上院は与党が初めて過半数を失った
11月14日に行われたアルゼンチンの中間選挙は、アルベルト・フェルナンデス大統領の正義党を含む連合「みんなの前線(FdT Frente de Todos)」が9月の予備選挙PASOで野党連合「変革の為に共に(JxC Juntos por el Cambio)」の前に惨敗したのを幾分か覆す結果となった。
しかし、クリスチーナ・フェルナンデス(以後クリスチーナ)副大統領が議長を務める上院は1983年の軍事政権の終了以後初めてFdTが過半数の議席を失う結果となった。(11月19日付「ペルフィル」から引用)。
今回の選挙結果から下院(定員257)はFdTが120議席、JxCは117議席となった。過半数は129議席。9月の予備選挙ではFdTは116議席という結果に終わっていた。一方のJxCは予備選挙も今回も同じ117議席だった。
その結果、フェルナンデス大統領は議案ごとに過半数の議席を確保すべく他政党との交渉が必要となった。それでも予備選挙に比べ4議席を回復したということで勝利気分に浸っている。何しろ、選挙前の予測ではかなりの後退が懸念されていたからである。
一方の上院(定員72)ではFdTはこれまでの41議席から35議席となり、JxCはこれまでの25議席から6議席増やして31議席となった。しかし、過半数の37議席には両連合とも届かない。各自治州の代表議員から構成される上院ということで、これまで過半数の議席を確保していたFdTは地方への影響力を発揮していた。しかし今後は野党との交渉も必要となっている。自我が強く上院を完全に支配していたクリスチーナ副大統領にとって今後の上院での運営は容易ではない。
何しろ、今回の上院議員選出の対象になった8つの自治州でFdTが勝利したのは僅かに2つの州だけで、残り6つの州はJxCが勝利したということで彼女の地方政治における影響力は激減することになる。(11月15日付「イ・プロフェシオナル」から引用)。
それはまたフェルナンデス大統領に対しも、これまでのような強圧的な姿勢が取れなくなるはずだ。何しろこれまでの彼女はフェルナンデス氏を大統領にしたのは自分だという自負心でもってふるまっていた。
今回の選挙結果で今後は逆にフェルナンデス大統領にとって副大統領の意向を無視できる可能性も生まれる来る。
FdTが大きく後退することが予測されていた選挙前まではクリスチーナ副大統領が選挙のあと政府の実権を握り、フェルナンデス大統領は単にお飾り的な存在になるのではないかと一般に予測されていたからだ。
しかし結果は逆になった。FdTの後退を最小限に留めたフェルナンデス大統領の存在がより注目されるようになるはずだ。そしてクリスチーナ副大統領は上院で政治的手腕を披露せねばならない立場に置かれることになった。それはフェルナンデス大統領の采配に彼女は干渉できなくなるまでの余裕はなくなるということだ。
フェルナンデス大統領が今後抱えている問題
しかし、フェルナンデス大統領にとってこれから任期満了までの残り2年間の政権運営も再選を目指すのであれば数多くの難題を解決して行かねばならない。それを以下に挙げる。
今年のインフレは50%を超すことは確かだとされている。来年はさらにインフレが上昇すると予測されている。また今年10月の時点で昨年からの12か月のインフレは40.6%となっている。毎年ではなく毎月3%から4%の価格の上昇が起きている。その為、政府はインフレの上昇を抑えるべく来年1月までおよそ1500品目の価格を凍結させた。しかし、それが解除されると急激なインフレが起きることが懸念されている。
アルゼンチンは慢性的に外貨不足でペソの対ドルの下落は止むことなく続いている。それがまたインフレを誘発することになる。現在、闇市場で売買されている非公式ドルレート(ブルードル)は公式レートの2倍近くまで上昇している。
昨年はGDPは10%の後退、それを反映しているかのように4万社の中小企業が廃業。貧困層は40%を超えている。 12歳から17歳までの青少年の貧困は58%。9回目のデフォルトを回避すべくIMFとの負債返済の交渉は続いている。
また昨年は経済以外の問題としてコロナ感染拡大で政府の責任が問われている。これまで11万人以上がコロナで死亡している。その感染を抑えるべくワクチンの入手交渉で隣国のウルグアイやチリと比較して入手に遅れをとった。
これら山積みしている問題をこの先2年間に改善して行かない限りフェルナンデス大統領が再選されることは非常に難しいと思われる。
しかも、ファビオラ夫人の誕生パーティーをコロナ感染拡大防止のロックダウン中に友人らも集めて誕生パーティーを行ったということが明るみになって、大統領自らがそれを破ったということでスキャンダルになった。それが大統領の人気を急落させることに繋がった。
一方のJxC内においても2年先の大統領選挙を睨んで2人の候補者の間でまだ水面下の戦いが続いている