国債バブルって何?

池田 信夫

世界的にインフレになる中で、各国の中央銀行が金利を引き上げる動きが出ていますが、日銀は国債を買い支える指し値オペを宣言しました。これはバブル状態になっている国債を買い支えようということでしょうが、よい子のみなさんにはむずかしいので簡単に解説しましょう。

Q1. バブルって何ですか?

バブルの厳密な定義はありませんが、正しい価格より高い資産価格が長期間にわたって続く資産インフレのことをいいます。

1980年代の日本の不動産バブル、90年代のアメリカのITバブル、2000年代のサブプライムバブルなどが有名です。普通に貸しても利益の出ない不動産や利益の出ていない会社の株価が将来上がることを期待して投資が集まったのです。

Q2. 今はバブルなんでしょうか?

日経平均株価は2万7000円台で、まだ1989年末の史上最高値3万8915円の7割にもなりませんが、アメリカのダウ平均株価は、今年初めに3万6800ドルの史上最高値をつけました。これはバブルといっていいんじゃないでしょうか。

でもバブルの最中にはいつも「これが正しい価格だ」と正当化する人が出てきます。日本の不動産バブルのときは、株価を地価で割った「Qレシオ」を日経新聞や証券会社がもてはやし、「土地をもっている重厚長大企業は割安だ」とバブルをあおりました。これは分母の地価が上がったためで、地価が暴落すると株価も下がりました。

Q3. バブルは悪いことなんですか?

必ずしも悪いことではありません。1970年代のPCバブルではマイクロソフトやアップルが生まれ、ITバブルではアマゾンやグーグルが生まれました。短期的には収益の上がらないベンチャー企業にお金が集まれば、新しい産業ができることもあります。

バブルはゆるやかに正常化するなら問題ありません。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は政策金利を上げ、インフレやバブルをソフトランディングさせようとしているようにみえます。

Q4. バブルが崩壊すると何が困るんですか?

短期間に資産価格が暴落すると、会社や個人が破産しますが、株式のバブルはあまり尾を引きません。ITバブルのように個人投資家が株式を買った場合には、会社がつぶれて株式が紙切れになるだけだから、自己責任であきらめがつくのです。

問題は銀行が債券を買った場合です。銀行は預金者から元本保証のお金を預かっているので、銀行のもっている不動産や国債が値下がりすると、預金を返せなくなります。それを知った預金者が、銀行からいっせいに預金をおろす取り付けが起こると、銀行がお金を返せなくなって金融危機になるのです。

1997年に山一証券が自主廃業したあと起こった金融危機や、2008年9月のリーマンショックなどがその例です。こういうパニックで銀行がつぶれると、企業間の取引ができなくなり、経済全体に大きな影響が出て、不況が長く続きます。

Q5. 日本の国債はバブルなんですか?

長期金利は株価のように派手に動かないので目立ちませんが、10年物国債の金利は0.2%を超えました。これは価格が下がったということですが、国債先物の価格は1990年の87円から最近の160円台までほぼ2倍になり、今は史上最高値の水準です。

日本国債先物(10年物)の価格(S&P)

2010年代に日銀が量的緩和でたくさん国債を買ったのは、結果的には国債の買い支えでした。国債価格は最近はゆるやかに下がっていますが、それを日銀が買い支えると宣言したわけです。

Q6. 国債バブルは崩壊するんでしょうか?

日銀は10年物国債の金利が0.25%以上にならないように買い支えるので、価格がそれ以下になる心配は当面ないと思いますが、長期的にはどうなるかわかりません。金利は日銀がコントロールできるという人がいますが、それは短期の政策金利で、長期金利は市場で決まります。

長短金利の金利差を調節するYCC(イールドカーブ・コントロール)も、市場を誘導しているだけなので、日銀のいうことを聞かない外資系のヘッジファンドが、国債を大量に空売りしたこともあります。

Q7. 空売りって何ですか?

国債先物を証券会社から借りてまず売り、一定期間たったら買い戻して代金を精算する信用取引です。たとえば160円の国債を160億円分借りて市場で売り、159円に値下がりしたとき買い戻すと、売り値から買い値を引いた1億円もうかります。普通の取引とは逆に値下がりするともうかる(値上がりすると損する)ので、大量に空売りして値を下げて買い戻すのです。

信用取引は差額を決済するだけなので、少ない資金で大きなリスクを取ることができます。ヘッジファンドの資金量は日銀には勝てませんが、こういうレバレッジ(借金)で自己資金の何倍も買うことができます。最低価格で無制限に買う日銀の指し値オペは、そういう投機筋の利益を保証する結果になります。

Q8. 日銀が売り負けることもあるんですか?

今まではヘッジファンドの日本国債空売りは失敗しましたが、それはゼロ金利・ゼロインフレという地合いが変わらなかったからです。世界的に金利上昇の流れができると、他の投機筋も追随して円(日本国債)の空売りをかけるかもしれません。

そういう事件は、昔の固定為替相場のときはよくありました。1992年にイングランド銀行がジョージ・ソロスの空売りに負けてポンド切り下げに追い込まれ、固定相場のERM(欧州為替メカニズム)から離脱した事件は有名です。変動相場制では、円が下がれば為替投機は収まりますが、国債の相場が大きく崩れるおそれがあります。

Q9. でも今回はまだ極端な円売りは起きてませんね?

短期的にはウクライナ危機の影響で株価が下がり、相対的に安全な国債が買われているようですが、長い目でみるとアメリカの1月の消費者物価指数が7.5%、日本の企業物価指数も8.6%という異常な伸びになる中で、世界の金利が上がることは避けられません。

FRBは3月にも政策金利を0.5%に上げるといわれています。長期金利はすでに2%を超えたので、日銀が長期金利を0.25%でおさえると日米の金利差が大きくなり、円安になるでしょう。金利の安い円を借りて高いドル資産を買う流れが強まるからです。

Q10. インフレは日銀の黒田総裁の目標じゃないんですか?

黒田さんの考えていたのは、日銀がお金をたくさん供給したら国民の「インフレ期待」が高まって物価が上がり、円安で輸出が増えて景気がよくなるというシナリオでしたが、インフレ期待は起こらなかった。2%のインフレ目標を知っている人は国民の2割しかいないからです。

円安になっても、輸出は増えません。去年は貿易赤字(輸入が輸出より多い)でした。日本の大企業は、海外生産して海外で売るようになったからです。かつては輸出企業が円安を歓迎したのですが、今はそういう声はほとんど聞かれません。

Q11. これから「悪い円安」になるんでしょうか?

少なくとも今年いっぱいは、円安の流れは変わらないでしょう。今は1ドル=116円前後ですが、120円を超えると思います。原油や天然ガスなどの資源価格も上がり、4月から多くの値上げが予定されているので、インフレ率は2%を超えるでしょう。

でも日銀は金利を上げられません。銀行は今まで黒田さんの買い支えを信じて国債を大量に買ってきたので、その期待を裏切るとパニックになって国債が売られ、バブルが崩壊して信用不安が起こるからです。インフレ率が2%を超えても、黒田さんは「一時的な現象だ」といって金利を上げないでしょう。

しかし7月に参議院選挙をひかえた岸田政権が、政治的に危険なインフレを放置するとは思えないので、利上げ圧力が首相官邸から強まるでしょう。あとは政治の問題ですが、はっきりしているのは、インフレを止める手段は日銀がもっているということです。インフレが急激に加速すると、最後の手段としては総裁更迭もあるかもしれません。