金は、手数料率が気にならないほど長期にわたって保有すべき安全資産です

こんにちは。

ウクライナ情勢も緊迫し、いよいよ安全資産としての金の価値が重視される時代に入ってきたと思います。

そこで今日は、金取引関連のご質問にお答えしようと思います。

ご質問1:僕は先物取引なんて危なっかしくて近づきたくない、という人間です。しかし、わざわざ店で金を買って手数料を取られるのは嫌だとも思っています。

先物取引で金(しかも現物)を手に入れるためには、どこの店、と言うか組織が最適ですか?

お答え1:もちろん、先物を買っておいて期日が来たら現物価格との差額を決済するのではなく、現物を引き取ることは、商品取引業者として登録しているところなら、一応どこでもできるはずです。

ただ、買い値と売り値とのあいだの非常に薄いサヤを抜くだけで手数料はゼロとか、ほんのわずかという業者は、顧客にひんぱんに取引をさせているからこそ、その薄利でやっていけるのだということも考慮に入れておく必要があります。

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金現物は手数料が高く見えるが……

金・銀・プラチナなどの貴金属取引は、高頻度・高レバレッジ取引全盛の外国為替市場はもちろんのこと、株や債券と比べても、非常に取引頻度の低い金融商品でして、とくに金にはその特徴が色濃く出ています。

だからこそ、金はほかの金融商品に比べて価格変動性(Volatility)がとても低いのです。

価格変動性が低いというと、大幅な値動きがないとお考えになる方が多いのですが、決してそうではありません

むしろ、長期的に見ると延々と上げ続けたり、延々と下げ続けたりします。ただ、上げるときも下げるときもゆるやかな弧を描くことが多く、ジグザグが極端に少ないので価格変動性は低くなっているのです。

そのへんの事情は、当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンが「米ドルの金兌換停止」を宣言した1970年代初頭からの日本円、米ドルでの金価格推移でご確認いただきたいと思います。


これが日本円での金価格の長期推移でして、1975年から直近の高値まで約4倍にとどまっています


こちらは、米ドルの金価格です。同じく1975年から直近の高値までは約10倍になっています。なぜ、日本円のほうが金の値上がり率が低いかと言いますと、もちろん円の価値が上がった分だけ、諸外国より安く買えているわけです。第二次世界大戦後は1ドル=360円の固定相場から出発して、一時は80円まで円高が進み、その後円安に振れたと言っても現状で114~116円の範囲で推移しています。もし、今後の世界経済激動の中で円安が進むとお考えでしたら、今のうちに金を買っておくことは、円の購買力低下を埋め合わせる手段になります。私は、今後の世界経済で日本は中国はもちろんのこと、アメリカ、西欧諸国よりずっと健全な歩みをすると思っていますので、買い急ぐ必要はあまり感じていません。その点については、また別の機会に詳しく書かせていただきます。先物を買って現引きをするのが、低コストではないかとのご質問にもかかわってくることですが、グラフ両端の縦軸の単位にご注目ください。右端はよく見る1トロイオンス(約31グラム)当たりの価格ですが、左端は1キロ当たりの価格となっています。重要なポイントは、金先物の1枚という最小取引単位は1キロ、つまり直近の価格で言えばほぼ正確に700万円になることです。

もちろん、必要最低額の証拠金15万円を拠出して、残りは信用(借金)でまかなうこともできますが、相場観が外れたときの損失は莫大なものとなります。

なお、商品取引業者の多くが貴金属についてはミニ先物と称して、最小取引単位を100グラムにしてくれるようですが、その分売り値と買い値とのあいだの利幅は厚くしているはずです。

金は信用買いやカラ売りは危険な商品

私は専業で相場を見ていられるわけでもない個人投資家が信用買いやカラ売りをすることは、一般論として危険だと思っています。

中でも金は、一見値動きがゆるやかでリスクの少ない商品のようですが、上がったきりとか下がったきりとかの一方通行になりやすいという大きな不安要因を抱えています

値動きが一方通行になりがちな金融資産は、信用買いやカラ売りなどの時間との勝負をするにはとくに不向きです。

さて、なぜ金の値動きは一方通行になりやすいのでしょうか。

それは、金の最大の供給源はどこかというと、中国でも、アメリカでも、カナダでも、オーストラリアでも、南アフリカ共和国でもなく、金を資産として蓄積してきた方々による放出(リサイクル)だからです。

金を蓄積されてきた方々の大部分は、できることなら取り崩したくないと思っていらっしゃいます。ですが、何らかの理由で現金を必要とするときに手持ちの金を放出される、その量が世界最大の産金国の生産量より多いのです。

つまり、必要とされる現金を入手できる分だけ金をお売りになるわけです。

ふつうの商品なら、価格が上がれば供給量は増え、価格が下がれば供給量は減ります。一方で価格が上がれば需要量は減り、価格が下がれば需要量は増えます

値上がりの次には値下がり、値下がりの次には値上がりというジグザグの動きをするわけです。

こうして、ふつうの商品には均衡点に戻ろうとする力が自然に働くので、その時々の価格はひんぱんにジグザグをくり返しながらも、あまり長期的な均衡点から逸脱することはありません

ところが、供給者が必要な現金を手に入れるために売る金のような商品の場合、価格が上がればあまり大量に売らずに済み、価格が下がれば大量に売らなければなりません

そうすると、いったん価格が上がりはじめると供給量が減ってどんどん上がり続け、いったん下がりはじめると供給量が増えてどんどん下がり続ける、つまりあまりジグザグのないゆるやかなカーブの一方通行になりがちです。

このへんについては、『資産形成も防衛もやはり金(GOLD)だ』に、もう少し細かく論証しておきましたので、ご興味がおありでしたらお読みください。

私が、金取引はできるだけ頻度を少なくすべきだと考える最大の理由もそこにあります。

小さな波動ごとに高値で売って利益を確定し、その後の押し目(短期的な下げ局面)を拾って、また売ってといった手法でひんぱんに取引をしようとしても、なかなか注文どおりに山や谷が交互に訪れてくれないからです。

そこでご質問の趣旨に戻りますと、金は一度買ったら持っていることも忘れるぐらい長期保有し、取引頻度を極限まで絞りこむのが正解だと思います。

短期取引をくり返すには向きません。その反面、絶対にデフォールトしない資産であり、だれの裏付けもなく、金自体の価値が経済発展が続くかぎり上昇しつづけるという、危機的な経済情勢ではほかの金融資産には代えがたい有利さも持っています。

ふつうの貴金属商から買うときの手数料率が高く見えたとしても、何年かに1回、あるいは何十年かに1回取引するだけだとしたら、年率換算した手数料は微々たるものに収まるでしょう。

ご質問2:店頭で買うなら田中貴金属などありますし、純金積み立てならどこでもやってますよね。しかし、純金積み立てってかつての「豊田商事」みたいで怖くありません

お答え2:先ほどの金の購入コストは先物を買って現引きがいちばん安いのではというご質問も、金を根拠資産とした仕組み商品全体がうさん臭いのではというご質問も、アメリカでよく耳にする金取引に関する懸念と一脈通ずるところがあります。

アメリカは金取引では後進国です

そして、非常に残念なことに、アメリカではこの懸念が的中するような事例がけっこう見受けられます。

アメリカ国民は、1930年代半ばから70年代末まで金を保有したり売買したりすることを大統領令によって禁止されていました

その結果、金を売買する貴金属商という事業分野自体が今でも未発達です。かなり最近まで小売貴金属商は金については宝飾品だけしか扱えなかったので、とくに地金や延べ棒やコインの小口取引を歓迎する企業がほとんどありませんでした

小規模な取引しかできない個人にとっては、大口企業顧客の片手間にいやいやながら応対する大手金属商に不愉快な思いをさせられるか、もっとひどいときにはうさん臭い新興業者の詐欺に引っかかるかということが多かったわけです。

そこで、いっそのこと貴金属商から現物を買うより先物を買って現引きをしたほうが、安上がりだし、不愉快な思いもしないで済むとおっしゃる方が多いのでしょう。

日本の場合、1973年までは金の輸入は自由ではなく許可制でしたが、アメリカのように全国民が金を持つことも売買することも禁じられるといったきびしい制約のもとに置かれたことはありません

さすがに第二次世界大戦中は貴金属ばかりか、ほとんどありとあらゆる金属を供出させられました。ただ、取り締まりは意外にゆるやかで、頑張ってひそかに持ちつづけた方もかなりいらっしゃるようです。

そして、日本でもヨーロッパ諸国ほど長い歴史はありませんが、きちんとした老舗で社会的信用もある貴金属商が全国的な支店網を構築しております。

現在も営業を続けている貴金属地金商としてはおそらく日本最古の田中貴金属工業は、1885年(明治18年)創業で現在も地金商としては日本最大級で、技術力が高く評価されている貴金属加工部門も持っています。

怪しげな商品を売買していたのでは、とうていこんなに長く保つはずがない社歴と言えるでしょう。

なお、日本で貴金属の販売・買い取りを行っている業者には、田中貴金属のような地金商、大手精錬会社や大手商社の貴金属販売部門、商品取引会社といったグループがあります。

こうしたグループごとの特徴、金を根拠資産としたさまざまな金融商品の有利不利、税制上の注意点などについては、植田進さんのお書きになった『不測の事態に強い金投資 資産防衛&資産形成のすべて』の第6章「金投資の基礎知識」がとても親切で明快です。


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。