オミクロンが放つ経済への影響

11月8日に政府が発表した隔離期間の短縮は2つの目的がありました。一つは外国人の再入国を一定幅で認め、留学生受け入れを促進すること、もう一つはビジネス界から強い声のあった隔離期間の短縮要請です。これを受けて条件付きで隔離期間を3日にすることにしたのですが、このブログでもご報告したように極めて難解、かつ実務的に不親切極まりない申請を経なくてはいけません。私もこれは意図的に意地悪をしているのではないか、と思っていました。

それでも私はめげずに申請し、3度の書き直しを経て「難関」の承認書を取りました。しかし、入国後に求められる受け入れ者用の管理ウェブフォーマットの不備に気づき、政府のお問い合わせセンターに電話でそれを指摘するものの「こちらではわからないので申請先の国交省に…」と言われ「でも、このプログラムは国交省が作ったものではないでしょう。誰が作ったのですか?」「…」。先方はあまりの無知に苦笑いをしています。ほとんどやり取りにならないこの電話の相手に怒る気にもなれず、善後策を考えていたところでした。

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岸田首相が全外国人の入国を停止し、日本人の再入国も厳格に管理するとの報道を見て、「これはまずいな」と思っていたら翌朝、国交省から平身低頭なメールで条件変更を知らせる内容、そしてそれは3日隔離を停止するどころか14日の隔離を要請するものでした。覚悟はしていたので、あらゆる予定のキャンセルをさっさと終わらせました。ビジネス目的で14日隔離を求められたら誰も帰国できないのです。

さて、岸田首相のこの思い切った判断に国内からは賛同の声が多いように見えます。岸田首相は何をもってこのようなジャンプをしたのか、ですが、個人的には日本国内の感染者が100人を切る状況となる中、日本そのものをバブル状態にすることで国内不安を和らげ、内需を中心とした経済復興を考えているのだとみています。

逆に言えば政権を安定的に運営するにあたり、コロナ対策で苦労した菅政権のようにならないよう先んじた対策をとったとも言えます。小池都知事も同調していますし、たぶん、日本全体がそのような雰囲気になっていくと思います。それは日本政府が選んだ一つの方策ですので私は何も申し上げませんが、日本人の性格的にこの感染者数が判断トリガーになるリスクが非常に高まってきている点は肝に銘じるべきでしょう。つまりウィズコロナではなく、撲滅を是とする展開です。つまり中国とほぼ同じ展開です。

感染者数が少ない国は日本ぐらいしかないという報道も見受けられますが、それはかなり間違っています。台湾は10人以下ですし、かつて最悪で一日40万人も感染したインドは1万人以下で安定、中東各国もサウジで30人程度をはじめ各国10人以下レベルです。アフリカではケニアが30人程度、ナイジェリアも50人程度で収まっています。

先日のブログにも書かせていただいたのですが、ウィルスの急速な変異株は安定感があるのかはっきりせず、突然消える可能性があります。週末を経て情報が少しずつ見えてきた中、日本の月曜日の株式市場の行方を見守っていたのですが、400円下げて始まり、昼前にプラスに転じて終値はまた400円下げるという結果になりました。多分、岸田首相の対策強化を察知して「相当悪いらしい」という印象付けをしたものと思われます。私は北米で金曜日に打診買いをしています。

仮に本当に感染が広がり、再度ロックダウンなどに向かう場合、インフレもスタグフレーション化する可能性があります。つまり悪性インフレでその場合、アメリカで早期利上げを促す専門家の声が大きくなる中、立ち止まらざるを得ず、FRBは相当難しい判断を迫られることになります。バイデン大統領は月曜日「オミクロンはパニックを引き起こすほどのものではない」と述べ、冷静になるよう訴えています。そのスタンスからするとバイデン氏と岸田氏は真逆の立場ともいえます。

現在の経済問題で最大のハードルは物流、資源高と共に雇用の確保があります。これは北米ならず、日本も同様なのですが、労働集約型の飲食業で人が集まらず、感染リスクの少ない業種に人が流れるという「異次元のミスマッチ」が発生していることが要因の一つです。飲食店で客はマスクをしない中で料理や飲み物をサーブする仕事、特に居酒屋系は「絶対にやりたくないバイト」でしょう。コンビニの店員もレジの周りに列ができればそこに菌が溜まるというイメージが強くなります。

外国人労働者のように稼がないと暮らせないという切迫感も日本人の学生バイトには薄いため、ビジネスが成り立たなくなるのです。店のオーナーが皿洗いをするなんてもはや当たり前の時代なのです。この中で新しい資本主義と言っているようでは次元が違いすぎるような気もします。

一方、気になるのはOPECとロシアが話し合いをしている点です。この1週間で原油価格が15%ぐらい下がりました。そもそもOPECは経済の先行きに不透明感があるとして原油の増産に消極的でした。原油価格が意図せずして下がってしまった中、今後、産出量の増大どころか、現状維持に方向転換するという判断を下してもおかしくないでしょう。

オミクロンは感染者をばら撒く以上にクリスマス、年末に向けて世界に不安感を一瞬のうちにまき散らしたという意味での感染力は強大であったともいえます。しかし、ここは慌てず、1週間から10日で出てくるであろう分析結果を慎重に検討するとともにブースター接種を急ぐことが肝心かと思います。心配は尽きないものです。しかし、何処にその根源があるか、よく考えて行動すれば必ず対策はあるものだと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。