主要メディアはなぜコロナウイルスの大ニュースを報じないのか(古森 義久)

顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

日本の大手の新聞やテレビはなぜ大ニュースを大ニュースとして報じないのか。いま日本の国内で起きている驚嘆すべき出来事をなぜ正面からきちんと報道しないのか。こんな疑問を感じさせられる毎日である。

AlpamayoPhoto/iStock

その大ニュースとは新型コロナウイルスの感染の驚異的な減少である。新聞やテレビはそのウイルスの感染者が多い時期には大ニュース中の大ニュースとして報道していた。いまにも日本という国が崩れ落ちるかのような危機感をあおるセンセーショナルな報道だった。

であればその危機が去ったことは同様に大ニュースであるはずだ。だが主要メディアはその重大な出来事をあたかも起きていないかのように無視、あるいは軽視しているとしか思えないのだ。

日本での新型コロナウイルスの感染者はつい2ヵ月前の8月下旬の時点では全国で合計2万5千以上だった。1日で新たに2万5千人である。だがその感染者は10月下旬のここ数日、1日200人台となった。

25,000が200となる。この激減はどうみても、劇的な大激減である。人間の感染に限らず、人間の生死でも、果物や工業製品の生産でも、消費でも、とにかくびっくり仰天するショッキングな数字の変化である。

東京都を例にとろう。

新型コロナウイルスの1日の感染者は8月中旬には約4,000人だった。それが10月中旬から下旬にかけては20人ほどというところまで、激減した。4,000と20では200分の1である。単に数字の変遷だけでも、ものすごい変化なのだ。

だが主要メディアはどこもこの感染者の激減自体を大きなニュースとしては報じていない。感染者の減少をどこかでは報じるが、その数字をさらりと流すだけなのだ。まして、いまなぜ感染者がここまで劇的に減ったかという原因の分析など、まったくと言っていいほど見かけない。

もちろん感染者はまた増えるかもしれない。専門家の多くがリバウンドの可能性を指摘する。確かにその危険に備える必要はあろう。いまの感染者の激減は一時的な現象なのかもしれない。

しかし激減はすでに2週間以上も続いている。それにたとえ一時的だとしても、2ヵ月前とは天地の相違があるほどの状態がいま日本国民すべての目の前に展開しているのだ。この大ニュースをマスコミはなぜ正面から取り上げないのか。

こんな疑問に襲われるのは決して私だけではないだろう。

感染者がなぜこれほど減ったのか。この疑問に正面から答える専門家の回答もまず目にも、耳にもつかない。だが別に専門家の知識に頼らなくても、ワクチン接種の急速な拡大がその主要な原因だとみられることは、常識の範囲で明白である。

日本でのコロナウイルス防止のためのワクチンは全世界でもトップ級のところまで接種率を高めた。日本国民全員の70%以上がもはや2回のワクチン接種を済ませたのだ。感染者の減少はこの数字の増加とほぼ一致している。

だが主要な新聞もテレビもその動きにも、背景にも、原因にも、きちんとした光を当てない。「またリバウンドがあるかもしれないから注意しよう」という種類の警告を伝えることばかりなのだ。

だが起きるか起きないか、まだ分からない将来の事態に光の中心をあてるよりも、まず目前の現実を報じ、論じてほしい。それこそがジャーナリズムの本来の責務だろう。

この報道の偏向は日本政府、とくに菅義偉政権のコロナ防止対策への高い評価を与えることを嫌がる結果なのだろうか。そんな断定はしたくないが、いまの報道の偏りは、そんな推測をも生んでしまう。

日本政府の水際対策も効果を発揮したと言えるだろう。

私自身は最近、アメリカから日本に戻り、東京では2週間の隔離を強いられた。9月中旬にワシントンから東京に戻った私はとっくにワクチン接種は2回とも済ませていた。だが日本への入国ではワクチンの接種のいかんはまったく問われないのだ。

しかもコロナ感染を調べるPCR検査はワシントンで東京行きの航空機に乗る直前に済ませ、陰性の結果が判明していた。それでも成田空港に着くと、その場でまたまたPCR検査を強制された。

それからの2週間、自宅で自らを隔離したが、その期間は毎日、スマホの特別アプリで体調と所在をチェックされた。厳しい検査だった。スマホでの対応をつい2,3日、怠ったところ、自宅の玄関のベルが鳴り、「厚生労働省からきました」という人物がチェックにきたのには驚かされた。

どんな人間にとっても2週間、どこへ出てもいけない、というのは大きな犠牲や苦痛を伴うと言える。私自身も東京での仕事が大幅に制限されてしまった。アメリカから日本に入国、帰国する人間にはすべてこの制約が課されるから、アメリカからビジネスで日本にくる人がいなくなるのは自然だろう。

だがそれでもこの種の厳しい入国の制限や制約が日本国内での新型コロナウイルスの感染の防止に役立つならば、意義があるということである。

私自身、そんな自分自身の体験があるからこそ、日本国内、東京都内での感染者の増減にはとくに細かな注意を向けることとなった。そしていまや感染者数がつい最近の100分の1、200分の1に減るというドラマチックな現象を目撃するに至った。

だが日本の主要メディアはこの画期的な出来事をなぜか大きなニュースとはみなしていないのだ。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。