日本・英国:今こそ海洋国家としての強みを活かせ(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

台湾を巡る情勢が緊迫化している。最近、米議員団が軍用機で台湾を訪問した。その直前には、蔡英文総統が、台湾軍が米軍から訓練を受けていることを明らかにした。中国の首脳らは、これらの動きに強く反発している。

また最近、英国が米豪と準軍事同盟を組んで「AUKUS」を結成した。「台湾有事は日本有事」と認識する英国がなぜ今、助っ人として立ち上がったのか。

日本戦略研究フォーラムで日英関係を研究している橋本量則研究員は、同研究所のコラムで日英関係を次のように分析している。

「18世紀から19世紀にかけて『日の沈まぬ国』と謳われた大英帝国は、七つの海を股にかけて貿易を行い繫栄」した。その繁栄を維持するために極東の島国、日本を選んで1902年、日英同盟を結んだ。この同盟によって、日本は日露戦争を勝ち抜いた。日本の太平洋覇権を恐れた米国によって21年のワシントン会議で解消されてしまう。橋本氏によると28年に英政府内で日英同盟復活論が検討されたが潰されたという。34年にも日英不可侵協定の制定案が台頭した。しかし1902年の日英同盟時代と違い、世界の覇権は英国から米国に移っており、その米国は中国市場に熱視線を送るようになっていた。

橋本氏は、この時期「日本も英国も海洋国家、通商国家としての本分を忘れていた」と断ずる。私も常々、日本はなぜ中国大陸に攻め込んで地上戦を展開したのか、なぜ損得の判断がつかなかったのか疑問だったが、橋本氏の「海洋国家としての本分を忘れていた」との解釈は、真相に迫っていると感じた。

英国はその後EUに加盟するに至り、英国独特の動きを封じられた。大陸国家、独・仏の言いなりにならざるを得なかったとも言える。しかし英国独自の道を取り返すために近年、EU脱退という荒業をやってのけた。植民地主義の時代、スペイン、ポルトガルも南米に植民地を築き、繁栄を謳歌したが、英国が彼らの海軍を壊滅してしまったため、植民地の利益を本国に送れず、植民地は独立した。

橋本氏によると今年3月に発表された英国の国家戦略には「インド太平洋地域は英国の経済、安全保障、そして開かれた社会を支えるという地球的な大望にとって極めて重要であり、英国の経済、安全保障、価値観のために、より深くこの地域に関与する必要がある」と明記されている。これは安倍外交の基本方針と全く同じである。

英連邦各国はいずれも植民地から脱したが、カナダ、豪州、ニュージーランド、パプアニューギニア、ソロモン諸島など全世界、実に53ヵ国にも及んでいる。海洋国家の日英に対して、大陸国家の典型例は中国、ロシアだろう。海洋国家が大陸国家を封じ込めるコツは、海洋を流通する物資を止めてしまうことだ。日本は海洋国家としての生き方を改めて考えてみよう。英国が気づいたように、日本に相応しい、より強くなる道があるはずだ。

(令和3年11月17日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。