新型コロナとポピュリズムを省み感染症BCPを

五十嵐 直敬

筆者はコロナ禍を最前線の呼吸器外来看護師、公衆衛生のプロである在野の保健師、甚大な影響を受けた飲食業界と今もつながる調理師の3つの立場で過ごした。「専門家」は主張したいことだけを叫びマスコミが煽り政治も追従し「三だけ主義、今だけ金だけ自分だけ」で社会に混乱を招いた。

臨床医療職また飲食店の感染対策を無償で支援した「当事者」として、コロナ禍を冷静に振り返りたい。

recep-bg/iStock

コロナによる影響

<飲食宿泊業>
明確な医学的エビデンスも無く飲食業は狙い撃ちされ、時短や休業を「自主的にソンタク」要請された。過去最多の廃業倒産が起き老舗名店も例外ではなく、女性パートや学生アルバイトが多数失職し大学生が困窮、女性と若者の自殺者が増加した。接触回避のため配膳ロボット開発も急遽進められている。

一方時短営業では明るいうちから中高年が飲み歩き、クラスター発生したカラオケスナック等に中高年が密に集まる等、ハイリスク者が感染リスクの高い行動を取る望ましくない「逆選択」も見られた。

<企業と雇用>
外食産業が甚大な減収の一方、外食宅配や通販利用による宅配需要増により運輸業界は需要増、自家用車やバイク自転車で配達するギグワーカーが増えたが、フリーランスは受注減でも給付金等が不十分と問題になった。一方大企業等はデスクワークをテレワークに切り替え、通勤負担が無くなり歓迎する向きもあり、コロナを機に「多様な働き方」実現が加速した。

<学校教育>
為政者の思い付き的休校、その後も分散通学やイベント中止など初等教育の影響は甚大だった。急遽オンライン授業が導入されたが、低所得家庭の学童が十分授業を受けられない事例やネットいじめ等の問題も発生した。子供が外遊びできず体力低下やメンタル不調も報告されている。大学はオンライン授業中心となり学生同士の関係性構築ができない、医療介護系等では実習ができない等の問題が発生した。

<医療>
フリーアクセスの弱点が露呈した。当初PCRが騒がれたが実験手法で一般医療機関や検査機関では対応できない上に、検体採取時の感染リスクのため対応が躊躇され検査体制整備が遅れた。電話相談では濃厚接触以外はかかりつけ医受診を勧めるが、かかりつけ医が無い困窮者が発生、フリーアクセスによる「病院ショッピング」の代償と言える。一部医療機関は発熱風邪症状を診療拒否し事態に輪をかけた。

令和3年には上記初療体制は多少改善されたが重症者が激増し入院病床不足が発生、発熱者の救急搬送では80件以上の病院から断られる等搬送不能例も報道された。一方JCHOは一年余で3000人足らず、一病院あたり月に4,5人程度しか受け入れずに莫大な補助金を得たと問題になった。

<医学的事実>
新型コロナウイルスは血管内皮細胞表面の血圧調整に関わるACE2蛋白に結合し血管内皮を破壊するため、動脈硬化した高齢者や基礎疾患がある者には全身臓器を障害し重症化させ得ると令和2年春にはランセット誌で発表された。

また令和2年中には重症者特に死亡者のほとんどは高齢者と統計上明確となり、特に20代までの若者子供の死亡率は0%であった。不顕性感染者が検査陽性者以上に居たのではとの研究も複数ある。

考察

<外食産業>
以前から外食チェーン各社は人材難のため深夜営業中止を進めており、個人店も店主の高齢化・後継者難による閉店も多々あった。席間を開ける等は感染対策に加えゆったり飲食を楽しめるメリットもある。人口経済縮小する今後は薄利多売最大効率化より質的向上での利益を考えるべきだ。ファストフード等は人手と感染対策両面からロボット化・セルフ化も重要になる。

<企業と雇用>
宅配を支えるギグワーカーは非正規雇用・歩合給で収入保証が無く低所得貧困化を増長する懸念もあり、フリーランス含め雇用安定や所得・社会保険対策は急務だ。一方で大企業事務職等は「痛勤」とも言われたが、テレワークでゆとりある生活が一部とはいえ実現し技術的に可能と示された。人流分散も含めワーケーションや二地域居住含め「働き方改革」を推進すべきだ。

<学校教育>
休校は学童のメンタル不調や体力低下を引き起こし、対面、実体験でなければ体感体得できない教育もあり、成長発達に加え学力や人格形成への悪影響が過大だ。学童の感染は家庭内の成人からの感染が多と研究で示されており、小児科学会提言の通り休校は極力避けるべきだ。

<医療>
新型コロナを二類感染症扱いとして保健所が窓口となったが、保健師は全国で実働わずか5万人強足らず、業務はパンクした。年間1万人の死亡者のために保健所機能を麻痺させる是非、感染症類別指定を考えるべきだ。感染疑い者を他患者と動線分離することが困難な建物構造や、確実に標準予防策を実施できるスキルある人材の不足は入院や検査の応需困難の要因となる。

法整備の上で血税注入され設備人材とも充実する公的病院に重点対応させ、今後に備え医療機関や介護施設は感染症疑い者を動線分離できる構造を原則とする必要がある。

まとめ:自然の理を人災としないために

人類の歴史は感染症との闘いであり、結核は今も日本は「中程度蔓延国」である。新型コロナは高齢者には危険だが健康な現役世代には風邪程度と二面性を持つ。この場合公衆衛生学的にはハイリスク者の防護を考える、つまり高齢者等の逆隔離(予防隔離)、高齢者の遊興外出を制限し(買い占め対策兼ねて)買い物支援宅配等すべきだった。

かつて院内感染菌として騒がれたMRSAは今や市中に拡散し、スタンダードプリコーション「標準予防策」で防げるはずが不十分な意識のため防げなかった。一方コロナ後にインフルエンザは激減したが、市民の衛生意識の向上によると言われる。ハイリスクな高齢者の自制や介護施設の感染防護がされていれば、どうであったか。

しかし専門家も政治家もシニアポピュリズムゆえか誰も予防隔離を言わず、風邪程度で済む多くの市民を巻き添えにした。

我が国死因5位前後で年間約12万人が死亡する肺炎の一割、2年間で「死亡者わずか2万人足らず」の新型コロナのために、GDP喪失や飲食店の甚大な犠牲を払い多数の超過自殺者を出したことは適切な政策施策と言えるのか。

専門家委員会や分科会はメンバー以外の者まで新型コロナの脅威を煽ったが、クラスターの大半を占めた病院や介護施設に何の対策も無く、飲食業ばかりを狙い撃ち規制し「やってる感」のみだった。禁酒などは米国禁酒法時代を彷彿、都では夜間の看板消灯を求めまるで戦時下の灯火管制、密告制度まで整備され特高警察や憲兵隊を想起させた。そこに戦後文明国の叡智は微塵もない。

新型インフルエンザやデング熱ジカ熱の例、温暖化でマラリアの九州上陸も懸念される。グローバル化社会では移入感染症対策は必須だ。米国CDCの日本版をとの声もあるが、我が国には国立感染症研究所があるが近年予算人員縮小が続きSNS発信すら無い。これを解決し平時から感染症や公衆衛生の専門家によるサーベイランスと発生予測そして具体的対策プロトコル「感染症BCP」策定を為すべきだ。

在野の保健師また出身たる飲食業の苦難辛酸を肌身に感じた調理師として、人災とも呼ばれるコロナ禍を繰り返さず我が国が世界に誇る先人に恥じないよう、禍一過の今こそ省みるべきと考える。

五十嵐 直敬
新西横浜街の医療ケア研究室代表。平成7年北里大学看護学部卒。保健師、看護師。大学病院から外来、訪問看護・在宅医療から介護サービスまで幅広い場で緩和ケアを実践、所長、施設長等を歴任。臨床の傍ら教育とコンサルに携わる。

【参考】
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