ハンガリーにおける0〜18歳コロナ全死亡例データから考える --- 家田 堯

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新型コロナウイルス感染症に関連する全死亡例の詳細を公開している国家は少ないのではないでしょうか。中欧の国ハンガリーでは、全死者の登録番号(亡くなった順番)、年齢、性別、基礎疾患の詳細を政府がウェブサイトで一般公開しています。

子ども人口の接種が急速に進み、5-11歳の接種も始まろうとする日本の現況下、このウェブサイトは、コロナ禍で誰が積極的に守られるべきなのかを把握する手がかりとなります。

0-18歳の年齢層における全死亡例のデータ(2022年1月15日現在)を以下に掲載します。

登録番号 年齢 性別 基礎疾患
26616 0(生後3か月) 遺伝性ミオパチー -MLASA症候群, ミトコンドリア性ミオパチー
30090 0(生後数日の新生児) 乳児突然死
36742 0(生後10か月の乳児) 慢性的気管支喘息
38479 0 早産 (4カ月)
38948 0 早産, 代謝障害, 貧血, てんかん
22859 1 (8カ月間の) 化膿性髄膜炎, 敗血症
31576 1 精神疾患
39329 2 既往のmeningoencephalitis (髄膜脳炎)
32067 4 ダウン症候群
36654 6 てんかん, 知的障害
22741 14 喘息
15110 16 リンパ系疾患
18442 16 肥満, 知的障害
35946 16 脳損傷, てんかん
39670 16 ダウン症候群, 病的肥満
36325 17 頭蓋骨および脳の損傷, 重度の精神発達遅滞
4762 18 急性白血病
30412 18 ダウン症候群, 甲状腺疾患
37473 18 心臓病, 知的障害, 小児自閉症

(データ作成:Think Vaccine)

以下はハンガリーの基礎データです。

<人口>
全人口:約970万人
0-18歳の人口:約180万人

<医療>
ハンガリーの医療のレベルはEUの平均的なレベルと同等です。社会保険に加入していれば、子どもは基本的に無料で医療を受けることができます。医学が発展しており、日本からの医学生が毎年数十人留学しています。

<経済>
1人当たり名目GDP(IMF)によれば、ハンガリーの経済力はポーランドやギリシャと同等です。EU加盟国の中では物価が比較的低く、近年の失業率は4.0%前後で、生活水準が比較的高い国と言えます。

上記コロナ関連死のデータについては、以下の事柄に留意が必要です。

▶ハンガリーの感染対策と日本の感染対策との間には差異があります。例えば、ハンガリーは感染状況に応じて公共施設などの屋内におけるマスク着用を一時的に義務付けるといった対策を実施してきました。一方、そのような対策が実施されていない状況下では、日本のように多くの人がマスクを着用するといった条件は必ずしも成立しません。

▶コロナ関連死のデータには、死因がコロナ感染症と考えられる例だけでなく、死因はコロナ感染症以外である(可能性がある)ものの死亡時に感染していた(PCR陽性だった)例が含まれます。これに関しては現在の日本の制度も同様です。

例えば、日本の10歳代において「コロナ関連」で亡くなった3人目の死因は交通事故でしたが、死亡時PCR陽性だったためコロナ関連死に計上されています。ハンガリーでは、それ自体でも死因となり得る致命的な疾患、慢性疾患、状態が患者の病歴に含まれる場合でも、死亡時にPCR陽性であれば、死亡例がコロナ関連死に計上されます。この場合、「基礎疾患」の欄には、死亡診断時における慢性疾患および疾患による急性の合併症を記載します。

一方、死亡時PCR陽性であり、コロナ以外に死因を説明できるような疾患あるいは状態がなかった例については、「基礎疾患」の欄に新型コロナウイルス感染症を記載します。

つまり、上記データに関して言えば、死因が明らかにコロナ感染症であると断定できる例は0です。なお、データ掲載を割愛しますが、若年層に属するハンガリーの19-29歳のコロナ関連死(約140例)においても、死因が明らかにコロナ感染症であると断定できる例は0です。

▶ハンガリーの2020年の超過死亡:各種報道によれば2015-2019の年間平均死者数に対して2020年の年間死者数(140900人)は6.3%の増加(+8331)を示しており、2020年12月31日までのコロナ関連死(累計)の数は9884です。

死亡時PCR陽性だった死亡例すべてにコロナ感染症が実質的に関与したかは不明であるものの、死亡例の増加分である8331とコロナ関連死の累計9884には近似性があります。よって、死因がコロナ感染症である例、或いは死因と感染症が関連する(例えば、感染症が死期を早めた)例が一定数存在する可能性があり、超過死亡の一因がコロナ感染症であった可能性が否定できません。(ただし、一般に、コロナ禍では社会全体で多様な問題が発生するため、超過死亡の原因は多角的に検討する必要があります。ちなみに日本では2020年、年間死亡数が前年比で約1万人減少しました。)

上記データが判断材料や議論のきっかけとなれば幸いです。医療者でない私個人のコメントは控えますが、一点だけ問題提起させて下さい。

現在、日本の健康な5-11歳の接種の是非については多様な意見が存在するものの、基礎疾患のある小児の接種は積極的に進めるべきとの意見が優勢です。無論、特定の基礎疾患を有する人は新型コロナウイルスによるリスクが比較的高いことが知られており、上記データもその知見と合致すると言えます。

一方、基礎疾患のある人においてはワクチンによる有害事象が発生しやすい点についても考慮すべきと思われます。2022年1月26日に開催された第29回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会では、基礎疾患を有する小児においては感染症によるリスクが高く、ワクチン接種によるリスクも高い点が指摘されました。

1月19日付の日本小児科学会による提言「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」で引用された論文(Hause AM, et al., 2021)では接種後における死亡例が2例報告されており、2例とも複雑な病歴がありました(ただし接種と死亡との因果関係は「不明」)。

日本において5-11歳でコロナ感染症により亡くなった子どもの数は0です。10歳代で亡くなった例のうちコロナ感染症が死因に直結すると考えられるのは1例です。この1例は基礎疾患のあった例(ワクチン1回接種済み)ですが、子ども人口が約2000万人であることを考えると、新型コロナウイルスが(例えばインフルエンザウイルスに比べて)基礎疾患のある日本の子どもにとって大きな脅威であるかについては検討が必要です。

また、5-11歳における接種が始まっていない現在の制度に基づき今後も基礎疾患のある子どもを守ることができないかについても検討すべきではないでしょうか。感染力の強いウイルスの影響は懸念事項であるものの、基礎疾患があるとの理由から5-11歳のワクチン接種を積極的に進めてよいかについては多角的な議論があって然るべきです。

mRNAワクチンには一定の効果があります。一方、ワクチン分科会での上記指摘等に鑑み、私は、「ハイリスクの人達におけるワクチン接種を進めて重症化を防ぎ、経済を活性化させて社会の正常化を図る」との方策は一定の危険をはらむと考えます。

家田 堯
一般社団法人発明推進協会(東京都港区)、知的財産研究センター翻訳チーム主査。翻訳家。英語、イタリア語、ハンガリー語、ロシア語の翻訳実績がある。学生時代の専攻は音楽。mRNAワクチンに関し様々な観点から情報を紹介するウェブサイト、Think Vaccineを運営。