北京「フェイク・ウィンター」五輪?

第24回北京冬季五輪大会開催まであと1週間となった。オーストリア国営放送公式サイトには「フェイク・ウィンター」(FakeWinter)という見出しで黒い山肌と木々が見える中、滑降用の競技場周辺だけが雪で覆われているロイター通信の写真が掲載されていた。数百の降雪機が動員され、人工雪で固めた滑降施設は、アルプスの小国に住むウィンタースポーツ国オーストリア国民が見たら異様な風景だが、開幕を控え、今更、競技場の雪問題で議論をしても意味がない。開催地に北京が決定した時から分かっていたことだからだ。ちなみに、北京で活躍する人工降雪機は南チロルの会社が開発したものという。いずれにしても、北京は夏季と冬季の五輪大会を開催した最初の都市となる。

北京冬季五輪大会のメディア・センター(北京冬季五輪公式サイトから)

オーストリア冬季五輪大会参加者を見送る式典が26日、ホーフブルク宮殿の大統領府で開催された。106人のアスリートを含む五輪代表団はヴァン・デア・ベレン大統領やネハンマー首相ら政府関係者から激励を受けた。ファン・デア・ベレン大統領は挨拶の終わりに、「日ごろの成果を十二分に発揮して頑張ってください。健康で帰国できることを願っています」と述べた。オーストリア政府は外交ボイコットを表明していないが、スポーツ担当相のコグラー副首相ら政府要人は北京に行かない予定だ。

オーストリアはノルウエー、スイスなどと共にウィンター・スポーツ国だ。過去2回、インスブルックで冬季五輪大会を開催した実績がある。2006年のトリノ大会では金メダル9個を含め23個のメダルを獲得してメダル獲得数では出場国中3番目だった。2018年の韓国平昌大会では金5、銀3、銅6、計14個のメダルだった。オーストリア五輪委員会のカール・シュトス会長は、「メダル獲得数でベスト10には入りたい」と期待を表明している。

中国共産党政権にとって、スポーツは国への愛国心、ナショナリズムを高揚する手段だ。だから、北京は世界が注目する冬季五輪大会を成功させるためにあらゆる手段を駆使している。特に、北京に新型コロナウイルスのオミクロン株が感染拡大し、選手や北京市民に感染が拡大しないように「ゼロ・コロナ」を徹底し、監視と検疫体制を敷いてきた。競技は無観客開催となる可能性が高い一方、選手たちと市民との接触を封鎖するバブル方式が徹底される予定だ。選手はホテルに入ると、競技が終わって帰国するまで隔離生活を強いられる。東京夏季五輪大会では選手村から逃げ出したアスリートがいたが、北京ではそんな冒険は絶対に許されないという。

ところで、中国のスポーツ大会開催と新型コロナウイルスの感染問題を考える時、2019年10月、武漢で開催された第7回世界軍人運動会を思い出す。同運動会に参加した選手が帰国後、新型コロナの症状の疑いが出て入院した。4カ国で同じ報告があった。当時はまだ新型コロナウイルスの正体が不明だったため、病気の発生原因を追究できなかったが、ウイルス学者の中には、「武漢での世界軍人運動会で選手たちが体調を崩したのはコロナウイルスの感染が考えられる」と受け取っている。世界軍人運動会よりその規模、参加選手数が多い冬季五輪大会の場合、一度、オミクロン株が選手に感染した場合、そのクラスターは大変だ。中国からの情報では北京で既にオミクロン株の感染が広がっている。

冬季五輪大会で懸念されるのはオミクロン株の感染拡大だけではない。選手用ホテルやセンターで出てくる中国の料理に対して、注意を呼び掛ける声があるのだ。東京五輪大会では世界のアスリートたちは多種多様の料理に舌鼓をうつことができたが、北京では要注意という。

ドイツ反ドーピング機構(NADA)は10日、北京冬季五輪大会に参加する選手らに対し、中国産食肉を食べないよう注意を喚起している。NADAのニュースレターによると、「中国産食肉に筋肉増強剤クレンブテロールが混入している可能性がある。中国の畜産業者は豚や牛にクレンブテロールを与え、食肉の赤身を増やす。その肉類を大量に食べれば、ドーピング検査で陽性となる危険性が出てくる」というわけだ。

オーストリア五輪代表団が、「国から食材と料理人を連れていくことが出来れば理想的だが…」と語っていたことを思い出す。食欲旺盛な若きアスリートたちに安全な料理を提供して満足させることは関係者にとって重要だ。北京で肉料理があまり食べられないとなれば、寂しく感じる選手も出てくるはずだ。

「選手たちが健康で帰国することを願っている」と述べたファン・デア・ベレン大統領の言葉が一層、意味深いものとなって響いてくる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。