黒坂岳央(くろさか たけを)です。
これまで、ビットコインを始めとする、仮想通貨(暗号資産)の必要性は長い間、理解されなかった。「ビットコインは価値保存の手段に、イーサリアムはスマートコントラクトでデータに情報を入力可能。」そう言われてもほとんどの人にとっては、必要性が理解できないはずだ。
「デジタル・ゴールドと言われても、本当のゴールドに投資すればいいだけでは?」
「価格の変動幅が大きすぎて、通貨として使用に耐えない」
「所有権は法が証明してくれるから要らない」
2021年までは比較的投資に詳しい人でもこうした反応が多かった。だが、2021年は以前大きな盛り上がりを見せた2017年とはまったく状況が異なる。従来の資産やテクノロジーでは対応できなかった新たな価値を、仮想通貨が生み出している。そして今年2021年は世界最大の経済マネーが流れるアメリカが、国家としてビットコインを受け入れた歴史的な年となった。
※本稿はビットコインを取り巻く経済、金融の概況を論考するものであり、投資を煽る意図は一切ないことをお断りしておく。また、ビットコインを中心に話を進めているが、同じ機能性を持つ他の通貨でも代替可能である。
国家としてビットコインを歓迎するアメリカ
今年に入り、アメリカはビットコインを歓迎する姿勢を見せた。
アメリカ人は受け取った給付金の半分を投資にまわすと、意識調査で結果が出ている。その多くは株式市場に流れているが、ビットコインへの流入も少なくない。アメリカの給付金の支給「前」に、ビットコインの価格が下落したのがその状況証拠の1つといえよう。
また、アメリカ人のビットコインへの旺盛っぷりは数字にも現れている。アメリカ人のビットコインの所有者人数は4,600万人ほどと見られ、これは約3.3億人のアメリカ人の内、13.9%にも及ぶ。日本人でビットコインを所有している人は極少数派であることを考えると、これは極めて大きな差だ。
さらにビットコインを所有する上場企業はMicroStrategyとTeslaが1位と2位であり、中でもMicroStrategyは群を抜いた保有数となっている。MicroStrategyの企業としての時価総額は6,868,973千ドル(11月11)で、参考までに世界トップのMicrosoftは2,495,877,939千ドル(11月11)だ。まさしく、トップとはケタ違いの差があるわけだが、今後は同社が中長期的に保有しているビットコインが暴騰することで、この企業価値は大きく高まることが予想される。
アメリカのビットコイン熱は民間人や企業だけにとどまらない。ニューヨーク市のエリック・アダムズ次期市長は「最初の給与をビットコインで受け取る」と表明し、アメリカの学校では仮想通貨の教育をはじめることが決まった。これまでも大学、大学院での講義はあったが、義務教育過程にまで降ろす議論が起きたのは大きな変化だろう。また、10月には初の先物ETF承認となり、ビットコインは大きく値上がりした。尚、現物ETFの承認は「まだ時期尚早」という見方が優勢だが、これも時間の問題だろう。
中国は仮想通貨の規制を強化する一方、かつては否定的な見方をしていたアメリカは迎合の姿勢をとった。特に発行元が中央集権でないビットコインについては、規制するより受け入れる方が得策であると合理的に判断したのではないだろうか。以上のことから、今年2021年はアメリカにとって「国家として仮想通貨を受け入れる」スタンスを明確に示したと個人的に感じた(もちろん、すべての仮想通貨に対してではない)。
「資産の100%を日本円」は本当に安心か?
一方、これまで日本では、具体的な仮想通貨の必要性を感じる人は少なかった。自国の日本円は安定しており、強烈なインフレで苦労した現役世代はいないからだ。しかし、今年はこれまでの状況とは変わりつつある。
コロナ禍で世界的金融緩和政策が取られ、ドルを始め世界の通貨は相対的な価値を落としている。ヘッジファンド運営会社ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏はビットコインの所有を認め、「現金(米ドル)はゴミ」と述べた。円安の下落も留まるところを知らない。世界的にインフレが本格化しており、日本でも徐々にそれが顕在化しつつある。下記は世界的にインフレが顕在化しつつあることを示すものだ。ガソリン代や牛丼などの外食が高くなっていることを、身近で変化を感じる人も出始めているのではないだろうか。
そして「いつかは必ずやってくる」と言われる南海トラフ巨大地震、そしてにわかに現実味を帯びる台湾有事。我が国が万が一にでも国難に陥る危機を考慮するなら、資産の100%が日本円というポートフォリオでは個人的には少々心許なく感じる。だが資産ポートフォリオの1つとして、ビットコインを所有していればインフレ対策になり得る。インフレは株やゴールドでも対策の代替が可能だが、市場規模がこれから拡大することが確実視されている仮想通貨の方が伸びるポテンシャルはさらに高いと感じる人もいるのではないだろうか。
日本円は他国で使えないが、ビットコインは他国でも受け入れられる。たとえ、取引所が停止しても、ウォレット保管でどこへでも持ち運べてしまう。そしてこれはやや現実味のない話ではあるが、法定通貨でないビットコインは極端なインフレ下おける預金封鎖にさえ対応できてしまうのだ。
2021年は仮想通貨にとって大きな変化があった。それは単に大きく価格が高騰したというものではない。「将来は企業や国家が買い始める」と数年前に囁かれていた「将来」が「現在」に追いついたという意味だ。だから筆者は今年、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に認めたり、先物ETF承認がされることを驚かなかった。以前からずっと起こる事項として言われていたことだからだ。そして、今後もすでに確定事項として期待される未来は、これからやってくるだろう。
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