裏切った雇用統計

北京冬季オリンピックが始まりました。日本選手の結果については気になるのでしょうけれどそれ以外はほとんど興味がない人が増えていると思います。東京五輪の時もそうでしたが、忙しくてスマホとSNSしか見ない人たちにとって選手や五輪の裏側の話はひたすら面倒な話になりつつあります。つまり結果だけが知りたい、これが今の社会だとすれば東京でも北京でも大金かけてこのイベントをする意義がどこまであるのか、オリンピックは政治ゲームでしかないのか、考えさせられます。

では今週のつぶやきをお送りします。

裏切った雇用統計

アメリカの1月度の雇用統計が発表になり、46.7万人増と事前予想の15万人を大きく上回りました。昨日までは雇用統計は相当悪くなると予想され、一部ではマイナスの予想すらあり、市場の一部では「パウエル議長の強気の利上げは一歩後退になる」とすらささやかれていたのです。ただ、本当にそんなに雇用環境が良いのか、詳しく見るとやや疑問もあります。

Steve Dunning/iStock

一つは1月の一時解雇数が14.7万人で20年12月以来の高さとなっています。失業率は0.1%ポイント悪化、賃金は前年同月比5.7%上昇です。一方、カナダも同日雇用統計を発表し、事前予想のマイナス12万人に対してマイナス20万人と出ました。多分、このほうがナチュラルな気がします。

つまりオミクロンが強く影響したのが1月の雇用統計ですが、アメリカは猫の手も借りたい状態で賃金は上昇、労働の質は相当低下し、労働生産性が下がっている可能性があります。例えば市場はアマゾンの決算を受けて同社の株価が高騰していますが、内容を見ると本業のネット販売の利益は半分に下落しています。今回は自社で株を持っていた自動車会社が上場したことによる利益計上が強く出ており、私からすればちっともよくない決算です。

北米で仕事をして思うことは最低賃金がアメリカ、カナダでどんどん上がり、ちょっと技量がいる仕事なら時給3000円では人はきません。それで雇ってもろくな仕事をしません。私どもでもちょっとした水道管の破裂を直すのに20万円請求され、挙句の果てその修理が不備で半年後に同じところから漏れても「保証期間は終わっています」の一言で片づけられ、結局、自分達で技術もノウハウも取得してしまいました。

つまり北米で外部の人が使えず、経営者や既存スタッフの負担が増えるという悪循環にあります。北米の若者は理想を追うばかりで使えない、これが実態だと思います。

本当のGゼロ時代

イアンブレマー氏が日経のインタビューでGゼロの時代が進み、「世界秩序は米国主導には二度と戻らない」とはっきり述べています。1行にも満たない強いステートメントですが、私は今の社会の全てを言い表していると思います。

今日、原油価格は93ドル台をつけ更に上昇する勢いになっています。理由はロシアの石油ガスを中国に供給するからです。とすればロシア産のガスに頼る欧州はガス在庫がひっ迫しつつある中で更なる資源価格上昇を招きます。今週のOPECプラスでも増産量は当初予定通りでアメリカの増産要求はスルーされています。

一昨日、ISの最高指導者がアメリカ特殊部隊に急襲され自爆したと報じられました。確かにバイデン政権としては思い切った作戦だったと思いますが、今一つインパクトがありません。不人気政権になると何をやってもダメ、ではトランプ氏待望論かといえばそれはごく一部の「ファン層」の声であり、アメリカそのものが個人主義で自分とマネーが全ての社会になり、Z世代はITガジェットが生活の一部となり、極論すればITに使われているロボットのようになりつつあります。

Gゼロ時代が本格化するならば世界の秩序は崩れます。昨夜参加した当地ブリティッシュコロンビア大学のオンライン講座でアセアン諸国が世界をリードするか、という議論を4人の学者が展開したのですが、人口こそ多いもののEUのような目的意識が一体となるような結びつきがなく、対中国という軸に対抗する日本と韓国も協力関係が結べない損失を指摘していました。学者目線ではそうなるでしょう。

民主主義という名の個人主義に変貌した今、権威主義が国家としてのアピアランスではるかに強くなってきている現状は考えさせられるものがあります。

韓国大統領選と日韓関係

ほぼ一月後の3月9日に韓国で大統領選があります。候補者は与党の李在明氏と野党の尹錫悦氏の実質一騎打ちとなっています。ひと月ほど前、尹錫悦氏が身内の問題で支持率を大きく下げ、李在明氏で決まりかと思ったのですが、尹候補の強烈な巻き返しとなり、一部の世論調査では逆転しています。(聯合ニュース2月4日版で尹氏46%、李氏38%。)俯瞰すると今の韓国政治は対北朝鮮政策と中国政策で詰まっているように感じます。

世論調査では韓国若者の嫌中が急速に増える中、尹氏が対中国への強硬姿勢を見せています。また第三の候補である安哲秀候補は大統領選挙のたびに「カギを握る男」とされながらもいつもそのカギを有効活用できませんでした。その安氏は対日関係見直しを述べており、尹氏、安氏ともに保守系として日本とは関係見直しの機運が出来ます。韓国の世論の不安定さからすると保守が一気に巻き返す可能性は再び出てきたとみています。

日韓関係も時代ごとによくなったり悪くなったりしますが、安倍政権時代が最悪だとすれば潜在的には良くなる公算はあります。

ただ、最大の難関は日本側のハードボールとされ、特に政府ベースでの交渉が厳しいとされます。韓国は地政学的にアライアンスを結ぶところがなく、仮に中国との距離感がでれば北朝鮮とも疎遠、日本は相手にせずでアメリカが遠隔的に支援しているのみという懐の寒さがあります。

政治と世論でふらつきのある韓国は大統領選の結果次第でオセロゲームのように大転換することもあり得る気がしてきました。時の風が隙間からぴゅーっと入ってきて状況次第では雪解けがあるかもしれないとも思っています。

後記

石原慎太郎氏がお亡くなりになりました。癖の強い方でした。私は秘書の時、当時、国会議員だった石原先生が会長に会いに会社に来る際、石原事務所から「石原は普通のタクシーで御社に向かって青山通りで降りるはずですのであとはよろしく」と連絡が来ました。急いで通りで待ち構えるとタクシーが一台止まり、長身の石原先生が一人降り立ち、「やぁ」と言って200メートルほど雑踏を一緒に歩き、雑談をしたことがあります。ほんの5分ぐらいの二人だけの接点でしたが強烈な印象でした。

石原氏の「日本を護る」という信念はその時、感じ取ったのかもしれません。私があの5分間の興奮を忘れることはないでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月5日の記事より転載させていただきました。