立憲民主党・泉代表の「白紙撤回発言」
立憲民主党・泉代表は、昨年の衆議院選敗北を受けて、立憲・枝野代表と共産・志位委員長との間の、立憲が政権を獲得した場合の共産党との「閣外協力合意」を一旦「白紙撤回」する意向をテレビ等で述べている。これには、連合・芳野会長の「今後、共産党と共闘する候補者は推薦しない」旨の発言も影響しているのであろう。
これに対して、共産党は、「閣外協力合意」は公党間の合意であり国民との公約でもあるとして、立憲・泉代表の一方的な「白紙撤回発言」に強く反発し、今年7月の参議院選に向けて、両党の「共闘関係」を早急に構築するよう求めている。
共産党の「焦り」の背景
筆者から見ると、共産党は非常に「焦っている」ように見える。共産党にとっては、立憲との「閣外協力合意」は、同党の「統一戦線戦略」(「党綱領四=民主主義革命と民主連合政府」参照)として画期的であり、政権に近づくための「唯一の道」であり、またとない「チャンス」として、後戻りはできないと認識しているからであろう(2020年1月23日掲載「二段階革命を狙う日本共産党の野党連合政権の危険性」参照)。
このような共産党の「焦り」の背景には、近年における共産党の顕著な党勢衰退を無視できない。機関紙「赤旗」の購読者数と党員数の減少傾向に歯止めがかかっていない。党勢衰退により、今や立憲との「共闘関係」がなければ、かつての「自共対決」のようには、もはや、共産党単独では人的物的にも選挙戦を含め十分には戦えない状態に陥っていると筆者は分析している。その意味で、共産党は立憲民主党に接近せざるを得ないのである。
共産党は今年党創立100周年を迎えるが、同党の党勢のピークは1980年代であり、1987年の党員数は48万4000人であったが、現在では28万人にまで減少し、機関紙「赤旗」も1980年の355万部から現在では100万部を割り込んでいる。しかも、党員の高齢化も進んでおり、党勢は顕著に衰退に向かっているのである(2019年9月4日掲載「日本共産党は生き残れるか」参照)。
共産党衰退の最大の原因
共産党衰退の最大の原因は、同党が理論的基礎と位置付ける「科学的社会主義」(「マルクス・レーニン主義」)が有する時代錯誤の陳腐性にある(「党規約2条」参照)。マルクス・レーニン主義とは、共産主義革命のための思想と行動であり、その核心は「暴力革命」と「プロレタリアート独裁」(「労働者階級独裁」)である(レーニン著「国家と革命」レーニン全集25巻参照)。
しかし、マルクス・レーニン主義の核心である「暴力革命」(「敵の出方論」を含む)と「プロレタリアート独裁」(「共産党一党独裁」)は、旧ソ連や中国、北朝鮮のような、発達した「議会制民主主義」を経験したことのない諸国は別として、欧米・日本のような、発達した「議会制民主主義」を経験した先進資本主義諸国では、労働者階級を含め、国民大多数の賛同は到底得られず適合しないことは明らかである(2020年2月16日掲載「共産党の敵の出方論は暴力革命である」参照)。
のみならず、理論的にも、共産党が金科玉条とするカール・マルクス著「資本論」の「資本主義が発達すればするほど労働者階級は貧しくなるため、資本家と労働者の階級闘争が激化し、社会主義革命は不可避である」との「窮乏化法則」が誤りであることも明らかである(「資本論第一巻24章7節資本主義的蓄積の歴史的傾向」参照)。
なぜなら、欧米・日本などの先進資本主義諸国では、資本主義の発達とともに、福祉国家化が進み、年金・医療・介護・各種社会保険など社会保障制度が充実し、労働者の名目賃金も年々上昇しているからである(2019年9月10日掲載「マルクス資本論の重大な理論的誤謬」、2020年5月4日掲載「破綻した日本共産党の先進国革命路線」参照)。
共産党が立憲民主党に接近する本当の理由
以上に述べた通り、共産党が立憲民主党に接近する本当の理由は、近年における共産党の顕著な党勢衰退がある。それとともに、共産党が、常に自民党の「補完勢力」であると蔑視する「日本維新の会」の大躍進に対する「改憲」等への危機感や、野党間における共産党の埋没感もあると言えよう。
反対に、立憲民主党が共産党と距離を置く理由は、与党側から「立憲共産党」などの反共攻撃を受け昨年の総選挙で敗北したことや、「日本維新の会」が大躍進し、今や世論調査等においても立憲の野党第一党としての地位を脅かす事態となっていることも大きい。
それに加え、6年前に共産党と政策合意をした「安保法制廃止」が、その後の米中対立の激化や、尖閣危機、台湾危機などの安全保障環境の激変により、妥当性を欠く事態となっていることも無視できないであろう。
政権獲得のため立憲は共産との「共闘」をやめよ
いずれにしても、政権を目指す立憲民主党にとっては、自衛隊、日米同盟をはじめ、国民の大多数が安心して政権を任せるに足りる「外交安全保障政策」が必要不可欠であることは多言を要しない。その意味で、立憲民主党は、「自衛隊廃止」「安保条約廃棄」を党綱領四に明記する共産党とは、1億2000万の日本国民の命にかかわる外交安全保障政策において妥協の余地はないのである。
今後、立憲民主党が広く国民から支持を集め、真摯に政権獲得を目指すならば、外交安全保障政策で妥協の余地がなく、そのうえ、「暴力革命」と「プロレタリア-ト独裁」の「マルクス・レーニン主義」(「科学的社会主義」)に固執する共産党との「共闘」はきっぱりとやめるべきである。