佐渡金山:首相に言いたい「最初から貴方が決めろ」と

一旦は「外務省が今年度の推薦は見送る方向で調整」と報じられた、文化審議会が昨年末にユネスコの世界文化遺産推薦候補に選んだ「佐渡島の金山」だが、先週半ばに一転、岸田総理が「最後は俺が決める」と決意を示し、推薦に向けて最終調整に入った。

オミクロン関連案件などでも、官僚任せにし、世間や党内の批判が高まるや撤回する手法が目立つ岸田総理だが、慰安婦合意や軍艦島の世界遺産登録を外相として担当し、韓国の出方を熟知していなければならぬ立場でありながらの体たらくには、「最初から貴方が決めろ」と言いたい。

29日の韓国「中央日報」は早速、「日本が結局、日帝強占期当時に朝鮮人強制労役があった佐渡金山をユネスコ世界文化遺産に登録推薦することに対し、韓国政府が『強い遺憾を表す。こうした試みを中断することを厳重に求める』と反発した」などと報じた。

だが同記事の「日帝強占期当時に朝鮮人強制労役」との表現にはいくつか事実誤認がある。

一つは「時代」。韓国のいう「日帝強占期」とは、1910年の日韓併合(或いは1905年に韓国が外交権を日本に委ねた第二次日韓協約)から1945年の終戦までを指す。が、今回の推薦理由は「世界中の鉱山で機械化が進む16~19世紀に、伝統的手工業による金生産システムを示す遺構として価値」であり、20世紀の佐渡金山は対象でない。

二つ目は「強制」。昨年4月27日、菅政権は維新の馬場伸幸議員が提出した「強制連行」「強制労働」という表現に関する質問に対し、以下の内容の答弁書を衆議院議長に送付、「強制」との表現は適当でない、との見解を示している。だのに何をためらうのか。

一について

御指摘のように朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、これらの人々について、「強制連行された」若しくは「強制的に連行された」又は「連行された」と一括りに表現することは、適切ではないと考えている。

また、旧国家総動員法(昭和十三年法律第五十五号)第四条の規定に基づく国民徴用令(昭和十四年勅令第四百五十一号)により徴用された朝鮮半島からの労働者の移入については、これらの法令により実施されたものであることが明確になるよう、「強制連行」又は「連行」ではなく「徴用」を用いることが適切であると考えている。

二について

強制労働ニ関スル条約(昭和七年条約第十号)第二条において、「強制労働」については、「本条約ニ於テ「強制労働」ト称スルハ或者ガ処罰ノ脅威ノ下ニ強要セラレ且右ノ者ガ自ラ任意ニ申出デタルニ非ザル一切ノ労務ヲ謂フ」と規定されており、また、「緊急ノ場合即チ戦争ノ場合・・・ニ於テ強要セラルル労務」を包含しないものとされていることから、いずれにせよ、御指摘のような「募集」、「官斡旋」及び「徴用」による労務については、いずれも同条約上の「強制労働」には該当しないものと考えており、これらを「強制労働」と表現することは、適切ではないと考えている。

三つ目は「差別」。これは韓国紙が「昨年6月に東京の新宿にオープンした『産業遺産情報センター』は、『朝鮮人に対する差別はなかった』など、歴史を歪曲する内容で埋め尽くされた」といった文脈で報じる時に用いる常套句だ。

「差別」に関して筆者は19年7月の「国連シンポで主張された『朝鮮半島出身労働者』研究の中身」と題する拙稿で、落星台経済研究所の研究委員だった李宇衍氏の研究「戦時期日本へ労務動員された朝鮮人鉱夫(石炭、金属)の賃金と民族間の格差」(九州大学学術情報リポジトリ:17年3月24日)を紹介した。

そもそも「差別」がないのだから、「時代」も「強制」も問題にすらならない。事実に基づいて堂々と論破すれば良いし、国際社会もそれを見ている。以下にそのポイントを掲げる。

  1. 本研究は李氏が「資料はほとんど『強制連行・強制労働』という立場の研究者が編纂したものである」としている通り、立場を異にする先行研究者の資料に拠っている。
  2. 先行研究が「強制連行・強制労働」という矮小化された視点から行われたために、問題を「単純に奴隷的労働と奴隷的生活とすることで済ませてきた」とする。
  3. 本研究は、 朝鮮人炭鉱労働者と金属鉱山の労働者の賃金の程度 2. 賃金の決定方法 3. 日本人の労務者との賃金の格差 4. その推移の変化…などを明らかにしている。
  4. 朝鮮人は1939年~45年に144千人が鉱山に動員され、うち122千人が炭鉱の坑内採炭夫として動員された。
  5. 39年9月からの「募集」も44年10月からの「徴用」も、「戦時動員」ゆえに賃金が支払われなかったとの主張があるが、労務動員の賃金は当初から支払われていた。
  6. 三井砂川炭鉱では40年7月末の在籍者622名の8%が平均32.34円を送金した。明延鉱山では71.8%、生野鉱山も72.8%、仙台高屋鉱山では3~7月の稼働人員の70.1%が送金していた。(資料は朴慶植編。金額は実際の送金平均額)
  7. 他方、朴慶植編の「半島労務者勤労状況に関する調査報告」は41年の北海道某炭鉱の送金者は在籍者の0%に過ぎず、43年初の住友㈱鴻之舞鉱山でも20%~30%だったとしている。
  8. その理由を李氏は、先行研究では、強制貯蓄、各種積立金、食費、その他の雑費等を引くとごく僅かな額の「小遣い」しか残らず、送金する余裕はなかったとしているとし、
  9. だが、賃金は強制貯蓄、食費、その他の雑費を引いても4割程度が手取りとして残った。会社は送金を強く勧めたが、従わない朝鮮人も多かった。送金した者は残りの3%を小遣いとし、送金しない者は賃金の43.5%を全て自由に消費したと計算される、とする。
  10. 賃金計算法と格差は炭砿によって異なり、複雑な方式で計算されていたものの、炭・鉱員の朝鮮人と日本人には同一の賃金体系が適用された。但し、複雑な計算法が誤解を生む可能性があっただけでなく、歩率の計算など民族差別的な要素が介入する余地があった。
  11. 体系が同一でも賃金額が同じでないのは、住友鉱業歌志内の「就業案内」が「賃金は稼高払とする」点や、磐城炭鉱の「就業規則」に「単価を決め作業の産出高により計算…共同社業の場…按分し賃金を計算する」とあることに由る。
  12. この「就業案内」と「就業規則」の共通点は、朝鮮人と日本人の区別がないということであり、両者を区別し別個として取り扱うという文書は存在しない。
  13. 朴慶植は北海道某炭鉱の民族ごとの賃金分布を差別の根拠とするが、李氏は朴慶植が同じ資料にある勤続年数と賃金の分布を無視している、とする。
  14. つまり、朝鮮人の勤続年数は2年未満が3%である一方、日本人は57.2%が2年以上なので、前者が50円未満に、後者が50円以上に集中するのは、「勤続期間」に基づく作業能率の差を反映している。
  15. 李氏は長澤秀による「作業班構成により発生する作業能率上の差異に関する調査」も紹介し、日本人4名と朝鮮人3名の構成の場合は1名当たりの炭掘進尺数が8尺なのに対し、朝鮮人のみの構成の場合、2年勤続8人では0.51尺、3カ月訓練後8人では0.25尺だった。
  16. つまり経験の蓄積が作業能率を決定し、それを考慮するが故に賃金計算も複雑化した。

李宇衍氏は国連シンポの後、日韓でベストセラーになった『反日種族主義』を李栄薫氏と共同で上梓、慰安婦像の撤去運動も展開している信念の人。岸田総理には李氏の爪の垢も煎じて飲ませたい。

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