家具の中東への売り込み
筆者が住み始めた人口3800人の町はスエカ市の隣町だ。スエカは日本のシェフも参加するパエーリャ料理の国際コンクールが開催されることで良く知られている。
当町にはイントゥラという社名の家具メーカーがあった。当時は金属製のベッドやダイニングテーブルなどを生産していた。金メッキが施されているのでアラブ諸国では興味を惹くべきはずの家具であった。そのメーカーの社長は家内の友人。そんな縁もあって筆者がその輸出を担当することになった。それは1981年頃であった。
当時はまだ中国製の家具は世界の市場を席捲していない時代で、イタリアやスペインから中東向けに家具が輸出されていた。それで筆者も中東への売り込みを始めた。先ずサウジアラビアとアラブ首長国連邦に営業に行った。中東への訪問は筆者には初めての経験であった。
訪問したのはジェッダとアブダビであった。ジェッダの後リヤドを経由してアブダビに向かった。当時のアブダビは訪問先が訪問を受理するという証明がないと入国できないようになっていた。ジェッダで宿泊していたホテルにそれを訪問先からテレックスで送ってもらうことになっていた。が、筆者がホテルを出た後に届いたようで、アブダビの空港に到着した時にはそれをもっていなかった。
空港から訪問先に電話を入れてパスポートコントロールを通過できないでいると伝えた。訪問先の社長が迎えに来てくれた。それでパスポートコントロールを通過した。予約していたホテルでチェックインすると、同社長が私の部屋までついて来た。まだ、今日の礼拝をしていないので私の部屋でさせてくれということであった。部屋にはメッカの方に向けて矢印の札がデスクの上についていた。それから彼の会社に行っての商談だった。
それから1年も経過しない内にジェッダで家具展示会があるのでイントゥラ社も出展することにした。それはスペインの輸出振興会を通しての参加であった。家具メーカー数社が参加した。
まだ4月だったがもう暑く家具を組み立てるのに1.5リットルのミネラルウォーターを1本空けた。しかも、展示会場はテント張りだったので余計暑さを感じた。宿泊したホテルでは出展したスペインメーカーの人の中に筆者も加わった。会場が空くのは午後5時からということで、午前中は前日にブースを訪問した人の店を訪問するなどしての営業であった。
夕食を取っている時にサウジでの売込みに熟知している人から、「あの店に行ったらまず米国に留学している息子の自慢話を聞かないと商談は始まらない」といったアドバイスがあった。
展示会場内に入ってまずやる作業は展示した家具に砂が僅かではあるがたまっているのを取り除く作業であった。それを開催期間中は毎日行った。
またドイツ・ケルンでの家具展示会にもイントゥラ社が2年続けて出展したので筆者も参加した。
イントゥラ社はその後、メタル家具からモダン家具の生産に移行したが、結局中国製品に市場を奪われ10年ほど前に廃業した。筆者は同社の貿易は3年くらい担当した。
トゥロンの輸出
スペインにはヌガーの一種でトゥロンというのがある。イタリアにも類似のものがある。主要原材料はアーモンドを主体に蜂蜜、卵白、砂糖である。アーモンドが内容量の65%から85%を占めている。大きく2種類に分けられる。アーモンドをそのまま個体のまま加えたものと、それをペースト状にしたものである。
イスラムに統治されていたイベリア半島に11世紀に伝えられたとされている。主要原材料であるアーモンドはコレステロールを減らすのによいことから、トゥロンは健康食品であるとされている。
筆者はこのお菓子も日本向け売り込み商品の中に加えてサーキュラーにて日本の企業にアプローチした。ある大手菓子メーカーME社がそれに興味を示した。この生産メーカーはスペインでも老舗の1社であった。ME社向けに2回コンテナーで輸出しただけで継続しなかった。
日本市場での評判は美味しいと評価されてはいたが、それを販促して行くには内容量が大すぎるという問題があった。ひとつのパッケージが200グラムもすることからそれを一人が消費するわけにはいかない。
実際、スペインでも200グラムというのは内容量として大きすぎた。それを早速メーカーに伝えた。彼らの回答は「それを小さくして生産するための機械がない」ということであった。日本での販売が発展するか否か不明の状態で設備投資はできないということだ。仮りに小さい内容量にすれば世界で市場が広がると説明したが受け入れられなかった。
ところが、ここ最近6-7年くらい前から大手各社は筆者が当時要望したように小粒に包装して販売するようになっている。
ME社の当時部長だった成広さんとは30年経過した今も個人レベルでお付き合い戴いている。
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スペインから来た20世紀最後の行商人①はこちら
スペインから来た20世紀最後の行商人②はこちら
スペインから来た20世紀最後の行商人③はこちら