コロナウイルスに寿命はあるのか?

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載41)

コロナの感染拡大、収束を示す陽性者ピークには、人間側の要素(ロックダウン、人流抑制等の対応策の有無、免疫、ファクターX等の人種や国民性によるコロナに対する感受性の差、ワクチン接種の有無等)だけでは説明できない振舞があります。人間側の要素から独立している一定のピーク幅、即ち「半値幅の普遍性」です。別名、コロナウイルスの「寿命」です。ウイルスの「寿命」という言葉に違和感のある人は、「半値幅の普遍性」と言い換えて読んでください。

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この件は昨年10月、連載⑱「新型コロナ第1種の寿命は1ヶ月?」で、第1波について初めて言及しました。まずそこから始めます。

1.第1波の寿命

 

図1は、日本を含む11カ国の昨年3月の第1波のピークを100に規格化して重ねたグラフです。ピークの感染者数で最大40倍違う国々で、また、各国のコロナ対策が様々な国々で、ピークの半値幅(FWHM、ピークの半分の高さでの分布の全幅)がほぼ同じ値(平均約25日)を示しています。これらの国では、感染拡大から約2ヶ月で、それもほぼ同形で急激な収束を示しています。

2.デルタ株の寿命

 

図2は、解析を行っている14カ国から比較的デルタ株のピークが明確な6カ国を選んで、ピーク位置で規格化して重ねたグラフです。第1波に比べると幅は国ごとに広がっていますが、ピーク位置での絶対値は最大250倍ある国々で、半値幅が33日から67日、平均で42日、第1波と同様に、ほぼ同形で急激な収束を示しています

3.日本と同期している世界の陽性者推移

 

図3は、昨年3月から現在までの日本の陽性者数の推移を、世界の推移と並べて描いたものです。日本の第1波から第5波まできれいな周期性をもって現れていますが、世界の推移も日本に同期しています。

コロナウイルスの感染力は非常に強いので、各波の立ち上がりが同期するのは理解できますが、収束が日本と世界で同期するのは考えにくいことです。何故なら、各国のコロナ対策は千差万別ですし、人種、国民毎のコロナ感受性も大きく異なるはずです。そのような差異を平均すれば、収束は非常に広い分布になるはずです。それが平均したうえで得られる世界の推移が、島国の日本と同じ収束を示し同期していることは、特筆すべきことです。

4.日本の各波の寿命

本連載のシミュレーションは現象論です。現象論という意味は、感染拡大や縮小の原理法則を始めから持っているのではなく、あくまで、感染の事象を記述する簡単なモデルを仮定して、実際の陽性者数、死亡者数の推移を再現するように、モデルに含まれるパラメータを時間的に変化させます。できるだけパラメータの数を少なくすることがシミュレーションの要点です。

そこで取り入れたのが、ピーク毎に分解して解析する手法です。本連載では「種」と呼んでいます。分解した「種」毎に感染確率を、データを再現するように変化させるわけですが、最も簡単な場合、ピーク時で1回だけ感染確率を一気に小さくしてやれば、データを再現できます。死亡率は「種」毎に一定にしています。

 

この手法で、これまでの日本の陽性者数推移を再現したのが図4です。各波をひとつもしくは複数の「種」(色分けにしています)に分解し、それらを足し合わせて全体を再現しています。

 

図5は、その各「種」を規格化して重ねて描いたものです。裾の広がりの様子は差が大きいですが、半値幅はほぼ同じくらい、平均で31日です。

5.英国の各波の寿命

この手法で、日本を含む世界14カ国の解析を続けていますが、ここでは英国の例を示します。

 

図6は、図4の日本の場合と同様に、英国の陽性者推移を「種」分解して再現したものです。世界のいろいろな国の解析をしていると、英国の場合の第3波と第4波の間にあるようなきれいなピーク状ではない「種」を設定しないと全体を再現できないこともありますが、基本は単純なピーク状の「種」の重ね合わせでデータを再現できます。

 

図7は、英国の各「種」を規格化して重ねて描いたものです。裾の広がりの様子は差が大きいですが、半値幅はほぼ同じくらい、平均で32日です。日本の31日とほぼ同じです。

6.結論

現象論の立場から言えば、ここで示した「半値幅の普遍性」は、必ずしもウイルスの寿命の仮説を必要とするものではありません。ただし、この普遍性は、連載39で示したように、ピークアウトのメカニズムを解明する上には必須なものです。この「半値幅の普遍性」と矛盾なくピークアウトを記述できなければ、連載40で示したように、これまで行われたロックダウン、人流制限、ワクチン等の施策の効果の定量的評価はできません。