まだまだ続く東芝劇場

東芝は3月1日に綱川智社長兼CEOを退任とし、島田太郎執行役上席常務が後任に就くと発表しました。昨年4月に三井住友銀行出身の車谷暢昭氏が辞任という形の「放り投げ」をしたため、そもそもの混乱の一因を作り、指導者というより調整能力に長けていた綱川氏がリリーフ、返り咲き登板となっていました。

東芝HPより 東芝本社

ところがこれがロングリリーフとなり、その間にうるさい株主達はことあるごとに「反対!」を唱える中、ドラスティックな会社の3分割案を打ち出します。私はこれは外国人株主にはポイントずれだろうなと直感しましたが、案の定「反対!」となります。私はそれ以上に綱川氏が株主のボイスをほとんどコントロールできなかった統治能力の欠如は東芝にとって別の意味での悲劇だったと思っています。

前任の車谷氏が剛腕型で自信満々で登場したものの3回持たず大量失点の降板でした。車谷氏とは真逆の性格の綱川氏には大層な負担だったと思います。

新任の島田氏の実力についてはよくわかりません。55歳、新明和工業からシーメンス(日本)をへて一時シーメンスのドイツ勤務をして東芝には18年10月入社ですのである意味、過去のしがらみなどに穢れていない外の人間だと認識しています。ただ、各種情報をさっと見る限り、島田氏は技術者で特に航空関係が強い方とお見受けします。とすれば3年半前にヘッドハンティングされて東芝に入り、技術畑でどっぷり浸かれると思っていたのにいつの間にか前線のとんでもない席に座らされてたという感じではないでしょうか?察するに綱川氏から「あなたしかいない」と言われたのだろうと思います。

島田氏はしかし、現時点では暫定処置で6月の株主総会で正式決定するまでの試用期間だとも考えています。東芝の場合、鬼門ともいえる株主総会での役員選任否決というどんでん返しが懸念されます。よって島田氏はまずは株主との対話を開始することからだと思いますが、上席常務の役職だったわけですから会社方針と違う独自色も出しにくいかもしれません。

一方、3月24日に東芝が現状掲げる「会社2分割案」について臨時株主総会での決議が行われます。2分割とは半導体(=キオクシア)とインフラを本体とし、ディバイス事業をスピンアウトさせるという案です。もともとは3分割案でスタートしたものの株主からの反対を受け、2分割案に変更したものです。では、そもそもなぜ、会社を分割しなくてはいけないのか、この焦点が薄れてきてしまっています。

端的に言えば株主が「こんな株価じゃだめだ」と言っているわけです。このタイミングで社長交代したのもこの臨時株主総会対策でしょう。

昨日このブログで「ステークホールダー資本主義」の話題を振りました。それまでの株主資本主義から会社にかかわるあらゆる利害関係者の便益を考える時代に変わったのです。事実、島田社長も記者会見で「全てのステークホルダーの意見を真摯に受け止め、全てのオプションを検討したい」(日経)と述べています。しかしながら部外者である私にはどう見ても株主資本主義でしかなく、従業員や取引先を含むステークホールダーの意思は2の次、3の次にしか見えないのです。

株主の最大の興味は半導体のキオクシアです。キオクシアは株主からの強い圧力で売却を迫られています。しかも「破格の高値」で。このディール、結局誰が得するのでしょうか?ハゲタカがうまいところを全部かっさらってバラバラになった名門企業を遠くに見ながら「うまくやったな」というのでしょうか?

もちろん、ハゲタカは悪いことばかりではありません。慢心と保身で身動き取れなくなった経営を力づくで動かすという点では正しい部分もあります。が、彼らの最終目的はそれによる応分の分け前なのです。私も30年間、北米で目玉に$マークがついたごっつい連中と対峙しています。ちょっと気を許せばいつの間にか全部持っていかれる、そんな切った張ったの世界です。

ではお前ならどうするのか、と言われれば私は分割はしないで一旦非上場にします。かつて非上場にしたら資本市場から資金調達ができないといわれましたが、それより銀行都合の部分と「東証一部上場」という看板が欲しかっただけだと思っています。ならば、非上場で3年ぐらいかけて徹底的に会社の成長戦略を磨き上げ、株主には3年間、黙っていろと言います。その間に会社のバリューを2倍にする、それが社長のコミットメントだ、とすればどうでしょう?つまり、社長になるべき人は命を懸ける、そして自分に後ろに戻れない使命を課す、これしかないのです。

もしも日本の銀行団がぐずぐずいうなら、株主に「なら、海外から日本の銀行に負けない条件で資金調達の紹介をせよ。君たちも応分の期待をするなら努力せよ」と言ってみればよいのです。株主と呉越同舟、そして株主にも働いてもらう、これしかないと思います。

東芝を救うには尋常な考え方では切り抜けられません。株主をあっと言わせる知恵を編み出さなければ東芝劇場はまだまだ何年も続くことになるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月2日の記事より転載させていただきました。