「国民は安倍・菅政治の継続を選んだ」となぜ言わないのだろう? --- 田中 奏歌

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今回の衆議院選挙の結果はご承知のとおり、自民は議席を減らしたものの圧倒的勝利であり、立憲民主党・共産党は惨敗である。

マスコミは、この自分たちがコントロールできなかったまさかの結果について、いろいろと述べている。

曰く、連携した共産党を嫌ったからだ、公約が現実味がなかった、などなどいろいろ言って最後に、安定を選んだ、とくる。

それはそれで間違ってはいないが、素直に考えれば思いつく、もっと重要な観点がなぜ述べられていないのだろう。

私は寡聞にして「国民が安倍・菅政権を評価したからだ」「国民が安倍・菅路線の継続を望んだからだ」という解説を見聞きしたことがない。すべての報道をチェックしたわけではないので、中にはそういう意見もあったのかもしれないが、私の記憶にはない。しいて言えば、「安定を選んだ」という声にそれをにじませているのかもしれないが・・・。

今回の選挙結果にはいろんな要因があるだろう、それはそれでいいが、マスコミや野党が一番言いたくない要因をあえて無視して分析しているようにしか見えない。これこれこういうことから考えてこれこれこういうことだと思う、という説明のはずだが、順序としてまずは、安倍・菅政治を国民がどう考えたかという評価を無視した分析は成り立たないと考えるが、残念ながらそこに言及することがないのはどういうことであろうか。

考えてみてほしい、選挙前、中には「これからの岸田政権への期待度を占う選挙」という声もあったが、マスコミもマスコミ界のいわゆる有識者の皆さんも多くの人が、この選挙は「実績のない岸田政権の評価というより今までの政治への評価を試す選挙である」「政権選択選挙である」「安倍・菅政治の総括をすべき選挙」、と言ってきた。野党はそれに乗せられた感はあるものの、安倍・菅政権との決別をうたって選挙に臨んだはずである。

その結果がこのとおりである。確かに、共産党アレルギーは大きいし、立憲民主党もグダグダではあるが、素直に考えれば、国民は今の政権を選んだのである。自民党を選んだことより野党を選ばなかった、という理由を探したいのだろうが、選挙前のトークが正しければ、野党に政権を託すより安倍政治・菅政治を引き継ぐ次期自民党政権のほうがいい。と思ったと考えるのが素直ではないか。

もちろん、安倍・菅政治が完璧であるというつもりはないが、極端な話、仮に、政界がゴミのような政党の集まりでありほかに選ぶものがなかった、と仮定しても、それでもその中でほかの政党より安倍・菅政治を引きついた政党のほうがマシである、と国民は判断したという大事な事実を明確にしない分析はおかしいと思うのだが・・・。

安倍政権から菅政権への移行時、党内の多数の支持を集め菅前総理が選ばれたわけで、菅前総理が安倍政治とは全く別路線を行くと思った国民は当時いなかったと思われる。つまり菅政権は安倍政権の延長線にあることを国民は知っていたはずである。そのうえで当時の異常なまでの菅前総理の支持率の高さは、「安倍政治を国民が良」とし、よって「菅前総理がそれを引き継いでいる」ことを国民が支持したことの表れであったはずである。

今回の選挙の結果は、菅政権末期に陽性発現者が増加し、重症者や死者は少なかったのにマスコミに煽られて政権不支持となった人も、今になって、菅政権を支持した時のことを思い出し、少しはまともな判断ができてきた、とも思える。

今の岸田政権は安倍・菅政治を引き継いではいないという意見もあろうが、岸田総理に安倍元総理と菅前総理ほどの同一性はないとしても、マスコミは岸田総理の誕生には安倍元総理の影響が大きいと言っていたではないか。今回の選挙結果は、岸田総理への期待というより、これまでの政権の手法が安心できると国民が判断した結果だとまずは考え、そこから分析を始めるべきであろう。

選挙前の菅前総理の低い支持率にもかかわらず、なぜここで安倍・菅政権の評価に言及するのかといえば、現在のコロナの状況にもかかわらず、マスコミが菅前総理の評価に言及しないことを不思議に思うからである。

マスコミがどう言おうと、コロナ対策で、ここまで陽性発現者が減ったのは、菅政権下においてほかの人では成し遂げられないほどの勢いでワクチン接種を進めたことが寄与していることを国民はようやく気づいたのだと思う。今の陽性者減少はワクチンのせいだけではないものの、ワクチンの効果は絶大であった、と考えている人は多いのではないか。しかも、ワクチンのおかげで陽性発現者は増えても重症者・死者は増えなかったことも国民は気がついた。マスコミが言わなくともそれを成し遂げたのは、誰あろう菅前総理であることをわからないほど国民はバカではないだろう。ついでに言えば、東京オリンピックも今にして評価しはじめた人も多いのではないだろうか。

もちろん、コロナ対策に不満の人もいるだろうが、投票に行った人の中ではそうでない人のほうが多いということを素直に認め、そこから分析を始めたほうがいい。

つまり、今回の選挙結果の分析は、まず、国民は安倍政治・菅政治を良しとした、と評価することから進めるべきで、その上でその評価を論じ、次の理由として、批判しかしない野党、政権のためには共産主義者と組む野党には政治を任せられないと思った、など分析を深めるのがというのが正しい見立てのように思うがいかがであろうか。

なお、おまけで言うと、今回の維新の躍進は安倍・菅政権に嫌気した人の票が流れた、という分析もあるとは思うが、上記のように考えると、菅前総理が自分の成果をあまりにもはっきり言わない、反論しない、ということに不安を感じた人が、今の政党の中で単なる批判ではない意見を「はっきりという」政党を選んだということではないかと思っている。

田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て2021年4月より隠居生活。