組織は、その存在形態において、膨大な数の規則や規定の集積であり、箸の上げ下ろしを細かく定めた行動手順書であり、書き込むのも面倒な伝票や帳票や定型書式の束である。それらの規則や手順や書式は、始原においては意味があっても、時間の経過とともに無意味化していく。無意味化した規則や手順の遵守を強制することは、生産性を低下させ、無意味な作業を強制されることは、就労意識を低下させる。
製造業においては、品質検査の不正により、基準を満たさない製品の出荷される事案が多々生じている。しかし、不正にもかかわらず、安全性や性能等の実質的な品質においては、重大な問題は生じていないのだから、真の論点は、検査不正ではなく、検査基準なのである。つまり、不正の背後に、過剰な品質基準や不要な検査等がないのか、再検討されるべきなのである。
本来、品質基準や検査手順の規則遵守の裏には、顧客の利益の保護等の意味があったはずである。しかし、その意味は環境の変化等により失われていき、それでも規則だけは残り続ける。なぜなら、規則遵守のための規則遵守が組織を維持する規律として機能しているからである。そして、ここに、生産性の低くなる原因があるわけだ。
銀行は典型的事例である。銀行では、顧客に対して、様々な書類提出を求め、面倒な書式への記入を求め、あちらこちらへ押印を求め、更に、行内で複雑な確認手続きを行う。こうした手順には、顧客の利益の保護という大義名分があるのだが、現実には、不測の事態に備えて銀行を守るという組織防衛的側面が圧倒的に優越している。
顧客の利益の視点では実質的意味のない作業は、生産性を著しく低下させるばかりか、顧客に不便を強いるという不合理をも生じている。無意味な作業の無反省な実践は、組織防衛的機能によって、組織を強化してしまうために、銀行経営の革新が起き得ないという更なる不合理を招いているわけである。これこそ、銀行の常識は世の非常識といわれることの真の意味である。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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