ロシアのウクライナへの侵攻はプーチン政権そのものの崩壊を早める結果を生むことになる。これから18カ月以内にそれが証明されるであろう。
ウクライナのフィンランド化
嘗てキッシンジャー元国務長官がウクライナをEU圏に加えることは対ロシアとの関係において危険であると指摘し、ウクライナのフィンランド化を提唱していた。更に、西ヨーロッパの経済圏に加えるとしてもNATOへの加盟は回避すべきだと言及していた。当時のキッシンジャー氏の指摘はソビエト復活を目指すプーチン大統領の胸中を察したかのようであった。
プーチン大統領はNATOは1977年まで後戻りすべきだと主張している。即ち、旧ソビエトを構成していた連邦国とワルシャワ条約機構に加盟していた国々の加盟を認める前まで戻るべきだという考えである。1977年以降NATOに加盟した国を列挙すると、エストニア、レトニア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ソロベニア、クロアチア、モンテネグロ、アルバニア、北マケドニア、ブルガリアの14ヶ国である。
ウクライナの親ロシア派内でもロシア離れが起きている
ロシアがクリミアを併合した2014年以降のウクライナは次第にEU圏そしてNATOへの加盟への意向を強めて行った。同年の世論調査では、NATOへの加盟を望んでいたウクライナ人は全体の40-45%であったのが、現在のそれは68%まで上昇している。
親ロシア派の有権者の間でもロシア支持派は25-35%まで減少している。
それを如実に示すかのように、嘗てウクライナの首相そして大統領を歴任した親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコビッチ氏が率いていた地方党は10年以上前まで185議席を持っていたのが、今では44議席まで減少している。(2月21日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)。
ウクライナをロシア領土に復帰させる使命を背負っていると感じているプーチン氏にとってウクライナの市民の間で日増しにロシア離れが顕著になっていることに脅威を感じていたのである。
そして、仮にウクライナがNATOに加盟すればクリミアを取り戻そうとするであろうという懸念もしていた。
NATOと直接対峙する可能性は薄い
そのような背景があっての今回のウクライナ侵攻である。勿論、狙いは首都のキエフを攻略してロシア寄りの政権を樹立させることにある。プーチン氏はウクライナ征服のあと同国と国境を接するルーマニア、ハンガリー、スロベキア、ポーランドに侵入するのかという疑問が湧く。そうなるとなるとNATO加盟国へ侵攻しようとすることを意味することになり、その可能性は恐らくないであろう。仮にそうなればプーチン氏のヒットラーの再現となるし、NATO軍との交戦も覚悟せねばならない。
ロシア国民の間でプーチン氏への批判は強まって来る
しかし、今回の侵攻によるEUからの制裁の影響や人権を無視した今回の暴挙から人道的な意味でもプーチン政権の欧米からの孤立は免れないであろう。これまでEUにおいて親ロシア派のハンガリーのオルバーン首相でさえもロシアへの今回の制裁に賛成を表明した。
インターネットの時代にロシア国民の前にウクライナで起きている出来事が刻々と情報として伝わっている。ウクライナというロシアにとって兄弟国家を尊厳することもなく、人道面での尊重もない一方的なロシア軍の乱暴な攻撃が逐一情報としてロシア国民の前に披露されている。ロシアの国民は今後反プーチン政権への結束を高めることになるであろう。
そのような動きは反体制派指導者ナワリヌイ氏を支持する動きが大規模な抗議デモに発展したことで証明済みだ。今回はその再現の始まりであるかのように、早速反戦デモが起きた。また、軍人の間でもウクライナへの侵攻に反対しているグループがいることも明らかになっている。今回のウクライナ侵攻でロシア国内でもプーチン大統領への批判が強まって来るはずだ。
ロシア経済を支えている天然ガスへのEU加盟国の依存度は今のところ41%である。スペインの場合はアルジェリアからの輸入依存度が60%と高い。これを契機にEU加盟国の間でロシアからの天然ガスの依存度を次第に減少させて行くはずだ。
プーチン大統領政権がこの先18カ月で崩壊することはない。しかし、今回のウクライナへの侵攻を契機にこの先、同期間内にプーチン大統領に陰りが必ず現れるはずである。それが近い将来彼の政権の終焉を迎える要因になるであろう。