日本の高齢者の生活はなぜ豊かにならないのか

本格的高齢化社会に入ったのは日本だけではなく、ここカナダも同様。この国でももちろん、収入層はピンキリだし、年金が高いわけでもありません。カナダ厚生年金は39年間積み上げて標準で月1200㌦強(約11万円)ですから日本でお勤めの方が積み上げる厚生年金受給者に比べればはるかに少ないといえます。

しかし、皆さん、それなりに楽しい生活を暮らしているのは年金という公的資金だけではなく、それ以外に個人が老後を自分の責任でうまく過ごせる選択肢と仕組みがいくつも備わっていることは理由にありそうです。

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日経ビジネスの特集に「低年金サバイバル あなたにも迫る老後格差」とあります。全体論としては年金問題に焦点を当てている力作特集ですが、私の感想は「年金に頼る」という他力本願一本足打法にも問題があるのだろうな、と思っています。記事中には女性、単身、非正規の厳しい生活実態も取り上げていますが、そこを中心軸に据えると全体のトーンが下がってしまい、主論から外れると思います。

ご批判は承知で申し上げると、物事を捉える時、平均とか中間値が基本的にあるべき視座ですが、この日経ビジネスの特集も含め、日本の多くの報道が偏差値的分布で46(=下から34%)や40(=下から16%)といった下位層を強調することで問題意識に偏重傾向が出やすくなります。(それが逆に有料紙面として記事のインパクトだといってしまえばそれは記事の価値そのものが遺棄しているともいえます。)

ではカナダではなぜ、老後を幸福に過ごせるのか、マネーの観点から概括します。一つには個人の裁量で積み上げる老齢年金がパワフルです。個人の収入を65歳以降に引き出せる老齢年金として貯蓄や運用をするとその応分額は当年の課税所得から控除されます。21年の最大積み上げ額は27830㌦(約260万円)です。私は独立した2004年頃、面白い仕組みだと思い、4-5年にわたり、これをやってみました。これは見事に税払いの先送り効果があり、助かっています。

ではこの老齢年金はどうやって運用するのか、といえば自分で定期預金でも株でも投資信託でも好きなところを選べます。いろいろばら撒きましたが、投資信託だけ見ると17年間で元本の3倍ぐらいに成長しています。ベストパフォーマンスではないですが、預金利息がカナダでも0.1%ぐらいしかつかないことを考えれば、放置プレーで勝手にインフレ率より上がってくれるのならこれほど楽なものはないと思っています。

2つ目に不動産価格の長期安定上昇はカナダのみならず、北米において老後資金問題が話題にならない最大の理由でした。バンクーバーは35年間上がりっぱなしです。北米はどの都市でも多少違いがあっても傾向は同じです。不動産の場合、長期保有であるため、指数関数的な上昇メリットが取れることが大きく、北米でインフレが話題になっても高齢者が困ったという国民的なレベルでの声はあまり出てきません。

3つ目に相続税がないか、あっても控除が大きいため、遺産を子供がしっかり引き継げることがあります。これは本ブログで過去に何度も書いているのでご承知の方も多いと思いますが、日本は生きているときに悪さをして脱税に成功しても死んだときは税務署が結局全て持っていく、と言われるほど相続税の縛りは厳しいのです。つまり、金持ちを作らず、親の資産は国家が召し上げるのが優先という考え方です。

4つ目に株式投資の魅力の違いがあります。株に長期投資をするという考え方は上述の不動産と同様、会社の成長と共に歩むという意味です。では株式投資でどうやって投資先の会社と一緒に長くいられるのか、といえば配当金なのです。優良会社は配当金を毎年の業績の結果に合わせて増やすところが主流です。決算発表の際、必ずと言ってよいほどあるのが配当金政策で「当期の業容を踏まえ、今期の配当は前期の〇%増の〇㌦とさせていただきます」と出ます。この配当増額こそ、長期投資家にとって最もおいしいところなのです。

配当が増えれば株価は連動して上がりやすくなります。とすれば配当金を取りながら長期的にキャピタルゲインもあるという一度で2度おいしい思いができるのです。日本でそこまでしっかりした配当政策を持った会社は少ないと思いますが、北米では今は配当をいかに増やすか、株主還元は極めて需要な課題です。

このように若い時からマネーについてしっかり理解し、人生というロングランを踏まえて計画した人は皆成功しています。また不動産を取得することでローンの支払いという観点から金銭感覚が磨かれることもあります。日本はそもそも住宅取得を諦めた人が増えるという逆行状態です。これでは日銭生活になりやすいともいえるのではないでしょうか?

日経ビジネスの記事には厳しい年金暮らしとしながら携帯で月12000円とあります。厳しいならなぜ、格安携帯にしないのか、ここが私にはわからないのです。光熱費に3万円ともありますが夏の冷房や冬の暖房の時は致し方ないとしてもそれ以外の時期はそんなに必要ないはずでそれを記事が盛っているのか、その人が節約をしないのか、いずれにせよ不自然な例だな、と思っています。

高齢者の生活を豊かにする仕組みも方法もあるはずです。できないことや厳しい実態ばかりを見ないで、どうやったら改善できるのか、視点を変えてみる必要はありそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月9日の記事より転載させていただきました。