1円にこだわりすぎて10円損する金銭感覚

1円にこだわる代名詞といえば主婦のスーパーマーケット攻略作戦です。家計のやりくりが大変で、1円でも浮かしてお父さんや子供たちに美味しいものを食べさせてあげたい…昭和チックでホロリとします。しかし、主婦は1円を浮かせるためにどれだけの時間をかけてママチャリをこぎ続けているか、この部分が取り上げられることはありません。つまり学問的には不完全です。

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先日、日本のテレビを見ていたところ、投資の話が出てきたのですが、女子アナが「それって損することもあるんですよね?」いやだわーというニュアンスがアリアリと見えてきます。別にお金にこだわるのは女性だけではなく、男性も絶対に増えない普通預金に放置する預金に「増えもしないけれど減りもしない」と鷹揚に構えています。いくら日本の物価が地を這うような水準とは言え、周りの物価はどんどん上がっています。価格が下がるものと相殺されているので物価という統計の数字では「全然上がっていない」と思っているでしょうが、生活必需品は価格高騰が続きます。それは貯金の実質目減りだということに気が付いていないのです。

2022年度から高校の家庭科で「資産形成」の授業が必修になります。なぜ家庭科なのかさっぱりわからないし、資産形成をそういう位置づけにするので本質的な意味が分からなくなるのです。きちんとした学問にすべきでしょう。そして私が教える立場ならまずは家計におけるバランスシート(貸借対照表)の発想が初めに来ます。

住む家は固定資産、それに対して住宅ローンは長期負債です。持ち家ではない人は固定資産がないが流動資産の現預金、貯金が多めにあるのが健全です。そうなっていないならば生活のどこかに無理があることをバランスシートで見抜きます。損益計算書も大事ですが、年次ごとの決算になりがちです。できれば貸借対照表の変化も見える月次試算表を考え方を取り込みます。住宅ローンがある人は損益計算書で家計に余裕があるように見えるかもしれませんが、現金が手元にないのは貸借対照表の負債が減っているからです。つまり多くの家計簿はキャッシュフロー管理になっているということです。これだけではダメ。

私は健全財政派ですのでまず、学校教育の一環として家計において無理のない収支になっているのかを勉強すべきと思います。増やすという発想はその次です。

日本人は損をすることに対して異様に過敏な国民性を持っています。割引クーポン券持ってない=損をした、と表現します。一方、がめつさも国民性の一つ。「投資リターン8%確約!」なんて言うとあっちこっちのお年寄りが皆で何億円も出資して騙されたという話はいつの時代になっても途絶えることはあません。

そんなうまい話があるわけないのにいつの間にかコロッと騙されています。「なんで?」と聞けば「だって、凄くハンサムなお兄さんだったし…」とさっぱり訳の分からない答えが返ってきたりします。

日本で投資を促進させようという機運は何度もありました。ですが、ほぼ全敗。マスコミなどでよく書かれたのが「バブル期に大損をした人たちが二度と株などやるものか」と思っているから、というものでした。しかし、そんなのは30年も前の話です。そうではなく、そもそも日本人は元本が1円でも割れるのが嫌なのです。

若夫婦の会話で(夫)「そろそろちょっと株でも買ってみない?」(妻)「損するんでしょ。いやよ、そんなの」(夫)「でもこれじゃ貯金たまらないし」(妻)「大丈夫、私、家計のやりくり上手だから」。大体こんなところですが、この会話がおかしいのは支出を減らすことで家計でお金が余っているように見せかけることです。これは減らすにも限界があるので基本的にお金は溜まりません。

また日本全体で考えるとこの妻のように支出を切り詰めることで消費=需要が低迷し、低価格化が進み、企業の利益は圧迫されます。「頭がよくなるように栄養をしっかりつけましょう(=経済が廻るように健全利益を確保しましょう)」とお母さんに言われたはずですが、「栄養、ゼロで頑張るニッポン」になっています。

お金を回すという発想は極めて重要です。完全な国内だけの経済を考えるとゼロサム社会になるはずでそこで日銀がせっせと市場にお金を投入してくれれば理論的にはその果実は回ってくるはずです。ところが実際には日本人はもたもたしているのでその間に外国人が「揚げ」を盗んでいくのです。これがこの30年間ずっと続いたことです。

岸田首相は「投資で儲けた奴は不労所得なんだから税金、もっと取ってやろう」とずっと思っています。その不信感のマグマが投資家の間では溜まっていて「こんな日本、もう無理。投資はアメリカさ」と日本からアメリカ株を買う人が急増しているのです。

日本企業は海外で稼いでいるんじゃないの、と言われます。確かに稼いでいるのですが、それを金庫に大事にしまい込んで「いざというときのために」と抱え込んでいるのです。滞留資金です。

アメリカが凄いところの一つに開拓者精神旺盛なのか、「新しもの好き」で皆で支援するのです。エンジェル投資家のスタンスは10社のうち7社は全くダメ、2社がまずまずで1社がずば抜けてよい成績を上げて全体としては儲かればいい、です。中国にもその発想はあります。中華料理店が新装オープンするととにかく、みんなでその店に行きます。「美味しいねぇ」と知人や会社の人に宣伝してとにかく店を支えます。ある程度から先は店の実力で頑張ってね、となります。しかし、日本は特別割引の時だけ購入し、普段は寄り付きもしません。これでは経済は回らないのです。

私はお金を回す、という発想をまずは持ってもらいたいと思います。そうすれば本当は10円損していたはずが100円儲かるのだという気づきが出てくると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月5日の記事より転載させていただきました。