チェコの「コロナ事情」と新政権

「新型コロナウイルスへのワクチン強制接種に対して自分は最初は懐疑的だったが、パンデミックの拡大に直面してその考えを変えた」

チェコのミロシュ・ゼマン大統領は慣例のテレビのクリスマス演説でこのように述べた。

フィアラ首相(中央=チェコ政府公式サイトから、2021年12月17日)

コロナ感染が拡大し、デルタ株、オミクロン株などの変異株が拡散してきた事態に直面し、欧州ではワクチン接種義務化について容認する声が高まってきている。ゼマン大統領もその1人だ。政治家が公の場で自身の考えが変わったと表明するケースはこれまで少なかったが、パンデミック以来、増えてきている。

チェコの隣国オーストリアでも政府のコロナ政策を悉く批判してきた野党、リベラル政党「ネオス」のベアテ・マインル=ライジンガー党首は記者会見で、「自分はワクチン接種の義務化には反対してきた。国民の自由な判断を尊重していたからだ。しかし、ワクチン接種の現状やコロナ感染の拡大などをみて、ワクチン接種の義務化を支持することにした。さもなければ、第5、第6のロックダウンが回避できなくなるからだ」と説明していた。

ゼマン大統領は、「ワクチン接種の義務化はパンデミック対策でわれわれが取れる対策の一つと確信している。実際、われわれは過去、他の多くの病気に対してワクチン接種の義務化を実行してきた。なぜコロナウイルスに対して反対するのか」と問いかけている。

ゼマン大統領がここにきてワクチン接種義務に立場を変えた最大の理由は、オーストリア政府のワクチン接種義務化政策の影響があることは疑いない。オーストリアでは来年2月から接種義務化を実施することになっている。チェコのワクチン接種率は27日時点で1回接種率63・7%、2回完了62%で、欧州の中ではかなり低い。

チェコでは11月22日から飲食店、宿泊施設、サービス店舗(美容院など)を利用する際にはワクチン接種証明又は感染済み証明だけが有効となり、PCR検査や抗原検査の陰性証明書は無効となった。そして11月26日から12月25日まで30日間の非常事態宣言が発令された。同国では5度目となる非常事態宣言下のコロナ規制は、ロックダウン(都市封鎖)は行わず、店舗は営業が継続され、店舗面積に応じた人数制限が行われ、レスピレーター(FFP2マスク)の着用義務、飲食店の営業時間は夜22時まで、公共の場での飲食は禁止、イベント参加人数は上限100人まで、スポーツやコンサートなどの文化イベントは1000人まで等となっている。

非常事態宣言の終了後、2、3のコロナ規制、外出制限は解除されたが、イベント参加人数などは一層強化される。フィアラ新連合政権は27日から厳しい入国規制を施行する。ロイター通信によると、チェコでは新規感染者数は減少傾向にあり、平均1日6070人の新規感染者が報告されている。1日平均人数のピークだった11月26日の32%に当たる。パンデミック開始以降、12月26日時点で累計感染者数は244万5741人、死者数3万5749人だ。

ちなみに、コロナ禍下で実施された下院選挙(10月8,9日)でバビシュ首相が率いるポピュリスト運動「ANO2011」が反バビシュで結束したリベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟に僅差で敗北した。選挙結果を受け、ゼマン大統領は野党連合に新政権の組閣を要請する予定だったが、本人が病気に倒れ、入院。退院後、今度はコロナに感染して再入院となったため、新政権の発足は遅れ、12月17日になってようやく「市民民主党」(ODS)のペトル・フィアラ党首主導の新政権が誕生したわけだ。

なお、バビシュ政権は2022年3月から60歳以上の国民にワクチン接種の義務を決定したが、新政権のヴラスティミル・ヴァレク新保健相は前政権のコロナ対策の見直しを発表している。左右両陣営の政党から構成されたフィアラ政権は欧州全土に急速に拡散するオミクロン株対策に取り組むことになる。ゼマン大統領の「ワクチン接種義務化」についての発言は今後の感染状況次第では本格的な議論を呼ぶかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。