米中首脳会談、友好ムードも平行線たどる

報道の通り、米中首脳会談がオンラインで米東部時間15日に開催されました。両者が言葉を交わすのは、バイデン大統領就任後で言えば春節前の2月10日、9月9日の電話会談以来、3回目です。

今回の首脳会談は、米東部時間15日午後8時前からスタート、午後10時頃に一度休憩を経て再開し4時間近くに及んだとか。各報道の通り、習氏がバイデン氏に「古くからの友人であり、会えて非常にうれしい」と呼び掛け、バイデン氏が「これまでにないフォーマルな会合」と語るなど、平和的且つ友好的なムードが流れ、3月に政府高官が一堂に会したアラスカ会議のような緊張を免れました。ただし、共同声明はなし。両者は緊張悪化を回避すべく歩み寄ったことは評価されるでしょうが、それぞれの声明は従来通り互いの主張が散りばめられ、温度差が感じられます。

ホワイトハウスの声明では一つの中国政策を再確認した半面、引き続き台湾海峡、人権、貿易慣行をめぐる問題に懸念を表明。インド太平洋の重要性を唱えることも忘れません。同時に、公衆衛生や気候変動など分野での協力の必要性を説き「競争が紛争に発展しないよう、良識あるガードレールを設置し対話のラインをオープンにする必要がある」と締め括っていました。

中国政府からの声明では、両国間において①相互尊重、②平和共存、③互恵的な協力―が必要と説きます。ホワイトハウスと比較するとかなりの長文だったなか、足元で習氏が好んで使う表現“グローバル・ビレッジ(グローバル化により、地球全体がひとつの村のように緊密な関係をもつようになったという考え)”が以下の通り登場―「中国と米国の双方が発展の重要な段階にあり、人類のグローバルビレッジも多くの課題に直面している」。習氏の発言としても「人類はグローバル・ビレッジに暮らしており、我々は数多くの困難に直面している。中国と米国は対話と協力を増やす必要がある」と扱われていました。なお、習氏は9月22日の国連演説、10月14日に深セン経済特区設立40周年記念式典での演説でも”グローバル・ビレッジ”を使用。米国が多国間で対中包囲網を築こうとするなか、世界が一つであると強調し、米国に歩み寄りを求める常套文句と受け止められます。

画像:中国側はすぐに声明と共に画像を公開。掲載された写真では、終始笑顔な習主席が印象的

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(出所:中国政府

出席者は、米国側からイエレン財務長官、ブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官、キャンベル・インド太平洋調整官、ローゼンバーガーNSC中国担当上級部長、Czin・NSC中国部長など。中国側は劉鶴副首相、王毅外相、謝鋒外務次官、丁薛祥氏、楊潔篪氏などとされています。

主な協議内容は気候変動、サプライチェーン、北朝鮮、アフガニスタン、イラクなど多岐にわたりました。注目点は以下の通り。

・台湾問題→バイデン氏は”ひとつの中国“政策のコミットを表明。習氏は、足元の米中間の緊張につき「独立を目指し米国に何度も支援を求める台湾の試みと、一部の米国人による台湾を通じた中国封じ込めが原因」と指摘。さらに「こうした動きは火遊びのごとく極めて危険で、火遊びした者は火傷する」と警告したという。ホワイトハウスによれば、バイデン氏は「現状を覆すような、また台湾海峡の平和と安定を損なう一方的な動きに強く反対する」と応酬。

・貿易問題
→バイデン氏は、「米国の産業と労働者を中国の不公正な貿易と経済慣行から守る必要あり」と表明。習氏は「(米国は)安全保障を悪用し、中国企業を痛めつけている」と批判した。

・人権問題→バイデン氏はウイグル、チベット、香港などの問題を指摘。これに対し、中国側の声明では「民主主義は様々な彩りがあり、決してカスタマイズされたものではない」、「中国人民は常に平和を愛し、求めてきた。中国国民の血には、他人を侵略して支配する遺伝子はない」とし、米国型の民主主義を押し付けるべきではない、中国が人権をないがしろにしていないと主張

さて、メディアの報じ方をみると、米英メディアからは健全な協議だったと評価しつつ平行線をたどっているとの見方が浮かび上がってきます。中国側は包括的且つ綿密な議論を展開したと伝えるほか、台湾に対する強固な姿勢が表れ、抜本的な関係改善が近いようには見えません。

WSJ紙:Biden, Xi Cool Down Hostilities in Virtual Meeting – WSJ

CNN:Xi-Biden meeting: ‘Healthy debate,’ but no breakthroughs in Joe

ワシントン・ポスト紙:Biden, Xi try to tamp down tension in long virtual meeting

BBC:Biden-Xi talks: China warns US about ‘playing with fire’ on Taiwan

チャイナ・デイリー:Xi stresses sound China-US ties in virtual meeting with Biden

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙:Xi Jinping urges Joe Biden to put US policy on China back on track

今回の首脳会談は「副大統領時代で最も頻繁に会談した首脳は習氏」と豪語するバイデン氏の希望で実現したものです。以前からお伝えするように、バイデン氏は春節の直前に習氏との電話会談を設定し、日米首脳会談に合わせケリー特使を訪中させ、投資禁止対象の中国企業リストの公表前にイエレン財務長官と劉鶴副首相の予定を組むなど、これまで用意周到に中国に対応しきました。今回の首脳会談も、民主主義サミット開催前の中国への配慮だったとしてもおかしくありません。写真をご覧の通り、バイデン大統領は赤のネクタイを着用する用意周到ぶり。中国側からすれば渡りに船で、北京冬期五輪の出席を求める良い機会になったことでしょう。習氏が民主党のカラーであるブルーのネクタイで登場したのも、そうした下心が背景だったり?

会談の様子 NHKより (編集部)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年11月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。