総選挙の本当の争点①:日本の未来のために既得権益をどうするか

西村 健

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今回の総選挙の「本当の争点」が見えない。

アゴラでも書いたが、平均賃金が韓国以下、1人当たりGDPがOECDでも下位に位置するという事実がだんだんと国民の間でも広がってきた。分配か成長か、という議論の対立もあるようだが、そうではないはずだ。分配も重要だし、成長も重要である。分配をして、同時に成長もしないと日本経済は本当に厳しい状況に陥っている。

しかし、今回の各党の政策であるが、あまりに既得権益、野党で言えば支持母体に配慮しすぎて「本質」が隠されている。大丈夫なのか?と思うほどの内容だ。

そして、一番の問題は、何十年もかわらない社会システムなのだ。そのうえでやはり考えるべきことなのは、既得権益の問題である。

既得権益を敵のように扱う政党もがあるが、それもおかしい。既得権益を説得してイノベーションをどのようにおこしてもらうか、が本来のテーマにならないといけない。

日本経済の今

野口悠紀雄氏が2010年以降「本来は、円高を支えるために、企業が技術革新を行い、生産性を引き上げねばならない。それが大変なので、円安を求めたのである。」(東洋経済記事より)と指摘。

出典:OECDサイト

  • 日本:38617ドル
  • 韓国:42285ドル
  • アメリカ:65836ドル

平均賃金が上がらなく、円安で企業が救われという状況で10年が過ぎたといったところだろうか。

第一に、日本企業は「すかすか」になってしまった。最終製品についての価格決定権を失い、部品産業に転落してしまったということだ。液晶、半導体、アンテナ周りの製造業、自動車産業はとても強いのだが、最終製品は過去の世界市場を席巻したレベルにはない。

SONY、シャープ、東芝、日立、三菱電機、NEC、パナソニック・・・・世界を日本の家電メーカーが席巻していたのは今や昔。世界を席巻しているのはサムソン、ワールプール、LG、ハイアールなどである。スマートフォンでも、すでにサムソン、アップル、シャオミ、ハーウェイなど。2014年に10位だったソニーさえもトップ10から姿を消してしまった。顧客ニーズよりも、技術の機能やモノづくりにこだわってしまったと言われている。

第二に、緩い環境規制を求めて企業が海外進出していった。タイ、中国、ベトナム、カンボジア・・・・海外進出が進むことによって本国の雇用が減少してしまった。

第三に、IT。GAFAなどの企業の伸長は日本には見られない。それどころか、行政のデジタル化の遅れは目を覆うレベルになっている。

日本企業の国際競争力

日本の国際競争力の低下はかなりすさまじい。下り坂といっても過言ではない。IMD(International Institute for Management Development)国際競争力では1992年までは1位。その後、下降傾向で、2021年には31位まで下落。2020年は34位だったので、3位ほど上がったものの、少し上の順位にはリトアニア、フランス、タイ、イスラエル、エストニア、マレーシアなどが並び、韓国は23位。

出典:IMDサイト

問題を適切にとらえることができなかった、経済政策の失敗と言えるのかもしれない。安倍政権の経産省の官邸官僚たちは「アベノミクスは成功」と喧伝し、メディアでは「日本凄い」論が台頭していたが、実際の姿に国民みんなが気づいてしまった。

古賀茂明さんが言う「意味はないが大したカネをかけずに立派に見える政策」を作るプロばかりの経済産業省の官僚主導の経済政策は短期的な、キャッチーな政策で、経済政策としては現場を知っていない、はっきりいって残念なものも多い。たしかに、企業のニーズをしっかりは聞いているが、Society2.0、生産性革命など「その後どうなった?」というくらい、徹底できたかの検証もどこかへ行ってしまった。

そもそも、大企業優遇は税制や租税特別措置手厚い優遇措置を受けていることも確か。エコカー減税も長らく行われている。円安誘導で儲けた会社は株価も高く、この10年株主から業績を厳しいことを言われていない。企業の「内部留保」が問題になるが、企業も色々それぞれに事情がある。相手をどう動かすか、政府は設備投資に向かうように対策を講じてきたが、なかなかうまくいかなかった。

少なすぎる起業

それでは何をやるべきなのか。政策としては問われるのは2つの方向性だろう。

  1. 起業を一層促進する
  2. 企業による新規事業やイノベーションが進む

開廃業率の国際比較を見ても、かなり低いのが現実だ。

開業率は韓国と比較すると1桁違う。起業・イノベーションが進まなかったのは事実。開業率とGDPとの間には正の相関関係がある。起業は雇用増加を生み出すことはもちろん、企業の新陳代謝も進む。企業の参入・撤退が産業構造の転換やイノベーション促進の原動力となり、経済成長を支えているといっても過言ではない。なので、今以上に強力に推し進めるしかない。

ビジネスとは、儲けるためにある。しかし、製品やサービスをお客様や相手に喜んでもらう、期待にそう、相手の目的を満たすことの「尊さ」に気づかないといけない。こうした「商人道」がどこかに行ってしまい、儲ければいいということになってしまった。「新自由主義的」というよりこうした視点を「企業が忘れた」、皆が「自分だけ儲ければそれでいい」となってしまったのは、根深い社会構造の問題もあるだろう。

産業界の言うことを愚直に聞くのではなく、既得権益を壊すのでもなく、既存のプレーヤーを誘導し、新たな事業環境を構築する、説明責任や社会的要請を企業に求めていくのが政府の責任であるのだ。

海外ファンドに買ってもらって、企業再生するしかない?

国際競争力が落ちた中、新陳代謝が進まない、既得権益は生き残りや延命に必死、イノベーションが起きない、低い賃金で働かされて、一部の企業だけが勝ち残るが、全体的に沈みゆく船という現状。

だからこそ、

  1. 既得権益」と呼ばれる企業は内部でイノベーションを進める
  2. 海外のファンドに日本企業をM&Aしてもらい、構造改革してもらう

というところの選択肢しかなくなる。どの道を考えるのかが本来なら問われないといけないだろう。

2. は、サッカーのプレミアリーグではないが、外国ファンドに買ってもらい、(ハゲタカにならないで)、経営改革や事業再生をしてもらうしかない。

以上についてできないのなら、労働者は海外へ出稼ぎにいくしかない。

既得権益という「業界団体」「企業」をどう説得して、「共存共益」の仕組みを作ること、未来を見据えて、調整をしていくこと。支持母体でもある既得権益である業界・団体・企業のいうことを聞くだけの、エージェントのような政治家はこのオワコン日本の状況の中に必要はない。既得権益に臆せず、政治家として未来のビジョンを提示し、説得し、「どのように」実行していくか。その中身が争点のはずだ。