きな臭いウクライナと台湾問題

日本の報道でウクライナ問題が報じられることは少なく、注目されることもほとんどないと思います。かつてのソ連邦でその後、独立したウクライナはロシアとの確執が続き、2014年にクリミア半島をロシアが実効支配しています。形の上では地元の同意を得た「併合」となっていますが、同地域にロシア人が多く住んでいたことで住民がロシア併合を後押しし、実質的なウクライナの分断につながっているものです。

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さてそのウクライナで再びきな臭い話が出ています。歴史的背景もありますが、トリガーの一つがウクライナのNATO加盟検討とされています。NATO(北大西洋条約機構)は1949年発足の対ソ連、ドイツ問題の対策としてアメリカを引き込んだ欧州諸国の安全保障確保の仕組みですが、現在はほぼ対ロシアのためにあるといってよいかと思います。そのNATOにウクライナが加盟することになればロシアとウクライナの関係は致命的な断絶になります。

それを防ぎたいロシアは国境付近に数万人のロシア軍を終結させ、この冬に決着をつけると意気込んでいます。ブリンケン国務長官とラブロフ外相がスウェーデンで会談しすぐさまの軍事衝突はロシア側も望んでいないという言質を引き出していますが、ラブロフ氏はロシアと国際社会を結ぶ数少ない接点係である点において最終的にプーチン大統領の判断次第でどうにでもなります。

ロシアは経済制裁もあり、国内は厳しい状況が続きます。GDPは2013年にピークを付けた後、低迷が続き、2020年で2013年比、35%も下回っているのです。その国家運営は相変わらず、強権発動型であるものの国内の不満分子は確実に増えています。となれば国威発揚は選択肢の一つになり得ます。

もう一つは原油価格がここにきてピークから2割以上も急落したことも不満材料になります。なぜ、ウクライナに冬の間に攻め込む理があるのかといえばロシアが供給する欧州向けガスと石油が欧州の首根っこを締め上げるわけです。

さて、一方、地球の東側では中国の台湾問題が常に俎上に載せられます。最近では安倍元首相の台湾向けの講演内容で「台湾有事は日本の有事」と述べたことに中国側が強烈な反論をしました。中国外務省の会見を見ていましたが今回の怒りは相当なもので汪文斌報道官から湯気が出るほどでした。

その間、中国のテニスプレーヤー、彭帥選手問題も日増しに注目度を浴び、女子テニスを統括するWTAが中国でのテニスの試合の開催凍結を発表しました。本件は元共産党幹部がかかわることもあり、かなり神経質な扱いとなっています。北京五輪開催が迫る中、アメリカ、オーストラリアなどが外交的ボイコットの最終判断を下す時期とされる中、こちらのきな臭さも更に増してきているように見えます。

ウクライナ問題と中国台湾問題がどう関係するのでしょうか?私の考えすぎかもしれませんが、あくまでも机上のシナリオとしてロシアがウクライナに侵攻し、アメリカと欧州をそちらにくぎ付けにする間に中国が台湾をさっと奪うというシナリオです。

第二次大戦の時、ドイツのポーランドからソ連への急速な侵攻によりロシア軍が欧州戦線でくぎ付けになった際、日本は手薄になったシベリアを攻めるチャンスだったのに失策をしました。ロシアは国土が広く、西と東両面を同時に守れず、兵士や兵器を運ぶという手間暇がかかる弱点があるのです。

これに学ぶなら今回、ロシアが西側で欧米の気を引いている間に中国が台湾を奪取するならば戦術的にはハードルが大きく下がります。タイミング的には北京五輪が終わった直後がねらい目です。ならばウクライナ侵攻が先行しなくてはいけないので目先の展開には神経質にならざるを得ません。

第二次世界大戦の時はソ連の存在感は大きかったのですが、中国のそれはありませんでした。今は違うのです。ロシアは西側を守り、中国が東側を守ることで両国の連携が可能なのです。アメリカはウクライナにも台湾にも物理的に距離があり遠すぎるし、バイデン大統領は判断が甘くなりがちです。軍事的にはアメリカは不利でしょう。NATOがどれだけ防衛能力があるかも問われます。欧州が一致団結するのか、です。特にドイツはコロナ騒ぎの上に、中道左派政権が出来る直前です。

もちろん上記のシナリオは非常に薄い可能性の話なので私の作文に過ぎないのですが、近年、国家も人々の行動もとてもギスギスしています。それはコロナが導いた人間社会への挑戦ではないか、とすら思っています。判断も短絡的で自己利益の追求が目に余ることもしばしばです。

世界は平和というマントを装っている、しかし、それを取ると牙をむくというアンビバレントな世の中である気がしてなりません。私がのぞく水晶玉の絵図は悪い夢で醒めてしまえばよいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月3日の記事より転載させていただきました。