なぜ移民をするのか?

私にとって結構インパクトの強かった日経の特集「人口と世界」。その特集を総括すると二つの主張があり、一つは世界主要国は移民に頼った国策とならざるを得ないこと、二つ目は賃金水準が移民を目指す人にアトラクティブかどうかであります。

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一つ目の移民に頼らざるを得ない社会構造とは少子化に伴う国家維持が出来ない点です。2020年から50年までの人口変動率は仮に移民がなければ2桁%減の日本、イタリア、ドイツのみならず、カナダ、英国、フランスもマイナス圏、アメリカもかろうじてプラス圏という水準です。2020年のアメリカは人口増加率がわずか0.4%です。韓国、台湾、中国、ポルトガルあたりも今後30年で2桁減になるはずで更に欧州の旧社会主義国の地帯も軒並み大幅な人口減の脅威と戦うことになります。

カナダでは現在毎年人口の1%以上の経済移民を受け入れるプログラムを提供していますが、枠が埋まらなくなってきています。もちろん、この移民は誰でもよいわけではなく、将来カナダに便益をもたらすことが前提になっています。私が移民を取得した頃の自己紹介文は「私がカナダにいることにより雇用を増やし、カナダ経済に貢献することができる」とずいぶん大言壮語でした。、移民弁護士にそう書け、と言わたのですが、その意味の重みは今でもしっかり感じています。

今は人材争奪戦なのでカナダでは留学生に卒業後3年ぐらいの就労ビザを与え、その間に自分の専門を生かした職で力をつけ、移民申請すれば比較的移民はとりやすいとされます。つまり「青田買い」が進んでいるわけです。また移民は若ければ若いほどお金を自国に落としてくれる経済循環が起きますので「移民受け入れ最先端国カナダ」としての面目を保っているわけです。

では日経が指摘する「賃金」が移民の決め手か、と言えばこれは必ずしも同意しません。賃金を判断基準にするなら出稼ぎと同じで日本などで数年間、腰掛をするケースが多いと思いますが、移民とは社会システムが自分に適合できるか、という前提があります。社会が移民に寛容か、現地の言葉の難易度、社会保障制度、就労のしやすさ、家族の生活の維持、教育などが重要であり、賃金水準が必ずしも決め手とはならないのです。

賃金が異様に高い地域、例えばスイスやサンフランシスコ/シリコンバレーは生活費も目が飛び出るほど高いのです。地元の人でさえ、耐えられなくて逃げ出すような場所に移民としていきたいか、といえば厳しいでしょう。言葉の壁は欧州で数多くが証明されています。ドイツや北欧諸国に移民した人は英語以上にハードルの高い言葉の壁に現地社会との軋轢を生んでいます。

日本は移民受け入れのプロセスは世界の先進国の中では比較的緩いし、プロセスも早いのですが、移民は増えません。2020年現在、日本に移民資格(特別永住を除く)は80万人で前年比1%増、つまり年間8000人しか増えていません。カナダは年間40万人です。人口差も考えると圧倒的な相違があります。

日本はそもそも異文化を受け入れるのは得意ではありません。このブログでも過去、何度もこのテーマをふっていますが、コメントには反対の大合唱となります。それは考え方の問題ですので、「この美しき日本の社会を外国人に振り回されたくない」とおっしゃるのはごもっともです。豊島区とか新宿区の区役所の住民課に行くと外国人の方が多いんじゃないか、と思うほどです。

では日本人が眉を顰める外国人による事件ですが、概ね留学生、就労ビザ取得者が引き起こすことが主流で移民と混同しているように思えます。移民になろうとする人は上述のように社会に溶け込めるか、という観点から決めるので日本の文化を愛し、同化しようと努力する人が多いのです。この認識は改めるべきかと思います。

次いで現在雇用のミスマッチ問題が日本でも起きています。コロナも収まり始めたのになぜ、就労者が集まらないのでしょうか?これはアメリカやカナダと同じ問題なのです。若者は社会的意義がありより格好の良い仕事に就きたがる、ということです。我々の時代はアルバイトといえば居酒屋、コンビニ、家庭教師…だったと思います。今、居酒屋やコンビニで働きたいという大学生は激減しているし、今後もっと減るでしょう。これは日本の若者が社会意識と立ち位置に感化されたのです。親や学校の環境もありますが、社会そのものが成熟国として数段レベルアップしたのです。

それはそれでよいとしても誰がコンビニやファーストフードチェーン、工場で仕事をするのでしょうか?仕事の担い手がいないのです。日本は5年もしないうちに労働の壁にぶち当たります。単純な業務(エントリー業)をこなす手が格段に不足します。なんでもロボットや自動化はできません。この時、また外国から就労者を集めればいい、と思ってももう、日本に目が向くかどうかわかりません。それは東南アジア諸国の生活水準が上昇し、「ルックイースト政策」は昔の話と化すからです。日本の賃金は決して高くなく、世界物価の上昇に負けています。

日本は歴史的に中韓との距離感があります。では日本を今後どうやって守っていくのでしょうか?その手段はいくつもありますが、一番大事なのは日本のファンを作ることなのです。そしてファンとは日本に住んだことのある外国人なのです。これは100%事実です。移民になる前提は日本を愛していることに他ならないのですから日本が移民を増やす魅力づくりをもっと推し進めてもらいたいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月27日の記事より転載させていただきました。