表題は20年12月9日、本欄に掲載された拙稿のものだ。あれから1年3ヵ月、いよいよこれ現実のものになりそうだ。筆者は解禁になる可能性が高いことの理由として、台湾のTPP加盟と米国産豚肉の輸入解禁の二つが引き金になると考え、記事にこう書いた。
謝(長廷台北駐日経済文化代表処代表の輸入を再開すべきとの)発言の理由の一つであるTPP加盟は、米国との自由貿易協定(FTA)締結と並ぶ蔡政権の悲願だ。これらは単に台湾経済の進展に寄与するにとどまらず、諸外国と外交交渉を行って条約を締結するという、共産中国とは別の一つの存在としての証にもなるからだ。
今般のコロナ禍にあっても、中国とその影響下にあるとされるWHOは、総会への台湾のオブザーバー参加さえ頑なに拒絶した。であれば、蔡政権が本年8月、添加剤(ラクトパミン)が入った餌で飼育された米国産の豚肉の輸入を来年1月1日に解禁すると発表して、米国の歓心を買うことも理解できる。
そして1年経った21年12月22日、「民主主義国家の鑑・台湾の国民投票を考察する(前編)」との見出し記事を書き、12月18日に実施された国民投票で米国産豚肉の輸入禁止の提案が以下の通り反対多数で否決され、蔡政権が進める米国産豚肉の輸入が解禁となったことを紹介した。
◇第18号(国民党の林為洲議員提案)・・「β作動薬のラクトパミンを含む豚肉および関連製品の輸入を全面的に禁止することに賛成か?」(投票率41.1%) 反対4,131,203票vs賛成3,936,554票(票差2.4%ポイント)
その福島など近県5県からの食品輸入は、18年11月の国民投票で国民党提案が通って以来、未だ禁止のままだが、蔡政権は解禁に前向きだ。国民投票結果は2年間覆せないが、既に3年経った。
今回継続となった米国産豚肉輸入は、米国との関係を重視する蔡政権が1月に行政令で解禁し、国民党が国民投票を提起した。蔡総統は16日、輸入禁止となれば、台湾のCPTPP加入に影響するだけでなく、国内経済や産業の対外取引などへの衝撃は免れないと訴えた(17日の「フォーカス台湾」)。
福島と近県の食品輸入も、豚肉輸入に倣う対応を執る可能性があると筆者は考える。佐藤正久自民党外交部会長は自身のツイートで、福島案件を24日に開催する日台与党2プラス2で議題にする旨公表した。是非とも輸入解禁して欲しい。
そして2月7日、台湾政府系メディア「フォーカス台湾」は「福島食品の禁輸解除、「国際標準合致なら支持」=游立法院長/台湾」との見出し記事を掲載した。
記事によれば、游錫堃(ゆうしゃくこん)台湾立法院長(国会議長に相当)は7日、台湾が2011年から続けている福島など日本5県産食品の禁輸措置の解除について、国際標準や科学的根拠に加え、民意も重要だとし、行政院(内閣)がこれらを考慮した上で輸入再開を決定した場合には、立法院として規制の撤廃を支持するべきだと述べた。
日本の福島等5県からの食品輸入解禁問題については、総統府の張惇涵報道官が6日、「政府の一貫した立場は、国民の健康・安全を原則とし、國際基準と科学的根拠に基づいて対応するという原則に変わりはない。具体的な進展があれば、政府関係機関が国民に報告し、説明する」と述べていた。
立法院の新会期がこの日から始まったことで、游氏が報道陣の取材に答えた格好だ。解禁に反対する野党国民党が議事の進行を妨害する懸念があるかとの質問については、意思疎通をなるべく図るとの姿勢を見せ、民意こそが立法院のよりどころになっていると述べている。
これに対し最大野党国民党の曽銘宗(そめいそう)立法院党団総招集人は7日、日本の福島等5県からの食品輸入解禁問題について、蔡英文総統がもしも民意を無視して解禁を強行すれば、国民党は一連の措置を打ち出すと表明した。
曽氏は「放射能汚染食品に反対することは、2018年の住民投票で779万人が賛成したことだ。蔡英文総統がもしも民意を無視して解禁を強行すれば、国民党は一連の措置を打ち出して国民の健康を守る」とも述べた。
同じ日、与党民進党の柯建銘立法院党団総招集人は、政府が一両日中に輸入解禁を宣言すると伝えられていることに対して最大野党国民党が解禁に反対を表明し、憲法改正審議などの議事をボイコットする可能性も示唆していることについて、以下のように述べて批判した。
福島等5県からの食品輸入解禁問題の政策決定は、総統と政府の経済・貿易担当部門が行うものであり、議会である立法院党団の総招集人の立場では、これを問いただす資格はない。ただし、現在、解禁していないのは台湾と中国大陸だけであり、これは回避することのできない問題だ。各政党が立場を表明するべき時に来ている。野党にも国家の団結、与野党協力の立場から、この問題を考えてもらいたい。もし国民党が反対、抗争を行うとしても、私たちは当然、尊重する。ただし、国民党の内部の意見が一致させてほしい。
柯氏の「食品輸入解禁問題の政策決定は、総統と政府の経済・貿易担当部門が行うもの」との発言は、米国のラクトパミンを含む豚肉の輸入解禁の場合と同様の作業で、福島等5県からの食品輸入が解禁できることを指している様だ。台湾国民には福島近県5県の食品も安全であることを理解願いたい。
時あたかも東日本大震災の関連で二つの出来事があった。一つは東京都知事として福島原発に都の消防隊を決死の覚悟で派遣し、その無事帰還の感謝の言葉に涙を添えた石原慎太郎氏の訃報、他は元首相5人による欧州委員長への「原発事故の影響で多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいる」との誤った情報発信だ。
被災者の方々には(多くの国民も)、彼我の差に慄然とし、どれだけ心を痛めていることか。だが輸入解禁という嬉しい知らせが、台湾から一足早い春風に乗って届くなら、元首相らによる憂さも少しは晴れるのではあるまいか。蔡総統にはぜひとも実現に向けて、もうひと頑張りしていただきたい。