国家資金による選挙買収まがいの55兆円経済対策

財政を食い物にする政治

政府は財政支出が過去最大の55兆円となる経済対策を決めました。国費約30兆円の財源は国債で手当てする見込みです。最悪の財政状況にかかわらず、先の総選挙で与野党を問わずバラマキ合戦をした結果です。

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来年夏の参院選も控え、バラマキ財政に拍車がかかりました。野党が与党をけん制するどころか、所得税や消費税率の大幅引き下げなどを主張するものですから、刺激された与党は負けじと財政膨張に走りました。

総選挙の期間中、茨城6区における岸田首相の応援演説会で、トラック協会の関係団体絡みで参加者に5000円の日当が支払われ、市民団体が有権者の買収に当たると告発をしました。公職選挙法違反の疑いです。

一方、最大派閥の会長に就任した安倍元首相が17日、事務所を訪れた岸田首相に「経済対策では、今すぐ使える真水ベース(国による直接負担)で30兆円を上回る規模が必要だ」と要請しました(日経/20日)。岸田首相も総裁選向けに「数十兆円の経済対策」を公約していました。

選挙運動の際、候補者という個人側から、有権者個人にわたるカネは買収資金として特定しやすい。選挙絡みで、国家予算という大きな財布から不特定多数にわたるカネは合法化できるということでしょうか。

政治家が個人的に秘密裡に裏金を有権者に渡せば、公職選挙法違反となります。政権・与党が国民向けとして予算措置を講じれば、選挙絡みでも合法的な行為とされる。釈然としない話です。

今回の経済対策は政府が閣議決定し、予算案として国会で可決され、合法的な措置となります。そうであっても、「国家資金を使った与党の選挙対策費」という性格の色が濃いと思います。

経済・景気対策なのか、選挙対策なのか紛らわしい予算を歴代政権も組んできました。それがだんだん露骨になってきたような印象を受けます。

安倍氏が「すぐ使える真水ベースの30兆円を」などという露骨な言い方をし、しかも「その金額を首相に伝えた」と新聞にすぐ報道されることをむしろ期待している。そのことを全く隠そうとしない。

安倍氏は2014年11月、「解散表明、消費税10%への引き上げ見送り」と述べました。「見送りについて有権者の判断を総選挙で問う」とも語り、明らかに直接的な選挙利用だとの批判が聞かれました。有権者誘導型の経済・財政政策の程度がだんだん色濃くなってきています。

今回の経済対策をメディアは酷評しています。「国民や事業者への現金給付などで総額が膨らんだ。18歳以下の子どもへの10万円給付は、事実上所得制限がなく、事実上のバラマキだ」(読売社説、20日)。「現金給付」の前に「選挙絡みの」とすれば、もっと正確でしょう。

「経済が正常化し始めている今、なぜ昨年度の40兆円をしのぐ巨額の対策が必要なのか。自公が衆院選で公約した現金給付が、十分に検討されぬまま次々に次々に盛り込まれた」(朝日者社説)。後払いなら問題視されないと、与党は考えているのでしょうか。

「岸田首相は『新しい資本主義』を掲げる。産業の新陳代謝や労働者の移動を促す施策を深堀りし、技術革新や生産性の向上につなげない限り、日本経済の地盤沈下は避けられない」(日経社説)。正論です。

「現金給付」は衆院選の公約の後払い、来夏の参院選対策の先払いに当たるということでしょう。「経済対策だ」「コロナ対策だ」「年内に補正予算案として国会に提出する」といえば、合法的な扱いを受ける。

真水の国費30兆円が国債で賄われるとすれば、その償還(返済)は選挙権を持っていない若い子どもに大きくのしかかってきます。「子どもの名義で親が借金して子どもに現金給付し、将来、返済するのはその子どもたち」というからくりが見えてきます。

今回の国債30兆円が加わると、22年度の公的債務(借金)残高はGDP比で250%に拡大する。「借金として国が発行する国債を日銀が購入・保有(資産)しているから、統合(合算)すれば、帳簿上は差し引きチャラになる」(統合政府論)という奇説を財政膨張の根拠にする人もいます。

おかしな理論です。親会社(国)の債務を子会社(日銀)に押し付け、それは子会社の資産になっているから、大丈夫というような奇説です。経営が苦しい親会社がやりがちな手です。そんな企業は倒産する。

国は国家債務の見返りに何を保有しているかというと、社会保障費や今回の現金給付で多くを費消し、残りも売却できないもの(民間に売却しにくい空港、港湾、防衛施設、公道、橋)が多い。

このようなことを繰り返えさせないためにも、主要国ならどこにでもある財政状況の監視機関の設立、世襲議員の禁止、政治人材の多様化、与党をけん制できる野党の育成といった政治改革が必要なってきます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。