インターネット時代の言論弾圧:ラムザイヤー論文とキャンセルカルチャー --- 有馬 哲夫

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早稲田大学教授 有馬 哲夫

言論弾圧といえば、国家権力がメディアや個人に対して行うものだ。だが、インターネットとSNSが発達した今日、準国家的組織が、これらのメディアを使って、外国にいる個人に対して言論弾圧を行うことができる。

ハーバード大学ロースクール教授マーク・ラムザイヤーが「太平洋戦争における性契約」(“Contracting for Sex in the Pacific War”)を発表したあと、そして私が『慰安婦はみな合意契約をしていた』を出版したあとに行われたのがそうだといえる。

ラムザイヤーに対しては、韓国の新聞やテレビが連日のように人格攻撃を行ったあと、VANKがChage Orgに解雇と授業の検閲を求めるキャンペーンを立ち上げた。現在3万人以上の署名が集まっている。

これとは別にUCLA経済学部教授のマイケル・チェが論文撤回を求める署名集めをして、韓国メディアの報道によれば、ノーベル賞受賞者を含む、3000人以上の科学者の署名を集めたという注1)

私の場合は、Moving Beyond Hate という正体不明の団体が、ラムザイヤーの場合と同じく、Change Org に早稲田大学に私の解職と授業の検閲を求めるキャンペーンを立ち上げた。同日、Yahooが『朝鮮日報』の私に対するネガティヴ記事を配信し、翌日の6600の署名を集めたあと、やはりYahooが『中央日報』のネガティヴ記事を配信し、記事のなかで、「Change.Orgが6600人の署名を集めた」と報じた。

これは、基本的にラムザイヤーのケースと同じだ。一晩のうちに集中的6600もの署名が集まったということはVANKのような組織が動いていたということだろう。構成員数名の団体が一日のうちに6600人分もの署名を集めることはできないし、実際そのような実績はこの団体に関してはそれまでなかった。これは絵にかいたような陰謀だ。

彼らは、議論や批判をするのではなく、論文撤回や記事削除や解職や授業の検閲を要求する、それによって相手の言論を封殺しようする。この点で言論弾圧だといえる。これは民主主義の根幹を揺るがすテロリズムだ。

そこで、以下ではさらに詳しく、彼らがインターネットやSNSをどう使うのか、どのようなトリックやレトリックを用いるのか、全体としてどのようなパターンをとるのか見ていきだい。それを明らかにすることで、メディアリテラシーが身につき、この種のフェイクに騙されなくなるからだ。

言論弾圧はいかにはじまったか

2021年1月12日にラムザイヤーのJapan Forward に“Recovering the Truth about the Comfort Women”という記事が掲載された注2)。この記事では、韓国人元慰安婦や吉田清治(朝日新聞でその証言がとりあげられた)の証言は虚偽であるとか、慰安婦は契約を結んでいたとかは書いているが、のちに攻撃対象とされる「太平洋戦争における性契約」にはまだ触れていなかった。

翌年1月28日に産経新聞が「太平洋戦争における性契約」の紹介記事である「世界に広まる『慰安婦=性奴隷』説を否定 米ハーバード大J・マーク・ラムザイヤー教授が学術論文発表」という記事を掲載すると、韓国メディアの猛烈なバッシングが始まった注3)

アメリカ屈指の名門ハーバード大学教授のものとはいえ、一本の学術論文を韓国の有力紙がすべて紙面を割き、テレビ局も一斉に報道するのは異常だ。

人格を貶めるようなデマを交えた攻撃が目立った。ラムザイヤーは三菱の冠講座の教授なので、三菱からお金をもらってこの論文を書いたのだと、根拠もない憶測を書いた。また、「日本の右翼系の研究団体の役員名簿」に名前があるとも指摘した。もちろん、「右翼系の研究団体」とは彼らの判断だ。また、以前書いた論文で部落や在日朝鮮人について差別的に扱っていたとも非難した。「差別的」かどうかも彼らの主観だ。

これにストローマン論法が加わる。ストローマン論法とは、いってもいないことをいったとして非難するやりかたをいう。いわく、ラムザイヤーは元慰安婦を侮辱した。いわく、彼は幼児売春を勧めている。

つまり、ラムザイヤー氏は「日本の企業からお金をもらっているから、右翼系の研究団体の役員名簿に名前があるから、幼児売春を勧めるような人間だから、書いた論文もその内容も信用できない」という結論に導こうというのだ。

これは、裁判でよく証人が決定的な証言をしたときに取られる法廷戦術に似ている。つまり、その証言の信憑性を低くするために、証言者の粗探しを徹底的にし、なにか材料が見つかれば最大限に誇張してみせるのだ。

このあと、驚くべきことに、ハーバード大学の同僚である歴史学部教授アンドルー・ゴードンと東アジア言語文化学部教授カーター・エッカートとロースクール教授ソク・ガーセンが、「学問的暗殺未遂」とラムザイヤーが呼んだ行動を起こした。「未遂」といっているのは、結局ラムザイヤー論文は電子版で配信されたし、ラムザイヤー氏も解雇されていないからだ。

ゴードンとエッカートは「ハーバード大学歴史学部アンドルー・ゴードンと東アジア言語文化学部カーター・エッカートによる声明」と題する声明を2月17日に出した。そして、論文は「性契約」といいながら、韓国人女性の署名入りの契約書を提示していないし、その他の必要文献も踏まえておらず、学問的真実性にも欠けるので撤回すべきだと、世界に向かって訴えた注4)

ちなみにゴードンは、日本の外務省がマグロウヒル(アメリカの大手教科書会社)に同社の歴史教科書の「日本軍は14~20歳の約20万人の女性を慰安所で働かせるために強制的に募集、徴用した」という記述を改めるように求めたとき、「言論弾圧だ」として激しく非難している注5)

同じ大学の、しかも専門の近い同僚の論文を非難し、撤回を求める声明を世界に向けて出し、SNSでそれを拡散するなど、前代未聞だ。とくに、韓国国民が過去においてこのような場合どう動いたか知っていながら、このようなことをするのだから、常軌を逸しているといえる。

手を変え品を変えバッシング

このあとに雪崩をうったようにわれわれ日本人もよく知る韓国メディアの猛烈なバッシングが始まった。

韓国メディアは、少し前に発表されたゴードンやエッカートなど、同じハーバード大学の日本および韓国の専門家、そして同じロースクールに所属するガーセンのラムザイヤーに対する批判を引用しながら、ハーバード大学の同僚ともいえる人たちも非難しているとした。

2月下旬に前述の通り、マイケル・チェも論文撤回を求める声明を出し、これには3月5日時点で、3000人を超える署名が集まったと主張した注6)

3月1日のハンギョレは「ノーベル賞受賞者など学者2400人が 『ラムザイヤー<慰安婦>論文撤回』署名参加」と報じた注7)

ここで疑われるのは、チェ氏のキャンペーンと韓国メディアの報道が一連のものではないかということだ。私のケースでも特定団体のキャンペーンと『朝鮮日報』、『中央日報』の報道は連係をとっていた。したがって、この署名も自発的にされたものではなく、チェ氏の立ち上げたキャンペーンになんらかの団体が組織的に動いて署名をさせたということだ。これは、一つのパターンなのだ。

ハーバード大学の校内新聞『ハーバード・クリムゾン』はラムザイヤーの論文を「慰安婦女性に関するラムザイヤーのウソは、深い所が腐っていること(Deeper Rot)を表している」と書いた注8)。同大学の韓国系学生は、マサチューセッツ州内の近隣の韓国系住民にも呼び掛けて、ラムザイヤーの解任を求めて構内で集会を開いた。

日本のマスコミは、産経新聞を除いて、新聞、テレビ、週刊誌を含めて沈黙していた。3月19日にはハンギョレは勝ち誇って「ラムザイヤー「慰安婦」論文に沈黙する日本メディア」というコラムを掲載するほどだった注9)

例外的に彼を擁護するネット記事が出たが、途方もない皮肉だが、それは韓国の学者のものだった。2月14日に「性奴隷説を否定した米論文にぐうの音も出ない韓国」という記事を掲載したその人物は李宇衍といい、『反日種族主義』共同執筆者だ注10)

擁護に立ち上がった私にもいやがらせ

私がラムザイヤー氏擁護に動いたのは2021年の3月17日のことだ。Yahooが配信する韓国メディアのラムザイヤーバッシング記事はあきらかにプロパガンダで、しかも論文とは関係のない人格攻撃をしていたからだ。この日、私は「『韓国側の批判は筋違い』、ハーバード大教授『慰安婦論文』批判の悪質な点を指摘する」を『デイリー新潮』に寄稿した。

これはガーセンの嘘を暴いたものだ。彼女は「ラムザイヤー教授の論文の脚注を調べた結果、戦時慰安所の韓国女性に関する契約内容がなかったうえ、該当契約を記述した2次出処もなかった」(「韓国系ハーバード大教授『ラムザイヤー氏、慰安婦主張のミス認めた』」『中央日報』2月27日から引用)と指摘した。

これはとんでもない嘘で、ラムザイヤー教授は彼の論文の註に慰安婦契約の詳細を明らかにした前述の「米国戦争情報局報告書」を挙げていた。記事は主にそのことを指摘したものだ。

このころからFight for Justiceのメンバーや関連する少数の人々が私のツイッター・アカウントにツイートをするようになった。たとえば、「有馬 笑」、「有馬さんは歴史事実を重んじる人だとおもっていましたが、歴史修正主義に転向したようです」、「とか「『Will』にラムザイヤー論文を寄稿するそうだけど(「ハーバード大 ラムザイヤー教授へのいわれなきバッシング」『Will』2021年五月号のこと)、論文読んでいないようだから、期待できない」といった具合だ。

次のような殺害予告ともとれる、また警察沙汰になるようなツイートもあった。

次のものは、なんの根拠もなく、ただ気に食わないと「差別主義者」と呼ぶツイートで、よく見られるものだ。

この匿名の批判者は、一次資料が示す歴史的事実を直視しようとはせず、逆に相手が現実逃避していると決めつける。レッテル貼りするだけで、議論をしようとはせず、なのに自分が賢いかのようなものいいをする。

彼らは『デイリー新潮』よりも『Will』を敵視し、監視していて、寄稿者の文章を切り取っては、それを題材に彼らのツイッターアカウントのなかで、「差別主義者」「歴史修正主義者」というレッテルを貼って、誹謗・中傷を行っている。数としては大したことがないのだが、読むに堪えない、汚い言葉で、きわめて侮蔑的表現をする。

とはいえ、この当時はまだ、彼らも大した危機感を持っていなかったようだ。私の『デイリー新潮』と『Will』の記事も、単発で終わると楽観視していた向きがある。

しかし、私の『デイリー新潮』の記事の連載はその後も続き、合計7本(中には前編、後編に分かれているものもある)が5月までに掲載された。

そして、7月下旬に、これまで『ディリー新潮』に連載したものをベースにさらに書き加えた『慰安婦はみな合意契約をしていたーラムザイヤー論文の衝撃』を出版した。

意外なことに、彼らはこの本の反応を示さなかった。彼らは相手の本、論文、主張、それらの根拠をまったく無視して、自分の主張だけする特徴がある。つまり、彼らは相手(私)の本はもちろん、いっていることさえ無視するのだ。

9月に入ると、彼らは「言葉狩り」を始める。つまり、ツイッター上でこれまでに不適切な発言とか差別発言をしていないか探し始める。ところが、彼らは困難に直面する。

たいてい慰安婦問題を論じる人は、元慰安婦を嘘つき呼ばわりし、軽蔑する。だが、私は元慰安婦の方の悪口をいったことがないし、実際、悪く思っていない。というのも、私は、正義連代表の尹美香スキャンダルが起こる前から、元慰安婦の方はあくまで挺身協・正義連の犠牲者であって、メンバーでも協力者でもないという認識だからだ。

また、アメリカ国立第2公文書館で国務省文書を読み、慰安婦問題が浮上するのは北朝鮮の核・ミサイル開発と同時期の1992年だということ知っていたからだ。つまり、彼女たちは尹に、あるいは北朝鮮の工作員に、利用されているだけだと思っている。これは延世大学教授柳錫春も指摘していることだ注11)

私が元慰安婦を嘘つき呼ばわりしたり、侮蔑的言葉を使ったりしていれば、彼らにとっては都合がいいのだが、このような理由でそんなことはしてなかった。

また、私はあらゆる差別、つまり人種、国籍、性別、年齢、階級、性的指向などに基づく差別に反対しているので、朝鮮人だからといって差別する意識は持っていない。逆に、朝鮮人だから、韓国人だから、在日朝鮮人だから、特別扱いしなければならないとも思っていない。グローバル化した高等教育機関にいて、グローバルな研究活動をしているので、特定の国や民族を特別扱いしてはならない、それは逆に差別になる、ということを知っている。

河野・村山談話破棄を訴えたあと言論弾圧が始まった

9月中旬になると自由民主党の総裁選が行われることになった。私は総裁を選ぶにあたって、誰であれ総裁候補は、河野・村山談話の破棄を公約として取り上げるべきだとツイッターで何度も主張した。同時に、日本国籍の住民は外国籍の住民に差別発言をしてはならないが、逆はいいとする川崎市の逆差別ヘイト条例を批判した。グローバル化が進んでいるのに時代錯誤的だからだ。

このあと冒頭で書いたように、正体不明の団体が「差別を煽り、歴史否定発言を繰り返す教授の解雇と再発防止を求めます」というキャンペーンを立ち上げ、その直後『朝鮮日報』と『中央日報』がこれをサポートする記事を掲載し、日本のヤフーにも配信した。

しかし、このキャンペーンは、私のツイッターのツイートを、悪意に基づいて「編集」し文意をゆがめたものだ。以下でそのことを証明しよう。当該キャンペーン趣意書に切り取られて使われているツイートの前後の文脈は次のようになっている。(太字が趣意書に実際に引用されたもの)

9月26日
「日本政府が、河野談話を破棄して、正式に慰安婦強制連行を否定する声明をだせば、あれは(慰安婦像)ただの少女像になります。碑文があるけど、日本政府がそれを否定すれば、いずれ信じなくなります。日本政府が河野談話を踏襲している限りは効き目がありますが、否定すればいずれ日本の方を信じるようになります。」

9月26日
「日本と韓国とどっちを信じるかという戦いになりますから、当然日本が勝ちます。すぐにではなくても、いずれそうなります。確信があります。まずは河野談話破棄。破棄しなければなにも始まりません。」

9月27日
ヨーロッパでもアメリカでも、韓国人とか韓国系OO人は日本ブランドを利用して商売している。いかにも日本人がやっているように見せかけて寿司とかラーメンとか日本食を売っている。ヨーロッパ人やアメリカ人はそれを見抜いている。そういう人々だと思っている。だから日本政府が否定すれば世界は信じる」

このように私のツイートは河野談話破棄を求めたもので、そうすれば世界は信用の高い日本の主張を信じるようになると主張したものだ。

正体不明の団体は河野談話破棄という文脈を隠し、彼らにとって都合が悪いことを主張する私の言論封殺を意図している。

またこの団体は、私の日本の自治体(川崎市と大阪市)の逆差別ヘイト条例についての批判ツイートを切り取っている。

「これ以外にも氏は10月3日にヘイトスピーチを擁護する以下のツイートを行いました:

『ソウルとか釜山に、日本人は韓国人のヘイトスピーチしていいが、韓国人は日本人のヘイトスピーチしてはならないという条例を作ってほしい。それなら釣り合が取れるだろう。日本の自治体は韓国とバーターで条例を作ってほしい。』」

私はヘイトを肯定していない。たしかに皮肉は込められているが、主旨は、日本人に対するヘイトも禁止するよう求めるものだ。実際、続きのツイートではこう述べている。

10月6日
「改めていいます。ヘイトをなくすためにはあらゆるヘイトスピーチを禁じなくてはなりません。他は禁じるが日本人に対するヘイトスピーチはいいというのではヘイトはなくなりません。それ自体が明白な差別だからです。差別が差別を生むからです」

10月6日
「過去のツイートからわかると思いますが、私は日本人が韓国人や朝鮮人にヘイトスピーチを向けてもいいとは一言もいっていません。そうではなく、同じように彼らも日本人にヘイトスピーチを浴びせるなという当然のことをいっただけです。どちらもヘイトスピーチもするなといっているのです」

10月6日
「ヘイトはすべて禁止すべきである。メディアはすべてそう主張すべきである。ところが『朝鮮日報』はそう主張せずに、日本人の韓国人に対するヘイトだけ問題にしている。韓国人に日本人に対するヘイトを止めよとは呼びかけていない。なぜ呼びかけないのか」

また、正体不明の団体は趣意書の中で「また、氏は普段から「慰安婦」ヘイトや歴史否定発言を行なっています」と主張している。しかし、これは事実をまったく偽っている。最近の一次資料に基づく研究から次のことがわかっている。

朝鮮人慰安婦はみな慰安婦営業許可証をもらうために警察にいき、承諾書、調査書(慰安婦になる経緯、契約内容)、戸籍謄本、印鑑証明書を提出した。つまり、合意契約がなければ慰安婦になれず、それがなければ日本軍の慰安所には入れなかった。

さらに「日本軍慰安所帳場人の日記」などから、朝鮮人慰安婦は2年から半年の年季で、年季があければ帰国していた、チップを含め多額の収入を得ていて、それを親元に送金していたことがわかっている注12)

文玉珠という朝鮮人慰安婦は、他の慰安婦も宝石を買っているので、ラングーンの街にダイヤモンドを買いにでかけといっている注13)。敵であったアメリカ軍の報告書によれば朝鮮人慰安婦の平均月収は300~1500円で、日本兵は兵士が5円、将校でも20〜30円だった。

このような一次資料に基づいて、世界の注目を集めた「太平洋戦争における性契約」が発表された。そしてそれを踏まえた私の『慰安婦はみな合意契約をしていた』が出版されている。

正体不明の団体は「また、氏は普段から『慰安婦』ヘイトや歴史否定発言を行なっています」というがが、まったく逆で、私は最新の一次資料に基づいて歴史の真実を明らかにする著書を数十冊書いている。以下のツイートもこれまでの研究を踏まえてしたものだ。

10月3日
「あらゆる面で慰安婦は日本兵より恵まれていた。でも慰安婦を可哀想がる人はいても日本兵を可哀想がるひとはいない。しかも大半の日本人慰安婦女はいなかったことに。完全に逆差別。」

10月4日
「こんな日本兵と朝鮮人慰安婦だったのに、韓国人は日本人に朝鮮人慰安婦のことで謝れという。賠償金を払えと言う。なんだか、とってもおかしい。朝鮮人慰安婦が日本兵に『ありがとう』の一言があっていいと思う。

さらに文脈をはっきりさせよう。キャンペーンが引用しなかった10月4日のツイートで私は次のように言っている。

10月4日
「 日本兵は赤紙もらったら最後、戦争が終わるまで帰れなかった。朝鮮人慰安婦は、平均2年、短くて半年で母国に帰っていた。日本兵は貯金できなかった、使い切れない金はチップで慰安婦にあげた。朝鮮人慰安婦は料金のほかにチップも貯金して大金を貯めた。どっちが可哀想」。

10月4日
「日本兵は沢山餓死した。朝鮮人慰安婦が餓死した話はきかない。日本兵は給料でダイヤモンドを買えなかった。朝鮮人慰安婦はダイヤを買っていたものもいた。日本兵は給料で日本に家とか畑を買えなかった。朝鮮人慰安婦は親に送金し家とか畑を買った。どっちが可哀想」

10月7日には次のようにツイートしている。

10月7日
「歴史的事実を指摘することはヘイトではありません。それが特定の人々にとって都合が悪いことであってもです。歴史的事実の指摘に忖度はないのです。忖度したら最後それはプロパガンダになります。歴史事実は誰かの都合のためにあるものではありません。誰かのために変えられるものでもありません」

つまり、誰をも差別せず、誰にも忖度せず、歴史的事実を明らかにすべきだと考えているのだ。客観的に見て、給料もほとんどもらえず、食糧にもありつけず、絶望的な戦いをジャングルのなかで続けている日本兵は可哀そうでないだろうか。それにくらべて、駐屯地の慰安所の中で、高給をもらい、食事にも事欠くことなく、休日にはレクレーションを楽しみ、宝石を買い、国もとの親に大金を送金している慰安婦は恵まれていないだろうか。

にもかかわらず、この特定団体は、私のツイートを切り貼りし、加工することによって、そして根拠もあげず、「歴史否定」と決めつけ「差別主義者」とレッテルを貼ることによって、解職を求めた。

キャンペーンの目的は、「慰安婦は性奴隷などではなく、合意契約をした性産業の従業員だった」という歴史的事実を人々に知らしめようとする人間を弾圧することだ。その歴史的事実は、正義連(旧挺身協)および韓国政府が主張してきた「慰安婦は強制連行された」「慰安婦は性奴隷であった」を真っ向から否定するものだからだ。

以上見てきたことからわかるように、準国家機関の言論弾圧にはパターンがある。まずは、韓国側で新聞やテレビが誹謗中傷し、次いで、VANKがChange Orgに解職と授業の検閲をもとめるキャンペーンを立ち上げ、ラムザイヤー氏の場合は、アメリカの日本史研究者とともに、論文を掲載した学術誌の事務局に論文撤回を求めた。

これによって、慰安婦強制連行・性奴隷説を否定すれば、韓国メディアが一斉にネガティヴキャンペーンを立ち上げ、それに煽られた韓国人を中心とする何万人もの人が非難のコメントをSNSに書き込み、そしてChange Orgで大学に解職と授業検閲を要求することになるという脅しをかける。

あわよくば主張を撤回させ、それができなければ、社会的信用を失墜させ、可能なら大学に圧力をかけることによって辞職に追い込もう、最低限でも精神的に追い込んで、同じような主張をすることを抑止しようする。

かつて、ナチスはラジオと大衆動員でそれを行ったが、現代のナチスはネットメディアとSNSを使う。そして、ナチスの言論弾圧は国内にとどまったが、ワールドワイドウェッブの現代は、韓国にいながらにして、ネットやSNSを操ることで、外国にいる人間の言論弾圧を行うことができる。つまり、アメリカにいるラムザイヤー氏、日本にいる私を、韓国にいながらにして、記事を配信し、大人数で組織的投稿し、投票することで、相手を攻撃できるのだ。このことは、極めて現代的であると同時に極めて重大な問題を提起する。つまり、私たちは、ある集団にとって都合の悪いことをいえば、国内はもとより、外国からも数の暴力による弾圧を受けるということだ。

しかしながら、結局、ラムザイヤーは論文を撤回しなかった。紙のヴァージョンはまだ出版されずにいるが、電子版はとおの昔に配信され、日本を中心として世界中で読まれている。ハーバード大学学長も、学問上のことで解雇したりすることはないと言明している。そして、彼は2022年1月5日に、彼の論文を攻撃し、撤回を要求した学者たちに対して反論文を書き、現在、学術論文配信サイト『エルセヴィア』に掲載されている。

私はといえば、大学当局から呼び出されるとか、授業を検閲されるとか、問い合わせを受けるとかは一切なかった。まったくのお咎めなしだ。

これは当然である。ラムザイヤーも私も、大学の服務規程や倫理規定に反することはまったくしていない。純粋に学問的見地から学問の自由に基づいて、自分の知見を公に明らかにしただけだ。間違っているなら、批判すればいい。撤回を求めるとか、解職を求めるとか、授業の検閲を求めるとかは弾圧である。

ネットでもYou Tubeでも「異論があるなら論文撤回とか解職要求ではなく、学術論文で、公開の場で議論すべきだ」と正論を述べるコンテンツが圧倒的多数を占めている。これはジョゼフ・ナイの言葉を思い出させる。つまり、世界中の何億もの人がネットを使い、それなりのリテラシーを身に着けた現代では、はっきりプロパガンダだと分かるものを流した者は、だますところか、信用されなくなるのだということだ。

準国家的組織は、汚い手を使って言論弾圧を試みたが、その手の内が分かってしまった今、もう同じ手は使えない。また、汚い手を使ったということが知られてしまったのだから、VANKやYahooが配信する韓国メディアの記事は、以前にもまして信用されなくなった。

とはいえ、ラムザイヤー氏も私も大変なストレスを受けた。今も受けている。それに耐えられるのは、ラムザイヤー氏の場合は、私を含め多くの日本人が味方についたからだ。日本の保守論壇も擁護の論陣を張った。

私の場合、救いだったのは、私のツイッター・アカウントのおよそ2万7千のフォロワーだ。誹謗・中傷を受けた人はわかると思うが、例え少ない人数でも、自分の訴えを聞いてくれる人がいるのは、大きな心の支えになる。私の場合は2万7千の人々に自分の言い分を聞いてもらえた。また、保守系月刊誌やネットニュースも私の反論を掲載してくれた。

さらに、ハーバード大学も早稲田大学も大きな組織で、このような問題の処理に関する部局がありノウハウも持っていた。VANKやそれに類する組織が署名を何千、何万と集めても、それは自発的意思の表明ではないということも分かっていた。この点で、ラムザイヤーも私も幸運だったといえる。

だが、これがもし、理解者も支援者もいない個人だったら、また、ハーバード大学や早稲田大学のように、このような問題に関するノウハウを持っている組織や機関に所属していなかったら、高校の教員や大学の任期付き教員や非常勤講師だったら、どうなっていたかわからない。

慰安婦強行連行・性奴隷説を否定することは、世界のどこにいようと、依然として勇気と覚悟がいることなのである。この意味で、言論と研究の自由はいまも脅かされているといえる。

 

注1)Michael Chwe Letter by Concerned Economists Regarding “Contracting for Sex in the Pacific War” in the International Review of Law and Economics 

注2)Recovering the Truth about the Comfort Women | JAPAN Forward (japan-forward.com)
https://japan-forward.com/recovering-the-truth-about-the-comfort-women/
https://intpolicydigest.org/debating-history-of-comfort-women-should-not-be-taboo/

注3)世界に広まる「慰安婦=性奴隷」説を否定 米ハーバード大J・マーク・ラムザイヤー教授が学術論文発表 – 産経ニュース (sankei.com) 

注4) “Statement by Andrew Gordon, Professor, Department of History Carter Eckert, Professor, Department of East Asian Languages and Civilizations”, Harvard University , February 17, 2021, 

注5)「慰安婦『強制連行』記述で教科書の訂正要請 外務省、米社に」

注6)Michael Chwe Letter by Concerned Economists Regarding “Contracting for Sex in the Pacific War” in the International Review of Law and Economics

注7) 「ノーベル賞受賞者など学者2400人が 「ラムザイヤー<慰安婦>論文撤回」署名参加」

注8)中央日報「『その嘘、深いところが腐っている』ラムザイヤーを一喝したハーバード大新聞」2021年3月9日

注9)「ラムザイヤー「慰安婦」論文に沈黙する日本メディア」2021年3月19日

注10)李 宇衍「性奴隷説を否定した米論文にぐうの音も出ない韓国」JBpress, 2021年2月14日

注11)西岡力 『 道徳と研究22』「慰安婦問題を講義で触れて刑事起訴された韓国・柳錫春教授」

注12)堀和夫、木村幹監訳「ビルマ・シンガポールの従軍慰安所(日本軍慰安所管理人の日記)」

注13)文玉珠、構成、川万智子『文玉珠 ビルマ戦線楯師団の「慰安婦」だった私』(梨の木舎)