お一人様ライフの功罪

お一人様ライフについて先陣を切って述べたのは上野千鶴子氏でそれに関連した数々の著書があります。私も結構読んでいますが、内容は上野氏自身のライフスタイルをモチーフにしているので「おひとり様万歳」であります。

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サザエさん一家。昭和のコテコテ時代を背景とする三世代同居家族構成であり、我々の時代にはそれが日本の家族のお手本とされてきました。その後、世の中では二世代住宅なるものや住宅ローンが子の世代まで引き継げるものまで家族の絆をビジネスに展開していました。過去形です。

かつて就職列車というのがありました。井沢八郎の「あぁ上野駅」はミリオンセラーを記録しましたが、その流れは上野駅に限らず、大阪、名古屋、福岡でも起きました。今でもその傾向は変わりません。都会に出る、その刺激に興奮し、楽しくてしょうがないライフにはまり込めば家族を持ち、喜怒哀楽がある家庭は忘れ去られます。

このブログで少子化問題がなぜ改善できないのかという疑問に対して「お一人様ライフが楽しいからだ」と書かせていただきました。少なくとも日本を含むアジアはナイトライフがあまりにも充実しているのです。つまり、一人でも寂しくありません。飲んだくれていればよいからです。北米はそうはいきません。まず、歩いて帰れない、交通機関も限界がある、それにそもそもナイトライフはせいぜい週末だけでそれは皆で騒いでいました。基本は家庭なりパートナーなりとの共同生活のはずでした。これも過去形。どうやら時代は変わってきたようです。

日経の連載、「人口と世界」に「『おひとりさま』標準に 世界で3割増、官民で孤独克服」とあります。日本、フランス、英国、アメリカ、ドイツ、どの国も概ね1/3がお一人様ライフだと報じています。欧米社会でもお一人様ライフが浸透したのか、と思うと衝撃です。

気になったのでアメリカのウェブサイトで状況について調べたところ、どうやらカジュアルデートはいいけれど、結婚を前提にした付き合いは勘弁という流れのようです。離婚などで嫌な思いをした人も多く、それで同性愛に行く人もいます。また、1998年にスタートして世界的ヒットとなった「セックスアンドザシティ」にみられるカジュアルなデートへの社会的影響も大きかったと思います。アメリカではお一人様ライフに困らない時代というより訴訟社会など複雑な社会的背景がより気楽なライフを推し進めたのかもしれません。

「57歳で婚活したらすごかった」(石神賢介)という本があります。正直、これも衝撃でした。著者が結婚したくて婚活するも次々出てくる無茶なデート相手に翻弄されるという話です。高級店での飲食や高級ホテルで一夜の関係の話など赤裸々な話ばかりでその支払いは男の役割と言わんばかりでここだけは昭和の名残を感じます。結婚したい男性がこの本を読んだら萎えるでしょう。これだけ読めばカジュアルデートではなく、男は利用されているだけだと感じるでしょう。

なぜ、家族が成立しなくなってきたのでしょうか?個の時代とはソーシャルライフや社会生活はするもののパーソナルライフにシェアを求めないことだと思っています。シェアハウスはどうなの、と言いますが、あれはテレビドラマが作った創作話で実際のシェアハウスは誰も真の意味でのシェアライフは少ないはずです。正しいニュアンスはルームメートでしょう。そしてその前提は「双方干渉しすぎないこと」これがハウスルール的なものです。実際にシェアハウスを運営している私が言うのだから説得力あるでしょう。

お一人様で困ることは年を取った際に何かあった時困る点です。しかし、これも近年はあらゆる方面で改善されてきています。食事はおひとり様総菜がいくらでも手に入る、重いものは宅配、調子が悪くなれば訪問介護があります。何日間も誰ともしゃべっていないという高齢者の方もいらっしゃいますがペットのワンちゃんやねこちゃんとしゃべっています。そもそも最近は若者だってしゃべりません。多くは携帯のテキストでのやりとり。若者の苦手なものは電話、特に新入社員で会社の電話を取るのは本当に苦手のようです。

では最後に少子化問題。これが本当に解決するのか、といえばできなくはありません。方法の一つ。シングルマザーを社会的に受け入れ、女性が一人でも子供と社会生活ができる仕組みを作ること、これは重要です。昔は母子家庭といって半ば差別的な目線がありました。今後はそれが社会の主力になるかもしれないことを理解し、受け入れ支援するべきなのでしょう。むしろシングルマザーの下で育った子供は母親が溺愛する時間がないので北米的に強い自立心のある子ができるかもしれません。但し、道徳的にそれでよいのかという議論はすべきでしょう。

日本ではお一人様ライフなんて珍しいことではなかったのです。単身赴任が当たり前の日本では社会浸透していたわけで何をいまさら、という話でしょうかね?サッチョン族さん(札幌単身赴任者、今は差別用語かも。)や福岡でシングルライフを楽しむ男性諸君の意見も聞いてみたいものです。

家庭という概念は好む、好まざるにかかわらず明らかに変質化しています。それを我々はどう受け入れるのか、悩ましい時代になってきたともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月12日の記事より転載させていただきました。