中国の10-12月度GDPが4.0%成長となりました。正直、これは低い印象です。先日申し上げたイアン ブレマー氏が率いるユーラシアグループが予想する今年の最大のリスク「中国のゼロコロナ失敗」が頭をよぎりました。そして、さらに悩ましいのは22年1-3月度も回復の見込みが少ない点です。
2月4日から始まる北京オリパラが終わるのは3月13日であることを考えると1-3月期は中国当局の規制優先時期の真っ只中になります。オミクロンもそうですが、セキュリティ対策を含め、この国は政府の指示に輪をかけたような規制展開をするので経済、社会は身動きがとりにくくなるとみています。中国の旧正月である春節は2月1日なのでこの前後も本来なら人が動き、消費も活況を呈するはずですが、今年は相当低調を見込んでおり、コロナ前の半分程度の人の移動になる可能性すらあります。
この大ブレーキは北京五輪開催に拠るところも大きく、仮にこれが開催されなければここまで厳戒態勢は敷かなかったかもしれません。東京五輪の時もそうでしたが、オリンピックはメディアは喜ぶけれど経済に関してはインフラ整備以外にどれだけの効果があるのか、むしろマイナス面も見えてきたというのが私の実感です。(ロンドン五輪もバンクーバー五輪も恩恵を受けない人や企業が大多数で国内のブーイングが多かったことも思い出されます。)
もう一つ、中国関連で重要な報道があります。それは人口問題です。国家統計局の発表によると2021年の中国の出生者数は1062万人(前年比マイナス138万人)に対し死亡者数1010万人でその他の要因を含めると人口はわずか48万人しか増えなかったと発表されています。
日本同様、少子高齢化が進む中、22年の中国はほぼ確実に人口減に突入します。政府は2人目、3人目の子供を容認していますが、対象年齢の人たちは子作りにほぼ興味を持っていません。理由は物価高など経済的理由もありますが、現代の社会構成が家族中心主義から遠ざかっていることが最大の理由とみています。中国の合計特殊出生率は2020年が1.3程度、21年が1.1-1.2と推定され、日本より猛烈なスピードで人口減が進んでいます。
これに対して中国政府はどう対応するのか、かじ取りは極めて難しいとみています。
毛沢東と習近平氏、この二人はある意味、似ています。毛沢東氏は1957年の大躍進政策で「15年で欧米に追い付く」と豪語し、強烈な締め付けの共産主義的経済政策をとりますが、とてつもない失敗を犯します。そして66年から10年間にわたる暗黒の文化大革命が起こります。
毛沢東に比べ、習近平氏の表面上の経済成績についてはそこまで悪く見えません。但し、就任後に2020年のGDPを10年比倍増させるとした計画は未達でした。大躍進政策ほどの失敗とは言いませんが、経済についてはいびつになり共産主義の理想とかけ離れてしまいました。統計の透明性や正確性、不動産と投資マネーによる地方経済のバブル化とその隠蔽、一帯一路政策と東アジア、アフリカ諸国への過剰介入など、この10年間、中国が採った政策は「薄く広く」、そしてその綻びが目立ってきた、というのが総評でしょうか?
2年ぐらい前から富のアンバランスと政経分離が目につき始めます。アリババなどテック企業が巨大利益を計上するのみならず、個人情報を持ち、独自経済圏を形成するようになり、共産党の趣旨と反することから弾圧に近い締め付けを行います。それはエスカレートし、ゲーム、塾、更には有名人への監視体制など成長の芽を見事に摘み取ってしまったのです。これでは毛沢東が大躍進政策から文化大革命に移行した流れに重なってしまいます。
では中国経済は終わりなのか、といえばそうとも言えません。国家として興味があり推進すべき分野には引き続き強い支援をしていくのでしょう。その最たるものが電気自動車、自動運転、デジタル人民元ですが、これが何を意味しているかと言えば最終的に国家が全ての人民の動きをデジタル管理し、監視体制を作ることであります。これは習近平版文化大革命の完成形なのでしょう。
毛沢東の文化大革命は紅衛兵が国家の方針に対して過剰な行動をとります。一種の原理主義と同じでほんの少しの不純物も許さないという考え方でした。これが数千万人が死んだとされる10年間の顛末です。習近平氏も自分のプロパガンダを推し進め、自身の3期目の立場を不動にするためにはより原理的な締め付けを展開をすると予想するのがナチュラルです。
では中央管理体制で全てうまく機能するのか、といえば否です。アメリカでも経済政策や金融政策は方針に対してあらゆる議論がなされ、かつ、社会や市場の反応をバロメーターとし、修正を重ねていきます。つまり、初めにAという方向性を提示しても実際にはA’やBになることが当たり前です。ところが共産主義にはこの弾力性がない、これが毛沢東の失敗であり、習近平氏の経済政策の弱点なのです。
今後、当たり前ですが、二つに一つしかないとみています。一つは習氏が経済状況に目をつぶりより原理的に体制強化を図るか、国内の反対派の声を抑えきれず、妥協の緩和策をとるかです。前者になれば経済は荒れ、世界に伝播するでしょう。後者ならば案外目先の危機を乗り切れるかもしれません。長期的には中国は10年前の「世界の工場」とは全く違う世界に向かっており、どこに向かって舵を切るのか、なかなかの難問と言えそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月21日の記事より転載させていただきました。