2022年度の税制改正の最大の焦点は、賃上げした企業の減税だ。賃上げした大企業には30%、中小企業には40%、法人税の税額控除率を上げるという。賃上げを求めるなら単に最低賃金を上げればいいのに、こんなややこしいことをするのは、最賃には中小企業が反対するためだ。
これは役所のいうことをきく会社だけ減税する、最悪の裁量行政である。結果を変えて原因を変えることはできない。問題はなぜ賃金が上がらないのかだ。その原因は、大きくわけて3つある。
労働生産性が低い
長期的には賃金=労働生産性になるので、日本の平均賃金(ドルベース)はG7の中では最低レベルだが、OECDの中では中央値に近い。
グローバル化で賃金が中国に近づいた
グローバルにみて日本の賃金が下がった大きな原因は、製造業の空洞化である。次の図のように、賃金を生産性で割った単位労働コストは中国とほぼ同じになった。
社会保険料の企業負担が増えた
次の図のように企業の人件費は、2009年のリーマン危機で大きく下がったあと増えたが、手取り給与は2014年から減った。その差は社会保険料の企業負担である。社会保険料の負担は労使で折半することになっているが、企業はそのぶん手取りの賃金を下げるのだ。
人件費と給与(2000年=100)出所:家計調査(総務省)
2003年から今年までに、社会保険料は6.6%上がった。これは同じ時期の消費税の増税額の2倍以上である。年金保険料は18.3%で止まったが、健康保険料などは今後も上がり、社会保険料の総額は現在の約30%から2013年には約35%になる(次の図の負担率合計は所得控除が抜けているので不正確だが)。
企業が今後2年間で5%賃上げしたとしても、その賃金原資はすべて社会保険料の企業負担になり、労働者の手取りは変わらない。
だから岸田政権が手取り賃金を増やしたいのなら、社会保険料の引き上げを凍結すべきだ。これは厚労省令でいいので、閣議決定だけでできる。需要不足の今やるべきなのは、無原則なバラマキではなく、これからますます重くなる社会保障負担の軽減である。