民間から政策を変えた事例:男性育休義務化

この連載を行うようになってから、色々なところで政策のつくり方、変え方についてお話をさせていただく機会が増えました。

その中でよく聞く質問があります。それは

  • 理屈はわかった(わかっている)けど、実際にどうやればいいのかわからない
  • 政策実現に成功した事例を教えてほしい

というものです。

確かに政策を変えた当事者による本や手記はいくつかありますが、その時々の行動がなぜ政策実現につながったのかを紐解いて解説したものはないように感じます。

kieferpix/iStock

そこで今回は民間からの働きかけにより政策が実現された事例を取り上げ、渦中の当事者の行動が政策実現にどのように影響したのかを解き明かしていきます。

お話をお伺いしたのは、「みらい子育て全国ネットワーク(miraco)」代表、天野妙さんです。

実現した政策は男性育休義務化。政府は2021年6月にある制度改正を行いました。その改正により

  • 男性版産休制度の制度化
  • 育休制度の個別周知、取得の意向確認が企業の義務になる

ことが実現しました。

育休をとりたい男性を後押しする大きな制度転換ですが、その背景には、天野さんやその仲間の方々による政治家、官僚への粘り強い働きかけ、世論の後押しがありました。

ポイント1:仲間づくり

天野さんは2008年に第1子を出産、その後2015年に第3子を妊娠します。
妊娠当時の会社では、育児休業の取得対象に原則としてならない取締役として働いていました。

妊娠発覚後、保育園が決まるまで休職できないか、と会社に掛け合いましたが社長は認めず。結果的に退職を余儀なくされます。

ちょうどその頃、衆議院の予算委員会で当時民主党の山尾志桜里議員が「保育園落ちた日本死ね!!」という匿名ブログを取り上げていました。

保育園に入れないことが社会現象となり、天野さんの住む地域の母親たちも、自治体に対して新しく保育園を作るよう働きかけを行っていました。天野さんもその活動に参加します。

自治体はいったんは保育園新設を打ち出したものの、建設予定地の住民の反対などにより業者が撤退。保育園の新設はストップしてしまいました。

この経験から、天野さんは、保育園の問題を国全体の課題にする必要があると感じ、miracoの前身である「希望するみんなが保育園に入れる社会を目指す会」を立ち上げます。

ここでのポイントは、仲間とともに団体を立ち上げたことです。第5回:官民の本質的な違い‐官とのコミュニケーションのための必修科目‐

で説明しましたが、政策を実現するためには、みんなが納めた税金を使うことになります。強制的に集めたお金ですから、官僚には、できる限り公平にそのお金を社会に還元しなければいけないというプレッシャーが生じます。

そのため、同じような環境にある人の多くが同じ意見を持っている、ということが相手に伝わると政策実現がより近づきます。天野さんの場合は仲間と団体を立ち上げましたが、他にも署名を集めたり、企業が集まって業界団体を作ったりすることも効果があります。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。