否定と反対の混同

藤原かずえ講座

情報操作と詭弁論点の誤謬論点混同否定と反対の混同

否定と反対の混同

Confusing complement with opposite

言説の否定(補完)を言説の反対(対義)の肯定と混同する

<説明>

ある概念・言説の【否定(補完) complement】とはその概念・言説を除く概念・言説を意味し、【反対(対義) opposite】とはその概念・言説の対極にある概念・言説を意味します。「否定と反対の混同」とは、これらの混同を意味します。詭弁を使うマニピュレーターは、この混同につけこんで、前提となる正当な説明を意図的に歪曲することで自分にとって好都合な結論を導きます。

誤謬の形式

言説Spではないということは、言説Sqであることを意味する。

※ここで、言説Spは言説Sqの反対(対義)である。

<例>

<例>

A:あなたのやったことは善くないことだと思う。
B:悪いことだとは思わないけど。

A:この映画はホントに面白くなかった。
B:ホントにつまらなかったね。

A:私は彼のことを好きじゃない。
B:嫌いってこと?

A:このスウィーツ、美味しくない。
B:ハッキリ言って不味い。

この例において、「善い」「面白い」「好き」「美味しい」の否定(補完)は「良くない」「面白くない」「好きではない」「美味しくない」であり、反対(対義)は「悪い」「つまらない」「嫌い」「不味い」ということになります。

否定(補完)の概念・言説とは、反対(対義)の概念・言説、またはどちらでもない概念・言説のことです。例えば、「善い」の否定は「善くない」であり、「悪い」あるいは「善くも悪くもない」を意味します。

<事例1>PCR検査拡充

<事例1a>幻冬舎ゴールドオンライン 2020/07/11

上昌広氏:PCR検査の拡充に反対するのは、厚労省関係者だけではない。同じく専門家会議の委員を務める押谷仁・東北大学大学院教授も、3月22日放映のNHKスペシャルに出演し、「PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態で踏みとどまっている」と述べている。

<事例1b>ニューズウィーク日本版 2020/07/31

石戸諭氏:3月の段階で、押谷さんは「日本はPCR検査数を抑えている」と発言していた。その後は拡大したほうがいいと、方針を転換したかのように報じられていたが。

押谷仁氏:転換したというようなことは全くない。メディアがPCR推進派と抑制派という二項対立をつくったことが問題だ。尾身茂先生をはじめ、われわれ専門家会議は初めからずっと、PCRを拡充すべきと言っている。アメリカでは多くのPCRキットを十分に精査せずに承認したことで、PCRが混乱の極みになってしまった。

新型コロナ事案において、PCR検査推進派の上昌広氏は、PCR検査の急速な拡大を否定してきた押谷氏が検査拡大に反対していると批判しましたが、押谷氏はスクリーニング目的の検査を否定したのであって、確定診断目的の検査自体は拡大すべきと主張していました。

ちなみに、推進派が掲げた国民全員PCR検査は、毎日検査を実施した東京五輪のバブル内でも陽性者が継続的に出たことから、その有効性が経験的にも否定されました。

<事例2>銀座ステーキ店における忘年会

<事例2a>西村康稔内閣府特命担当大臣会見 2020/12/15

西村康稔大臣:分科会から言われています「5つの場面」。とにかく飲酒を伴って長時間、大人数、そして特にマスクを外しての会話、これが感染拡大、最近のクラスターの幾つかの事例の特徴的なケースとなってきていますので、是非、国民の皆さんにはいつでもマスクをする、食事の時もマスクをして、食べる時はもちろん無理ですが、外しても、会話の時にマスクをしていただいて、そして対応していただくことを是非お願いしたいと思いますし、会食のクラスターの8割以上は5人以上であることも頭に置き、長時間、大人数はできるだけ避けていただくようにお願いしたいと思います。(中略)会食の場面、マスクを会話の時は是非していただくとか、あるいは斜めに座るとか、こういうアクリル板のある店を使っていただくとか、是非注意をしていただきたいと思います。飲食店のガイドラインも強化をしておりますので、アクリル板とか換気をチェックするとか、来られたお客さんにマスクを奨励するとか、こういったこともガイドラインに盛り込まれていますので、是非これも事業者の皆さんもお願いをしたいと思いますし、是非、時間短縮の要請などがある地域においては、これに応えていただいて、私どもも支援を強化していきたいと考えています。

<事例2b>衆・内閣委員会 2020/12/16

大西健介議員(立憲民主党):総理は銀座のステーキ店で会食をされたということが話題になっています。8人ほどの参加者があったということですが、参加者の一人の俳優の杉良太郎さんは、メディアの取材に対して「きょうはみんなで野球の話をしただけ、忘年会」というふうに言われたんですね。どういう趣旨の会合だったかわかりませんが「忘年会だった」と取材に答えたと。西村大臣は「会食のクラスターのうち5人以上の会食が8割ということも頭に置いていただきたい」と国民に呼びかけていますが、5人を超える会食をこのタイミングで総理が行ったことについて、まさに大臣の言っていることと違うので、どのように受けとめておられるか。

西村康稔内閣府特命担当大臣:御指摘のように「大勢、大人数、長時間になるとリスクが高まる」と注意喚起をしてきています。「そういったことを頭に置いてぜひ対応していただきたい」という言い方をしたと思いますが、いろいろな状況がありますので、感染防止策を徹底するということが大事です。呼びかけの中でも「アクリル板を使うとか、CO2濃度センサーなどで換気を見るとか、そういったことをしっかりと対応していただくように」とお願いしてきました。これからもお願いをしていきたいと考えているところであります。

大西議員:「忘年会はやめてください」「5人以上の会食は避けてください」と言っているのに「いやいや、ちゃんと対策を立てていれば5人以上でもいい」のような発言をされると、結局、一体、国民は「どっちなんだ」と。「会食するな」と言っているのか、「しても、ちゃんと対策していればいいよ」と言っているのか、どっちかわからない。

西村大臣:「一律に5人以上はだめだ」ということを申し上げているわけではありません。何かそうした強制力があるわけでもありませんし。ただ、長時間、大人数、これはリスクが高い5つの場面、分科会からも示されております。「リスクが高いので、できるだけそれは控えていただきながら、もし、どうしてもされる場合には、それは、感染防止策を徹底して、これはあわせてアクリル板のある店を選んでください」とか「換気に注意してください」といったこともあわせて申し上げています。ぜひ、こうした感染リスクが高いことを頭に置いて対応していただければと考えているところです。

コロナ禍の日本社会において、西村大臣の「5人以上の会食をできるだけ避けてほしい=5人以上の会食をするのは善くない」という自粛要請が、いつのまにか「5人以上の会食を行ってはいけない=5人以上の会食をするのは悪い」という私権制限のように解釈されるようになりました。

日本社会は善くも悪くも同調圧力が強く、日本国民は「~した方が善い」を「~しなければならない」という強迫的な命令として受け取ってしまうのです。国民の私権を不当に制限する自粛警察が生まれたり、明確な科学的根拠がないにも拘わらず緊急事態宣言を受け入れる世論が形成されるのもこのようなメンタリティによるものであり、日本のコロナ禍を不必要に混迷させた大きな要因と言えます。

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