独大学「孔子学院の閉鎖は難しい」?

野党時代に批判してきた問題に、政権入りすると豹変する政党、政治家はどの国の政界でも見られる。ドイツ初の3政党連立・ショルツ政権は社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)から成り立っている。与党3党の顔ぶれをみれば、政治信条や政策が180度違う分野がある。だから、政権を維持するためには、3党は他の連立政党に譲歩しなければならないことが出てくる。

北京冬季五輪大会閉会式に臨む習近平国家主席(2022年2月20日、新華社)

前向上が長くなった。ドイツのショルツ政権のベティナ・シュタルク・ヴァツィンガー教育研究相(FDP)が党内で中国共産党政権の情報機関「孔子学院」の即閉鎖を強く要求してきたイェンス・ブランデンブルク議員を重要ポストに抜擢したと聞いた時、当方は、「これでドイツでも『孔子学院』は閉鎖に追い込まれるだろう」と考えた。同議員は、「ドイツの学校に対する『孔子学院』の影響を無視できない。無害な茶会や言語コースの背後には権威主義政権の冷たいプロパガンダが隠されている」と発言するなど、FDPでは随一、中国共産党の動向に精通しているからだ。

しかし、独週刊誌シュピーゲル(2022年2月19日号)は「DerlangeArmPekings」という記事を掲載し、「孔子学院」の閉鎖は容易ではないとしているのだ。「孔子学院」への評価が変わったわけではない。好意的にいえば、問題の深刻さが分かった、というべきかもしれない。北京からの政治圧力だけではなく、閉鎖したくでもできない財政事情が「孔子学院」をオープンするドイツ大学内にあるからだ。

同誌によると、ドイツには19カ所の「孔子学院」が存在する。そして中国とドイツ両国の大学の間に、ほぼ1400件の協力関係が締結されている。ドイツで4万人以上の中国人学生が自然科学、人文科学の学科で学び、約3000人の中国人学者、科学者がドイツの大学や研究所に派遣されている。そして「孔子学院」があるドイツの大学では中国側の財政支援に依存しているケースがほとんどだ……といった事情がドイツの大学側にある。

ちなみに、欧州ではスウェーデンで全ての大学で「孔子学院」は閉鎖された。オランダやスイスでも多数が閉じられている。米国の場合、「孔子学院」の85%が閉鎖済みという。

ベルリンの「メルカトル中国研究所」のカティア・ドリンハウゼン氏は、「習近平氏が2013年、中国共産党のトップに就任して以来、学問の自由は一層制限されてきた。中国指導者への批判や同国少数派民族の弾圧問題などはタブーとなった。その結果、『孔子学院』の活動範囲も著しく監視下に置かれている」という。

シュピーゲル誌は昨年11月、デュースブルク・エッセン大学とハノーバー大学の「孔子学院」で予定されていたドイツ人作家らの著書『習近平伝』の2回のリモート読書会に対し、駐独中国大使館関係者が著書の内容を不服として抗議するなど、政治的圧力を行使してきたと報じたばかりだ。

「孔子学院」は、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関だ。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。

「孔子学院」では、中国新疆ウイグル自治区での民族抹殺計画、法輪功信者への強制臓器摘出問題、宗教団体に対する迫害などについては学習教材から外されている。中国の現状を正しく紹介する教育機関ではなく、中国共産党政権の思想をプロパガンダする機関であることが一目瞭然だ。中国共産党政権は海外ハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を推進中だが、「孔子学院」は海外知識人をオルグする前線拠点というわけだ。

世界の目は今、ロシア軍のウクライナ侵攻状況に注がれているが、台湾侵攻を計画している中国共産党は「Xデー」に備え着実にその影響力を拡大してきている。欧州の盟主・ドイツ国内での「孔子学院」の活動はそのことを端的に示している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。