヨンダーを取り込むならサントリーがビーム買収後、新浪剛史社長が直接乗り込んでサントリーとの一体化に取り組んだあの姿勢を見せるべきです。歴史的にはブリヂストンによるファイアストン買収がたぶん、買収とはこうあるべきだを見せつけた超傑作例でしょう。楠見氏はアメリカに乗り込む、それぐらいの覚悟は必要だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月25日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。