ウクライナ侵攻に備えて日本にできること

田村 和広

ウクライナをめぐる米露(及びNATO諸国)の対立が日を追って激化しています。報道によれば、キエフにある米国大使館員の一部とその家族に対し退避を命じたとのことです。

The U.S. Embassy in Kyiv, Ukraine, has requested that the State Department authorize the departure of all nonessential staff and their families, multiple sources told CNN.(US Embassy in Kyiv Asks to Evacuate Nonessential Personnel | Newsmax.com

【ワシントン共同】米FOXニュースは22日、米国務省が在ウクライナ大使館員の家族に対し、24日にも国外へ退避するよう命じたと報じた。(ウクライナの米大使館員家族退避命令と報道 | 共同通信

また先週行われた米露の直接交渉では双方の要求に隔たりが大きく、交渉は継続となりましたが決裂の可能性も十分ありそうです。米露双方に言い分はあり、特にロシア側はクリミア半島併合(2014年)の時と同様に、「住民の希望」や「保護」など大義名分を用意した上で行動を開始することでしょう。

Tomas Ragina/iStock

しかしここでは両陣営の是非・善悪は論じません。主題は「紛争が始まった時、日本に何ができるのか」です。

日本にできることは何もないのか

松川るい参議院議員は1月12日、自らのブログで本件に関する日本の限界と課題について明瞭に言及しており、アゴラでも報じられました。

ウクライナ情勢そのものについて日本ができることはほぼありません。日本ができること、すべきことは、自身の防衛力強化と外交です。

2022年に気になること:ウクライナ情勢が他人事でない理由
今日は1月11日。2022年が始まって11日目。昨年もいろいろありましたが、今年はそれ以上に激動の一年となる予感がしています。 昨年は、世界的に言えば、何と言っても、米中対立が深まる中で、バイデン政権が誕生し、「台湾海峡の平和と安定」...

この見解に対して一部の識者が反応していますが、「ウクライナ情勢そのもの」に限定をして考察した場合には確かに松川議員の指摘通りでしょう。現に21日に行われた岸田総理とバイデン大統領のテレビ会談では、むしろ「対中国」に焦点を合わせていた様子が伝えられており、地域的な役割分担の観点から考えるならばこれが適切な対応でしょう。

日米、アジア新経済圏で足並み 2プラス2新設、中国に対抗―首脳会談:時事ドットコム
【ワシントン時事】岸田文雄首相首相とバイデン米大統領は21日、国際経済秩序に挑戦する中国の脅威に備える経済安全保障の観点から、外務・経済担当閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)の新設で合意した。バイデン氏が中国への対抗策として提唱する「インド太平洋の新たな経済枠組み」構想の実現に向けて戦略を練る場に...

「対中国」という観点で多くの方が連想するのはやはり台湾情勢でしょう。しかしここでは敢えてそれ以外の、連想しにくい論点を提示したいと考えております。

日本は原発再稼働の環境整備を急ぐべき

欧州を舞台とした危機に関して、日本が国際社会の安定に対して直接的な貢献はほとんどできないことは認めるとしても、国内に目を向けるならば打つべき手立てはいくらでもあるでしょう。

エネルギー安全保障の観点に絞って考えるならば、日本は原発再稼働にむけて法律と手続き、特に世論という環境整備を急ぐ必要があると考えます。その理由は、ロシアと中国の連携を考える時、「米国陣営によるロシアへの圧迫」は「中国およびロシアによる日本への圧迫」につながる懸念を排除できないからです。

エネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存する日本は、資源価格の面で国際市場に、物流の面でシーレーンの安全保障に命運を握られております。事情がよく解りませんが(私たちからすれば「愚かしく」感じる)ドイツのエネルギー政策によって、ロシアは天然ガスの輸出でドイツ他との紐帯を強く握っておりウクライナをめぐる紛争はエネルギー資源供給の見通しを一層不透明なものにしております。

一方近年の中国海軍の充実ぶりは著しく、台湾情勢の緊迫は即日本近海の海路の危機になりかねません。終戦間際の食料困窮は、直接的には主要な港湾や航路の(機雷敷設や潜水艦他による)封鎖によって一層促進されてしまった歴史を日本人は思い起こすときでしょう。

想定外の事態でエネルギー資源の輸入に滞りが生じた場合、日本国内の混乱や困窮は容易に想像できます。近年でもマスク騒動などで観測されましたが、実際に不足するかどうか以前に、「不足が予想できる」ようになれば市場価格は変動します。従って「不足することはないだろう」と多くの人々が信じられる環境を事前に整えておくことが肝要です。

エネルギー資源の備蓄なども大いに充実させるべきでしょう。しかし「自給的なエネルギー」と見做すことが可能な原発こそ、この危機を契機として最も環境整備を急ぐべきエネルギー政策の一つでしょう。

日本は2011年の福島原発事故の影響で、原子力発電に対する世論は「なんとなく積極的になれない」状況であり、政府も電力会社も退嬰的なスタンスになっております。

世論の逆風の強さや規制基準の妥当性についての議論があることは承知しておりますが、今やマスメディアの一部にみられる情緒的な主張に抑え込まれている場合ではなく、各種のエネルギーをバランスよく活用すべき状況です。もはやゼロイチ思考やゼロリスクマインドに遠慮して手を拱いている場合ではありません。

日本の自己認識を再確認するチャンス

端的に言うと、現在の日本の外交には武力による裏付けがないので致命的に無力です。また経済力にも陰りがさしている状態が長く続き、存在感は年々低下する一方です。その直接的な原因や背景は様々に考えられますが、ここでは論じません。一つ言えることは、「社会とは相当の賢人でも一個人に理解できるような単純なものではない」ということでしょう。

今回のウクライナ危機は、日本と日本人が自分自身の国家観や世界のなかでの位置づけについて深く考えるチャンスです。実はロシアによる2014年のクリミア半島併合の時も絶好の機会だったのですがその時は見逃しました。

今はまだ言及する政治家や有識者が少ない状況ですが、紛争が激化した際には自ずと関心が高まるでしょう。そのときは「悪いロシア」という皮相的な思考で片付けることなく、日本人自身が我が事として捉えて現実的な対応ができるようにしたいものです。

国防について「保護」されている状態と相互に役割を果たす状態は全く異なります。「日米同盟」が言葉だけの「同盟」ではないというためには、現状の強い依存状態を今一度見直すことも大切です。

湾岸戦争の際、米国が日本に言った“Show the flag.”には複数の意味(:「旗幟鮮明に」または「部隊を」など)があるようですが、「国際的な安定に対して日本が貢献できること」について、自信を持って独自の「旗」をたてられる国にしたいものです。