トランプ前大統領に挑戦する猛者現る

陰りが見える影響力?

去年の10月時点では、共和党内でのトランプ全大統領の影響力は揺るがないものだと思われた。しかし、今年に入ってから、その影響力に若干陰りが見え始めている。

NBCニュースがこれまで実施してきた世論調査によると、過去二年間一貫して、共和党支持者は党への忠誠より、トランプ氏への忠誠をより感じると答えていた。しかし、1月後半の世論調査によると、忠誠を示す対象が逆転し、共和党支持者のうち56%が党への忠誠を強く感じると答え、トランプ氏への忠誠を感じる36%を大きく引き離している。トランプ氏への忠誠を誓う共和党支持者はここ数年で最も低い数字を記録している。

さらに、そのようなトランプ氏の存在感の低下を感知されてか、思わぬ方面からの攻撃にトランプ氏は直面している。矛先を向けた人物はフロリダ州知事のロン・デサンティス氏である。

トランプ氏とロン・デサンティス氏 Wikipediaより

2018年に彼が州議会議員から州知事への鞍替えをするために、共和党予備選に出馬をした段階では国政レベルでは全くの無名であった。しかし、トランプ氏が下馬評を無視して、デサンティス氏の推薦を表明してからは、一躍フロリダ州の共和党員の一番人気になり、予備選を圧勝した。そして、そのまま僅差ではあったものの知事選に勝利を収めた。そのような経緯もあって、彼はトランプ氏には大きな借りがある。

スターの誕生

だが、それ以降のデサンティス氏の飛躍は誰も予想しないものであった。トランプ氏の七光りを背景に、彼は知事としての任期をフロリダ州の共和党員の85%という高い数字でスタートさせた。

さらに、トランプ氏退任後は反バイデン政権、反リベラルを鮮明にすることで、共和党のニューリーダーとして目されるようになった。例えば、彼はワクチン接種義務化とマスク義務化の禁止を打ち出し、自由放任主義的なコロナ対策を打ち出している。

そして、物議を醸している批判的人種論が学校で教えられることを批判し、自虐的な教育を否定する保守層にアピールする措置も実施している。さらに、彼は政府のコロナ対策に影響を与えており、且つ共和党からの批判が集中するファウチ博士への口撃もこれまで続けている。ファウチ博士を揶揄して、コロナ規制によって自由な行動が規制される現状を「ファウチ的なディストピア」と断罪している。

そのような、共和党の草の根への働きかけが功を奏してか、共和党の擬似予備選での支持率が昨年度と比べて上昇傾向にある。昨年の11月頃では、その支持率は10%に満たなかったが、今年に入ってからは20%前後の支持率を維持している。また、トランプ氏を除いた予備選ではトランプ氏の息子トランプ・ジュニア氏の猛攻を受けながらも首位を確保するようになってきている。

そして、もはやトランプ氏の後ろ盾を得ずとも、独り立ちできるという確信からか、トランプ氏を暗に批判する発言をするようになった。デサンティス氏はとあるインタビューで悔やんでいることの一つにトランプ政権からのロックダウン要請を拒否しなかったことだと述べた。

また、自らの潜在的な脅威になると認識してか、共和党支持者のうちの熱狂的な層(反ワクチン層)に配慮してワクチンを接種したかを明確にしていないデサンティス氏などの政治家を意識して、トランプ氏は彼らを「憶病者」だと批判している。

デサンティス氏も破壊される?

さらにトランプ氏を苛立たせているのが、デサンティス氏がトランプ氏と予備選で対決することを明確にしていないことだ。続々と大物の共和党議員がトランプ氏の2024年大統領選の出馬を支持する中、デサンティス氏はその流れに同調していない。

それを受けて、デサンティス氏はトランプ氏を押しのけて、大統領の座を虎視眈々と狙っているのではないかという推測がされている。

もし、彼がトランプ氏と雌雄を決することになれば、2016年に完膚なきまで叩きのめされた前フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏やフロリダ州選出の現上院議員のマルコ・ルビオ氏のような末路を辿るのか。筆者は(2024年大統領選までだいぶ時間があり恐縮だが)デサンティス氏がそう簡単に倒される人材ではないと考える。

デサンティス氏の強みは共和党の支持層が誰なのかを理解しており、彼が実施してきた保守的な政策や言動はそれを如実に示している。伝統的な共和党の主義主張に固執し、民主党に宥和的だという印象から脱却できなかった、ブッシュ氏やルビオ氏にはなかった特徴である。

果たしてデサンティス氏はトランプ氏の対抗馬となりうる存在になるのか。影響力を強める共和党の二大巨頭の行方に目が離せない。