データでひも解く首相経験者63人:在職日数と退任後の活躍に関係は?(倉持 正胤)

グローバル・インテリジェンス・ユニット チーフ・アナリスト 倉持 正胤

11月10日、岸田内閣は午前中の閣議において総辞職し、午後に衆参両院の本会議で、岸田文雄氏が、第101代内閣総理大臣として指名された。10月に100代内閣総理大臣となり、区切りの数字で話題になったばかりではあるが、首相の就任代数は、任命後に内閣を組織してから総辞職するまでを一代と数えるルールがある。このため、5回任命されて第5次内閣まで組織した吉田茂のように、一人で複数の代を担った首相が存在するため、就任代数は首相経験者の人数よりも多くなる(参考)。首相として岸田氏は64人目ということになるが、過去の首相経験者63人をデータで振り返ってみたい。

日本国憲法(昭和21年11月3日)
出典:首相官邸・内閣制度の概要より

まず、現在存命中の首相経験者は12人いる。10月末に行われた総選挙においても5人(麻生太郎、菅直人、野田佳彦、安倍晋三、菅義偉)が元首相という肩書で当選しているように政界で一定の影響力を保ち続ける場合や、政界の外から重鎮としての存在感を生かして影響力を発揮する場合があり、総選挙前の7月に、立憲民主党の枝野幸男代表が大分市内にある村山富市元首相の自宅を表敬訪問し、政権交代への意気込みを表明したことは記憶に新しい(参考)。

現在12人いる経験者の中で、最も古い時期に首相を務めたのは1989年に就任した海部俊樹であり、58歳で昭和生まれとして最初の首相となった。つまり、意外にも昭和の時代に昭和生まれの首相が存在しなかったということでもある。全首相の就任時平均年齢は62.5歳であるが、戦後(昭和)における首相就任時(東久邇宮~竹下)の平均年齢は64.6歳となっており、平成以降62.2歳、戦前61.4歳と比べて最も高くなっている。首相就任時に77歳だった鈴木貫太郎が最高齢の就任であり、江戸時代生まれ(慶應3年)最後の首相でもある。最年少は44歳で就任した初代首相・伊藤博文である。

図表:生年年号別に見た最初と最後の首相就任者
出典:首相官邸より筆者作成

首相としての任務は激務と評される中で、首相に最初に就任した時の年齢から亡くなった時の年齢まで20年を超えた人物が14人いる。戦争直後の混乱期に就任し、54日間務めた東久邇宮稔彦王が45年で最長であり、新興宗教立ち上げや千葉工業大学の創設に当たって発案者となるなど活躍の場を広げた人物である。

以下、2位の中曽根康弘(就任から37年)は、在職日数も1806日と長いばかりでなく、公益財団法人「世界平和研究所」会長、拓殖大学第12代総長・理事長、名誉総長などを務め、政財界その他にも多大な影響力を保っていた。存命中も含めると、20年を超えた人物として5人が追加されるが、中でも小泉純一郎は就任から20年、在職日数1980日であり、脱原発などの分野で活躍を続ける姿は中曽根康弘に近い歩みと評することができる。その他に、過去の事例でこのタイプにあてはまる例として、吉田茂(就任から23年、在職2616日)があげられる。

また、西園寺公望(就任から34年)、松方正義(就任から33年)も在職日数は約1000日であり、「元老」と呼ばれ、戦前における首相選定に大きな関わりを持っていた。首相に最初に就任してから20年を超えた人物19人の首相在職日数の平均は1044日であり、その他の44人の674日を上回っており、首相として長く君臨したことがその後の活動にも一定の影響力を与えているといえる。

一方で、東久邇宮稔彦王と同様に在職期間が短いが、亡くなるまで長きにわたって活躍したパターンとして、石橋湛山(就任から16年)があげられる。首相在職期間は65日と短いが、立正大学学長を務め、また元来のジャーナリストという経歴もあってか、退任前後において政界以外の活躍が目立つ人物として特筆に値するだろう。また、就任から28年が経過している細川護熙も在職263日と短いが、政界引退後は主に陶芸家、茶人として活動する一方で、脱原発の論客としても知られ、2014年の東京都知事選挙に立候補し、首相経験者が知事選に立候補したのは現憲法では初となった。鳩山由紀夫も在職266日と短いが、就任から12年経過した現在でも東アジア共同体などについて発信を続けているため、このカテゴリーに含まれるといえるだろう。

しかしながら、首相経験者として無難な最期を迎えたケースばかりではないことも指摘しておかなければならない。戦前には現役首相時の暗殺が2例(原敬、犬養毅)あり、犬養毅は在職日数で見ても156日と短いが、原敬は1133日と長く在職した末の暗殺であった。また、首相退任後、二・二六事件で暗殺された斎藤実は就任から4年と短いが、高橋是清は就任から14年が経過し、大蔵大臣としての活躍の方で名をはせていたという点で、両者のパターンは異なっている。

図表:在職日数(縦)と最初の就任からの経過年数(横)(赤は存命中)
出典:首相官邸より筆者作成

新たな船出となった岸田政権はどのような推移をたどるのか。様々な問題解決に功績を残す長期政権となるのかは、重要課題とされる経済対策がカギとなるのかもしれない。

倉持 正胤
株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
青山学院大学大学院国際政治経済学研究科・国際政治学専攻修士課程修了。民放テレビ報道局にて国際ニュース部門、デジタルメディア編集などを担当した後、2021年8月より現職。